第7話「食欲の魔女がブリリアントポークトンカツで四回転半ひねりをキメた話」4/4
エスルスは無言で咀嚼した。
サクサクザクザクっという衣が割れる音が辺りに響いた。
ゴクリッという喉を通る音が聞こえた。
静寂の帳が落ちた。
長い長い沈黙だった。エスルスは固まったまま動かなかった。
スクワライドLOVE美:ちょっと……どうしたのよ!? 動かないじゃない?
スクワライドしか勝たん子:実は言うほど美味しくなかったとか……まさか……
エスルスは目を見開いた。ゆっくりと歩き出した。カメラが後を追った。キッチンを抜け、居間につくと走り出した。両手を全力で振り、大きく両足をストライドさせた。
限界まで加速したスピードを、左足にすべて乗せた。畳を削る凄まじい轟音とともに、行く手を阻む見えない壁をぶち破るように、右足を前方へと爆発的に振り上げた。踏み切った瞬間、凄まじい量のイグサが散った。
腕を体に巻き付け拳を握りこんだ。重力を完全に拒絶し、鳥の王が天へと駆け上がるかのような、常軌を逸した圧倒的な高さへとその体が宙を舞った。
『Das Rad des Schicksal dreht sichィイイイイイイ! (ボクを捉えられると思うかい)!?』
一回転。『イイイイイイイイイ』
二回転。『イイイイイィィィィ』
三回転。『ィィィィィィィィィ』
四回転。『ィーーーーーーーー』
四回転半。『------ッ!』
今度はすべてをカメラがとらえていた。エスルスはきれいに着地すると両手を広げ、カメラに会釈した。
胸が激しい呼吸で持ち上がり、顔は紅潮していた。
スクワライドLOVE美:今のクワドラブルアクセルよね……地上での……
エスルサーB:意味が分からなさすぎて面白い通り過ぎて、感動すら覚えるわ……
エスルサーC:すっごい……何あの銀髪民族衣装魔女……
エスルサーD:ホントに鳥になってるみたいね……
両手を広げたまま食欲の美女が顔をあげ、叫んだ。
『サクゥッ! と軽快な衣の奥から溢れる至高の肉汁ゥッ! そこに絡む濃厚ソースの甘美なコクゥッ!! さらに、からしの鋭い刺激が脳髄を直撃し、知識の欲求すら満たす極上の「美味」へと昇華ッ!!! あ”ぁ、ん”ん”ん”ん”んッ! 何という芳醇ゥッ! 何という贅沢ゥゥウッ! グラム一万五千円の奇跡のハーモニーに、私の胃袋は完全に狂喜の渦に包まれるのだよ、ツッコォオオオッ!』
エスルサーA:ズブリミ―レンッ! いただきましたーーーんッ!
エスルサーB:いただきましたーーーんッ!
エスルサーC:投げ銭祭りじゃ! わっしょいわっしょい!
エスルサーD:投げ銭祭りじゃ! わっしょいわっしょい!
エスルサーE:投げ銭祭りじゃ! わっしょいわっしょいしょい!
スクワライドしか勝たん子:なんか、エスルサーどんどん増えてるんだけど。
スクワライドLOVE美:なんか、ちょっと冷静に見ると私、恥ずかしくなってきたわ……
ツッコラーA:ほんとだねぇ……って同接50超えてるねぇ……
「え!? ホントだ! すごい! 私、先週まで最高同接2だったのに……」私は目の前がかすんだ。
ウルウルと涙がにじんだ。
ホロホロと涙があふれた。
ポタポタと涙が床を濡らした。
「ふええええーん……良かったよぉ……私の料理でこんなに人が来てくれて……嬉しいよぉおお」私は大きな声を出し、その場に崩れ落ちた。
「だから言っただろう? キミのご両親は君を守るためにいろんなものを残してくれたって……」いつの間にかキッチンに戻っていたエスルスは私の背中に手を添えた。
――ああ……ダメだ。こいつ、ポンコツの癖にこういうところだけ本当にずるい……私をなんだかんだで助けてくれる……魔女……本当は怖くてすごい魔女……
大量の投げ銭と、カオスな視聴者があふれる中で食欲の魔女が私を優しく抱きしめてくれた。
必要以上に豪勢なキッチンの中で私はいつまでもいつまでも泣き続けた。
=============【作者より】
読んでいただきありがとうございました。
忘れたころにやって来る飯テロ回いかがでしたか?
〇今回の声に出して読みたいカッコいい言語・ドイツ語講座ァーッ!
悪魔的 Dämonisch (デーモーニッシュ) デーモン
破壊的 Destruktiv (デストゥルクティーフ) デストラクション
破滅的 Katastrophal (カタストロファール) カタストロフ
芳醇 Aromatisch (アロマティッシュ) アロマティック
贅沢 Luxuriös (ルクスリウース) ラグジュアリー
この辺りの単語たちは英語の音によく似てますね。
さあ、私が来たよ!=待たせたね!
Da bin ich ja. (ダー・ビン・イッヒ・ヤー)
※某ヒーロー学校物語のNo.1ヒーローがよくいう 私が来た! 的な奴ですね。
ボクを捉えられると思うかい!?
Das Rad des Schicksals dreht sich
ダス・ラート・デス・シクザール・ドレート・シッヒ
Das Rad = 車輪 / 輪
des Schicksals = 運命の
dreht sich = 回る / 回転する
直訳:運命の輪は回り続ける。
すみません、ここは何か格言があるのではなく、私が連想ゲームで訳しています。
運命の輪が回る⇒超常現象的な力であらがえない⇒回っているエスルスを捕まえられないという連想ゲームです。
なお、ドイツ語でsはざじずぜぞと発音することが多いといいましたが今回は例外が二つ入っています!
例外①:言葉の「最後」に来るsは濁らない!
desが「デズ」にならないのは、単語の最後(語尾)にあるsだからです。
例外②:sの後ろに「母音(a, i, u, e, o)」がないと濁らない!
たとえば、今回大文字で書いた Schicksals の「S」の後ろには、
母音ではなく「ch」という子音が続いていますよね。
このように、Sの後ろに母音がないときは濁らずに「シ」や「シュ」の音になります!
※ちなみに、dreht sichの「sich」は後ろに母音「i」があるのになぜか濁らないという、ドイツ語の気まぐれな例外単語だったりします(笑)。
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