第9話「イケメンパラディンがイチャイチャしていてぐぬぬった話」1/2
ロクディモントがエレベーターホールで私に詰め寄ってきた。壁際に追いやられた。地上最低最悪の壁ドンだった。
「あ、いえ、経理のヨウシャールさんに呼び出されて手続きに来てました」私は目をそらした。
――ぎゃあああ! 最悪! 顔近いし、口くさいし、何この破壊力!
「ひぇひぇ!? 年休なのに会社にいることがばれたらサボりを認めたことになるだろうが! 僕が兄者に怒られるじゃないか!午後出勤したことにしろ!」ロクディモントはつばを飛ばした。私は全力で避けた。
「へーい。すみませーん。午後から働いたことにしまーす!」私は腕の隙間を抜けて、壁を脱出した。
――すれ違いざまに脇腹に一発いれてやろうか!?
「ひぇひぇ……わかればいいんだ……ところでどうやって借金返すつもりなんだぃ? いつまでもぶらぶら遊んでばかりいると、セクシー部門送りだぞ? セクシー部門に行ったら毎日視聴してやるからなぁ?」ロクディモントは舌を出した。
「何を期待しているかわからないんですけど、死ぬほどきもいんでやめてください。あと、630万円ウルチャが振り込まれますんで、借金はチャラだと思いますよー」
――こいつ、送り込んだ後に視聴するとかもう眩暈がするくらいきもいな。心の声と建前が一致しちゃうくらいきもいな。
「ひぇひぇ? 姉様はそんなこと言ってなかった気がするぞ!? ちょっと待ってろ……」ロクディモントはスマホを取り出した。えらくボロボロの年季の入ったモデルだった。
「ひぇひぇ? 姉様ですか、忙しいところ申し訳ありません。宮國のことなんですが630万円の振り込みがあるって言ってるんですが?」ロクディモントは腰をひぇこひぇこと折りながら実の姉と会話していた。
「ひぇひぇ? ひぇー! ひぇー……ひぇっひぇ! そうですか。 ひぇひぇ!? 宮國のあほの勘違いということですね、わかりました」
ロクディモントはひぇひぇ五段活用相槌を駆使しながら不穏な言葉を残した。
「なんかあったんすか?」私は足で地面をとんとんと鳴らしていた。
「ひぇひぇ……姉様に聞いたら振り込みは500万の高額ウルチャのせいで振り込みが遅くなり、3か月後だそうだぞぉ」ロクディモントは私に下卑た笑みを近づけてきた。
「嘘……まだ終わらないの……」私はその場に崩れ落ちた。
「ひぇひぇ、お前のセクシー配信たのしみにしてるぞぉ」ロクディモントの笑い声がエレベーターホールに響き渡った。
徐々に小さくなって、最後には聞こえなくなった。
――――――――
私は絶望の中、オフィスの自席に戻っていた。
――今日はもともと年休だったし、もう時間は16時、やることもないので他の人の動画でも見るか……
私はパソコン画面に向かい、動画配信サイトを見た。おすすめコンテンツにエイトの動画がでてきた。
何気なくクリックした。
柳井がコボルト二体と戦っていた。
左右からのコボルトの攻撃に、盾が弾かれてふらふらだった。
「くそぉ……コボルトなんかにやられるかよ」柳井は剣を構えた。
剣先が淡く青色に光輝いた。
その光は柳井の腕を包み込んだ。
柳井は剣を左右に振るった。
「オーラ! ブレイドォおおお!」
コボルトが真っ二つになり崩れ落ちた。
柳井も剣を地面に突き刺し、しゃがみこんだ。
ぜぇぜぇと荒い呼吸を整えていた。
私はコメント欄を見た。
八方塞がりしか負けん子:あら? そんな弱い相手に全ブッパなの? 某天使はアシッドスライムを剣で一突きだったのにぃ?
八方塞がり恨美:仕方ないわよ、エイトさまはPS激低何だから! PSが低、身長も低、人望も低、品性も低、そして童貞! 彼は五帝! 五帝なのよーん!
私は特徴的なコメントを見て手を止めた。
――何だこれ……? ファン? 八方塞がり恨みに負けん子?
八方塞がりしか負けん子:エイトなのに五帝なの?
八方塞がり恨美:そうね……あと3つね。低賃金、低同接……後何がある?
八方塞がりしか負けん子:底辺でいいんじゃないかしら?
八方塞がり恨美:人偏がないじゃない?
八方塞がりしか負けん子:人間らしさが足りないということで。
八方塞がり恨美:お後がよろしいようで! O! A! TO! がよろしーーーん! まるで映画の名シーン! 感動的でヴァーーーーンッズィーンッ!
八方塞がりしか負けん子:ドイツ語リスペクトね?
八方塞がり恨美:最近覚えたのよ。ある動画でね?
八方塞がりしか負けん子:ああ、あのツッコの飯テロ配信ね!
私は噴き出した。机に突っ伏して肩を揺らした。
――ああ、これは多分、『そういうこと』なんだろうな……もっと『わからせ』てやってください。LOVE美さん。勝たん子さん。最高です。ほんと……
私は動画を一通り見て、爆笑したのち、定時になったので会社を出た。




