第91話「食欲の魔女が私のスイカ?をディスった話」 2/2
ケーネは杖の柄に両手を添えた。
全身が蒼緑色に輝き始める。
周囲の蒸気がパキパキと音を立て、氷の槍や礫へと姿を変えていった。
「アイシクルキャノンッ!」
ケーネが左手を前にかざすと、宙に浮かんだ氷が一斉に大鷲へ襲いかかった。
「キィィィィッ!」
大鷲は身を翻し、氷の槍と礫をかわしながら、再びケーネめがけて急降下してくる。
ケーネは手をかざしたまま、一歩も動かない。
鉤爪が目の前まで迫った、その瞬間――。
「かかったわね!」
キィンッ。
足元の氷が一斉に跳ね上がり、空中で氷の鎖になった。
鎖は大鷲の両脚に、翼の付け根に、次々と巻きついていく。
「キィッ……!?」
大鷲が鎖を溶かしても、溶けた水がまた鎖になって絡みつく。
ケーネが再び左手を向けると、氷槍と氷礫が大鷲の全身に降り注いだ。
氷は大鷲に触れるたびに溶け、白い蒸気となって広がっていく。
やがて視界は真っ白に塗りつぶされ、大鷲の燃える輪郭だけが霧の向こうでぼんやりと揺れていた。
「今よ!」
ケーネが手を握り込んだ。
漂っていた蒸気が一気に凝縮し、大鷲の翼にまとわりつく分厚い氷塊へと変わる。
大鷲の炎が、目に見えて弱まった。
スクワライドしか勝たん子:え、何これ? どうなってるの?
名無しさんC:溶かされる前提で戦ってんのか。えげつねぇ。
エスルサーC:戦略的だといいなさいよ。
エスルス:その通りだよ? 魔法をうまく使って立派じゃないか。胸もツッコと違って立派だしね。
「あらあら、あの子、なかなか性格が悪いわね」
ヨウシャールが口角を上げた。
「それ、褒めてんのか? って、エスルスさらっとコメント欄に混ざって私をディスるんじゃねえよ」
私はスマホ画面をにらんだ。
エスルス:ボクが配信したくてもそちらのお姉さんが配信許可をしてくれないんだよ。
ヨウシャールはコメントを見て鼻で笑った。
ケーネが杖を高く掲げた。宝玉に蒼い光が集まっていく。
「アイシクルスタチュー……」
ピキピキピキッ。
霜が一気に大鷲の全身を覆い尽くした。
翼を広げたまま巨大な氷像になった大鷲は、氷の中で身体を真っ赤に輝かせた。
氷の表面が溶け始める。
「まだやるっていうの? それなら!」
ケーネは杖を地面へ突き立て、その柄の上で両手を組んだ。
指を絡め、そろえた両手の人差し指を氷に覆われた大鷲へまっすぐ向ける。
ケーネの指先で蒼と緑の光が混ざり合い、激しく渦巻いた。
渦巻く光が凝縮し、巨大な氷弾を形作る。
「シュートヒムッ!」
指先から撃ち出された氷弾が、氷に包まれた大鷲の胸を氷像ごと貫いた。
氷像に無数の亀裂が走り、粉々に砕け散った。砕けた氷も大鷲の身体も、赤い光の粒となって消えていく。
「……ツッコ、勝ったよ」
ケーネは杖を引き抜くと、その場にぺたんと座り込んだ。片手でピースサインを作り、へにゃりと笑う。
「ケーネ、すごいね。瞬殺じゃん」
私はケーネの隣にしゃがみ込んだ。
「瞬殺なんかじゃないよ。結構必死だった」
ケーネが杖を握る手は震えていた。
「あらあら、満身創痍みたいだけど見事だったわ。まず、ケーネさん。あなたはAランク昇格よ」
ヨウシャールはスマートフォンをケーネへ向け、その姿を映していた。
スクワライドしか勝たん子:ケーネちゃん、すごかったわね! 次はツッコちゃんの番ね!
ツッコラーC:ツッコちゃんも新しい魔闘具に目覚めてたからな、戦いに期待!
エスルス:もちろん、ツッコも瞬殺してくれるのを期待してるよ。今晩は焼き鳥がいいな。
セラ:とにかく力で押すんだぜ! ツッコ! お前の闘気ならイチコロだぜ!
フリード:ツッコちゃん。僕との訓練を思い出すんだよ。君ならやれる。
エスルサーA:エスルス様とそのゆかいな仲間たちとコメント欄で戯れられるとは至極! 至極!
私はコメント欄を見ながらため息をついた。
——はあ……こいつら人の気も知らないで言いたい放題だな。まあ、頑張るけど。
三十分後、私のAランク昇格をかけた運命の戦いが始まる。
この時の私はまさかあんなことになるなんて思ってもいなかった。




