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第8話「食欲の魔女をカツを卵でとじただけのものでちょろい女にさせた話」1/2

「あ”ぁーっ! んんぅっ!」私は顔を拭き、喉を鳴らした。


「泣いちゃってすみませんでした。トンカツに続いてカツとじ煮も作っていきますね……」私は片手鍋に、先ほど作った和だしをお玉ですくい入れる。


 スクワライドLOVE美:また、何か作るの?


 スクワライドしか勝たん子:味変かしら?


「ツッコ……何をするかはわからないけど、このトンカツの感動を超えるのはなかなか難しいと思うよ?」エスルスはイスに座り腕を組んで顎を置いた。ワイプ内に収まっていた。


「まず、出汁に一煮立ちさせます。卵は冷蔵庫から出して置いておいたものを使います。そうすることで出汁との温度差がなく、卵がふんわりと仕上がります」私は、ボウルに卵を割入れ、箸でカラザを取ると、ちゃちゃちゃちゃちゃっとリズミカルな音を立てながら、卵を溶いていく。


 スクワライドしか勝たん子:こういう丁寧な豆知識、本当に参考になるわ。


 ツッコラーA:ほんとだねぇ……


 片手鍋の中でグラグラグツグツと出汁が煮立ち始める。室内にどこか懐かしさのある香りが広がる。


 エスルスは鼻孔を広げ、目をぎらつかせながら呼吸をしていた。腕は組んだままだった。


「ここからは時間勝負です」


 私は等分に切ったトンカツを鍋の中に入れる。さっと卵を回し入れる、ゆっくりゆっくりと入れながら全体に卵の幕を張る。


 ふたを閉めて火を止める。グツグツクツクツと音が小さくなっていく。


 5秒数える。


 ――1,2,3,4,5


 同時に蓋を取る。卵の甘い香りと、和の香りを含んだ湯気が一気に広がった。


 黄色と白に卵がつややかに輝き、揚がったトンカツのキツネ色の彩に、三つ葉の緑を添えて完成だ。


 私は深皿を取り出し、カツとじ煮を移す。とろりとろり、ふわふわリと鍋から皿に羽が空を滑るように流れ込んだ。


 エスルスの前に運んだ。


「ふうっ……ツッコ……カツを卵でとじただけの料理なんてそんなに大きく味が変わるというのかい?」


 エスルスは私の方を見上げた。冷たい、挑戦的な目をしていた。


 プルルルルルルッ! 辺りに着信音が響いた。


「うん? ツッコ、何事だい?」エスルスは顔をあげた。


「会社から電話みたい……ちょっと出てくるね」私は席をはずした。


 スクワライドLOVE美:何事かしらね?


 エスルサーA:気になるねぇ……


 ―――――


「はい、宮國です」私はスマホを取り出し、耳に当てた。


「あらあら、宮國さん? あなた、いつになったら経理処理をちゃんとできるようになるのかしら?」


「ヨウシャールさんですか? 何かありましたか?」


「あらあら、わからないかしら? あなたの動画に高額ウルチャが来たせいで、処理が止まっているの……不正アクセスじゃないかって通知が来てるのよ。早く経理まで来てくださるかしら?」


「え……私今日、年休なんですけど……」


「あらあら、それが私に何か関係あるのかしら? ああ! そうね、お金がいらないということなのね……凄いわ……」


「いや……お金は欲しいです」

 ――何だよ……こいつ! ホント腹立つな……


「あらあら、じゃあ早く来てくださいね……15時までに来ないと経理は閉まりますからね」


「え! 今から行っても15時ギリギリ……」


「……」


 既に電話が切られていた。


「あー……くっそぉ……切りやがった」


 電話が終わり、私はキッチンに戻った。


「あー……最悪だ……」私は電話の内容を思い出し、イライラしていた。


「ツッコ? どうしたんだい」エスルスが首をかしげていた。


「いやぁ……LOVE美さんのウルチャが金額大きすぎて受け取り処理が必要で会社に行かないといけなくなった」


 スクワライドLOVE美:あら! アタシのせいなの! それはごめんなさい……


「いや、いいですよ。お金は受け取れるみたいなので……ありがとうございます。こっちが申し訳ないです」私は頭を下げた。


 スクワライドLOVE美:あらーーーーッ! なんて謙虚! KE! N! KYO! なのかしっらーーーん! 検挙よーっ! ツッコポリスの御とおりよ----ン! 出会え! 出会え! 皆の者―――ン! 水戸黄門のミトコンドリア―――! エイドリアーン!


「いつも面白いですね、LOVE美さん」私はカバンを整理して、立ち上がった。


「エスルス? それ食べて食レポしたら挨拶して終わってくれる?」私はカバンを肩にかけてキッチンの入り口に向かった。


「ああ……やっておくよ。しかし、カツとじ煮か……トンカツの味を既に知ったボクが、卵でとじただけのもので舌をうならせると思うのかい?」


 スクワライドしか勝たん子:これは……フラグね……


 エスルサーA:間違いなくフラグね……


「御託はいいからさっさと食え~」


 私はエスルスに手を振ると家を出た。


 しばらくして私が中庭を通り過ぎたころ、家の方から奇声が聞こえた。


ヴァス・ヴァー(Was war)ツォイアスト・ダー(zuerst da)ダス・フゥン(das Huhn)オダー・ダス(oder das)アイ(Ei)ッ?(鶏と卵はどっちが先だと思う!)』


 5秒ほど間をおいて奇声は続いた。


ナイン(Nein)ッ! エス イスト ダス(es ist das) |シュヴァイン|《Schweine》コテレット《kotelett》ゥォオオオ !!(違う! トンカツに決まっている!)』


 ――何言ってるかわからないけど、あいつほんとちょろ欲の魔女だな……

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