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第1話「食欲の魔女をストロングなチューハイでマーヴェラスさせた話」3/3

「えっと、私の名前は宮國通子です。ツッコって呼んでください。もう一本あるんですけど……飲みますか?」私はパワーヌルのシークワーサー味を差し出した。


 ――何この人、新手の集り!? ちょっと目もイッてるし……怖いから正直に従おう……


「ありがとう……ところでこれはどう開ければいいのかな?」エスルスは缶を受け取ると下からのぞき込んだり、角度を変えたりした。


「缶の上にあるプルタブを手前に引けば開きますよ。ちょっと力がいりますけど」私は自分の缶を見せながらジェスチャーで伝えた。


 ――そういうキャラづくりなの!? それともマジで知らない……なんてことないよね?


「ああ……こうか……なるほど……なかなか合理的な形をしているね……」エスルスはプルタブを手前に引くとカシュッ! という音を立てた。


 次の瞬間、勢いよくあふれだした。


「うわわわわ……この飲み物どうなってるんだい!? いきなりあふれたんだけど」エスルスは口で受け止めた。目を見開いた。


「あ……ごめんなさい……さっき歩道橋跨いだり戻ったりしたときに振っちゃったかも」私は頭を下げた。


 ――あちゃーやっちゃった。あの民族衣装……ディアンドルだっけ? って汚れたらクリーニング大変そう……


 エスルスは静かにあふれ出る泡を飲んでいた。そして、顔を上に向け、缶を口にくわえ、両手を左右に開いたまま、まるで空に向かって乾杯するようにのけぞった。そのままゴクゴクゴクとパワーヌルの中身を器用に飲み干していく。


 空になった缶を口から放すと地面にカンッ! カラカラカラと音が響いた。


美味(マーヴェラス)ッ! 嗚呼(ああ)ッ! 何という清涼感! 柑橘の爽快な酸味が脳髄を直撃するゥッ! 強烈な炭酸の波濤(はとう)に溺れ、高濃度のアルコールが思考を白濁させる快感ンンッ! これぞ正しく、飲む者の魂を「ヴァルハラ」へと誘う至高の聖水であるならば! ボクの知性は今、未知なる美味への歓喜にィッ! 激しく共鳴(レゾナン)ッツ! しているぞォッ!!』


「ちょっと私も好きだけど……そこまで喜ばれると正直退くんですけど……」私は自分が持っているパワーヌルを飲み干した。


「キミ……他に何か美味しいものはないのか? ボクはお腹がとても空いていてね……この世界のものをぜひ……他にも食べさせてほしいんだ。味わわせてほしいんだ……」エスルスは、ぎらついた目をしながら私を見つめてきた。


「あー……いいっすよ。もう別に……家まで案内します」


 ――なんか情報量多くてめんどくさくなっちゃったー! どうせ祖父の屋敷は広いし、クビになる話よりまだマシな問題だぁッ! もうどうにでもな~れッ! 


 私はパワーヌルに頭をやられながら、食欲の魔女と名乗る民族衣装姿の銀髪の美女を連れて自宅に向かい歩いて行った。


 食欲の魔女は『僥倖グリューーーーーックスファルッツ!』と、両手を天高く掲げ、まるでワルツでも踊るかのようなくるくると回りながら軽快でオーバーなステップを踏みながら私の後ろをついてきた。

 =============【作者より】

 読んでいただきありがとうございました。


 ブラック企業×飯テロ×ダンジョン配信×限界突破ギャグという作品となります。


 大げさなアクションとドイツ語美女はいかかがでしたか?


 〇今回の声に出して読みたいカッコいい言語・ドイツ語講座ァーッ!

 僥倖グリュックスファル Glücksfall

 僥倖(ぎょうこう)という言葉がそもそも難しいですが

 思いがけない幸運、棚ぼた的な意味です。


 ü:uの上に点々がついているこれは「ウムラウト」といいます。

 ドイツ語特有の音で、口の形を「ウ」にしたまま「イ」と発音するという、

 日本語にはない複雑な響きを持っています。

 

 日本語のカタカナで強引に表記するときは「リュ」や「リュー」の音に近くなるので、Glücksの部分が『グリューーックス』になるんですね!

 

 ちなみに、Glück(幸運)とfall(落ちてくる)が合体して「幸運が降ってきた=僥倖」という意味になる、漢字の成り立ちみたいな最高に格好いい単語です!

 

 ブクマや応援ハート、感想、★評価をいただけると執筆の励みになります。引き続きよろしくお願いします。

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