第91話「食欲の魔女が私のスイカ?をディスった話」 1/2
ヨウシャールはスマートフォンを取り出すと、大鷲へ向けた。
「あらあら、思ったより早いけれど……Aランク昇格試験、ブレイズ・イーグル討伐を開始します」
ヨウシャールはスマートフォンを向けたまま、私とケーネのほうへ振り向いた。
「あらあら? 何をボサッとしているの? どちらが先かは知らないけれど、敵は待ってくれないわよ?」
大鷲がヨウシャールに向かってクチバシを開いた。
ガツッ! ガツッ!
二回クチバシを打ち鳴らすと、大鷲は大きく翼を振るった。
炎が渦を巻き、ヨウシャールを包み込む。
「あらあら、今日は私の出番ではないというのに……困るわ」
ヨウシャールは右足を曲げ、左足だけで立った。
軸足を回転させながら、右足を鋭く伸ばす。
ハイヒールがヒュッと空気を切り裂いた。
炎の渦が掻き消え、大鷲とヨウシャールがにらみ合う。
「あらあら、遊ぶのは私じゃなくて、そっちのチンチクリンたちよ?」
ヨウシャールはゆっくりと人差し指を私に向けた。
「誰がチンチクリンだって!? テメェ!」
私は拳を握りしめた。
「あらあら、映像を配信中よ? 宮國社員? 言動には気をつけなさい?」
ヨウシャールはスマートフォンを私に向けると、配信画面を見せつけてきた。
スクワライドしか勝たん子:いよいよ試験ね! 頑張るのよ!
ツッコラーB:ここ数日、地獄のようだったけど! 応援してる!
名無しさんA:前の動画は消して正解だった。あれはBANされかねないからな。まあ、今日は頑張れ。
「あの動画の話をするのはやめてもらえますかね。ってか、なんで勝手に私のアカウントで配信始めてるんだよ!」
私はコメント欄を食い入るように見つめながら、ヨウシャールに抗議した。
「記録保全よ。管理者アカウントを使わせてもらったわ」
ヨウシャールは悪びれる様子もなく、スマートフォンを構え直した。
――この女、本当にいつか絶対ぶん殴る。
隣では、ケーネがドッグタグを握りしめていた。
手の中が薄深緑色に光り、ドッグタグが杖へと姿を変える。
「ツッコ! 私から行くよ」
ケーネは先端の宝玉が地面を向くように杖を下ろした。
宝玉から冷気が広がり、白い蒸気が立ちのぼる。
熱に包まれていた洞窟の地面が、パキパキと凍り始めた。
「キィィィィーンッ」
大鷲はヨウシャールから目をそらすと、ケーネを睨みつけた。
燃え盛る翼が大きく広がる。
真っ赤な火の粉を巻き上げながら、大鷲はケーネめがけて急降下してきた。
「ケーネッ! 来るよ!」
私は思わず叫び、包丁を握る手に力を込めた。
「わかってる!」
ケーネが杖を振り上げた。
凍った地面から、氷の槍が何本も突き出す。
ズドドドッ。
大鷲は身をひねって槍をかわし、翼でなぎ払った。
ジュウウウッ。
翼が触れた氷は、一瞬で蒸気に変わった。
スクワライドしか勝たん子:氷の槍もすごいけど、それ以上に炎が厄介ね……
名無しさんC:氷vs炎とか相性最悪だろ。
ツッコラーB:ケーネちゃん逃げてー!
「あらあら、コメント欄は正直ね」
ヨウシャールは顎に手を当て、画面を眺めていた。
「呑気に実況してんじゃねーですよ」
私はヨウシャールを睨みつけ、すぐにケーネへ視線を戻した。
——ムカつくけど。今はガマンだガマン……
大鷲がクチバシを大きく開いた。喉の奥が、まぶしいオレンジ色に光る。
ゴオオオオッ。
轟音とともに、喉の奥から炎が噴き出した。
炎の奔流がケーネを飲み込む。
熱風が私のところまで吹き届き、私は腕で顔を覆った。
「ケーネ!」
炎が晴れると、表面がどろどろに溶けた氷の盾が見えた。
その陰で、ケーネが肩で息をしている。
「ふぅっ……やっぱり、炎が厄介ね」
ケーネは足元を見下ろした。
氷の槍も地面の氷も溶け、あたりには水たまりと白い蒸気が広がっている。
ケーネの口元が、わずかに緩んだ。
「それなら……我慢比べね」
ケーネは宝玉を下にして、杖を水たまりへ突き立てた。
宝玉が蒼く光り、水たまりが再び凍りついていく。




