第6話「食欲の魔女がデリシャススティックで鳥になった話」3/4
頭が痛い……何かが頬を伝っている。
体が、動かない。
視界が赤い……
「美、……!……!……!ツッコ!」
何かの音が聞こえる……LOVE美……さん?
エスルス?
よくわからない……
牛野郎はどこ……私はどうなったの……
死んじゃうのかな……
死にたくないな……
セクシー部門に行かなくても大丈夫そうだしな……
ああ……でも、なんか、気持ちいいな……
このまま寝ちゃいたい……人間は三大欲求にはあらがえないんだよ……
性欲……はないけど……食欲……
あ!? 今日のトンカツのために買った!
ウルトラブリリアントポーク!
グラム当たり15,000円!
ぐらむ! いちまん! ごせんえん!
それを食わずして!
死ぬわけにはいかない!
私はゆっくりと立ち上がった。
体が痛い、
骨もきしんでいる。
顔を上げた。牛野郎のシルエットだけが見えた。
牛野郎はヒヒーン! と叫ぶと斧を横に振りかぶった。
「私は帰って、最高の豚野郎を食すんだよ、この牛ウマやろぉーーー!」
目の前に白い何かが見えた。
折れた剣をそれに重ねた。
体に力は入らず前に倒れこむような動きだった。
牛野郎の斧は私の頭上をかすめて壁を砕いた。
私はその流れのまま、牛野郎の体に身を預けるように倒れこんだ。
私が手に持っていた、切っ先の折れた剣の断面が、
牛野郎の腹に食い込み、肉を裂き、
私は牛野郎とともにその場に倒れた。
――――
スクワライドしか勝たん子:え!? ツッコちゃん! ミノタウロス倒しちゃったの……?
美:倒しちゃった……倒しちゃったわ……でも、あの出血量まずいわ……エスルスさん急いで!? 聞こえる!? 見てる!?
スクワライド推して参る隊A:反応ないわね……
スクワライドしか勝たん子:私、いやよ! こんなかわいい子が死んじゃうなんて……
ツッコラーB:ツッコちゃん……
スクワライドLOVE美:助けてーーーーーッ! スクワライド様ぁ――――ッ!
――――
「おいおい、大丈夫か?」私は男の声で意識を取り戻した。体が何か気持ちいい。さっきまで痛かったのが嘘のようだ……
私はうっすらと目を開けた。砂色の髪の長髪の男、普段は細めのはずなのに、今は縦に線の入った金色の眼を輝かせている男がいた。
「ツッコちゃん……わかるか? 指は何本だ!?」男は指を二本立てていた。
「指は両手両足合わせて二十本……」私はつぶやくように返した。
「おいおい……血を流しすぎて頭脳がヌルになってやがる……」男は苦笑いをした。
スクワライドLOVE美:ギャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ! スクワライド様がほんとにキターーーーん! キーボードをタタタタ―――――ン! 私の心がもうもた――――ン!
スクワライドしか勝たん子:LOVE美さん、落ち着いて……いられねぇよ!? 僥倖! 僥倖だわ! 推しがいきなり他人の配信動画に推して参る!
スクワライド推して参る隊A:推して参る!
スクワライド推して参る隊B:推して参る!
スクワライド推して参る隊C:推して参る!
「おいおい、リスナーのみんな落ち着いてくんな、今は緊急事態だ、相手してる暇は残念ながらねえよ」スクワライドはカメラに向かって頭を下げた。
「いたたた……」私は体を起こした。
――ああ……ふらふらする……頭痛いし、腕も痛いし、体は何かスース―するし……ん? スース―?
私は服が縦に裂かれて半裸だった……
「え!? ぎゃ! ぎゃーーーーッ」私は黄色い悲鳴を上げた。つもりだったが、意外と元気なスクリームだった。
――最悪! スクワライドにみられた! お嫁にいけない! 行くつもりないけど! しかもこいつさっきなんか気持ちいいことしてきたし! まさかセクハラ!? やっぱ私のこと好きなの!? こいつ!?
「おいおい……あんまり大きい声出すと危ないぜ? 頭カチ割られて、腹が裂けてたんだからよ……ポーションで治したとはいえ、傷が開くぜ?」スクワライドは苦笑いをしていた。
「え……?」私は自分のおなかを見た、縦一線に裂けた後があった。ロングパンツはよく見ると赤黒く変色していた。
私は意識を失った。
「おいおい! だから言わんこっちゃねーよ……」スクワライドはツッコを抱きかかえた。
「おい……キミ……」エスルスが険しい表情でスクワライドを見ていた。
「おいおい……銀髪の……食欲の魔女サマの登場か……? ツッコちゃんは無事だぜ?」スクワライドはツッコの体をエスルスの方に向けた。
エスルスは血まみれで半裸の私を見て、顔面を紅潮させた。
「キミ……ツッコに何をした!?」
「おいおい! 俺は何もしちゃいねーよ。こいつが倒れてたところを助けただけだよ……」
「言い訳は無用だよ! ツッコを返してもらおう。ボクをただの食欲と知識だけの普通の女の子だと思わないことだね」エスルスは、スクワライドをにらみつけた。瞳の奥が黒ずみ、射抜くような眼だった。




