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食欲の魔女と底辺OLのダンジョン飯テロ配信~「赤字ならクビ」と言われたので、ポンコツ魔女に飯を食わせてブラック企業の売上を超えます~  作者: ダニエルさん
第2章:Sランク配信者なんて無理無理無理! でも、魔石採掘部門にはいきたくない!

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第90話「いけ好かない経理女に対して不本意ながら全面同意した話」

 私は眉をひそめ、ヨウシャールを見上げていた。


「マジで人材不足なんじゃない? この会社」


 私はケーネに目線を送った。


「でも、ヨウシャールさんは優秀だよ。今はなぜか経理をやっているけど、配信の指導を受けたこともあるよ」


 ケーネはヨウシャールに視線を向け、感心したように頷いた。


「え……本当に配信者としてSクラスなの? ドSのSかと思ったけど」


 私はヨウシャールの顔をじっと見つめ、首をかしげた。


「あらあら、ひどい言われようね……」


 ヨウシャールは桃色の髪を撫でた。


「でも、あながち間違いではないわ? 私はセクシー配信部門でクイーンと呼ばれていたこともあるから」


 ヨウシャールは口元に手を当てると、目を細めた。


「おい、こいつマジでナニモンだよ」


 私はケーネの耳に顔を近づけ、小声でつぶやいた。


「私に聞かないでよ」


 ケーネはひそひそと返事をした。


「あらあら、与太話に時間を使うのはそこまでよ。Aランク昇格試験の概要は知っているかしら?」


 ヨウシャールはワンピースの裾を撫でた。


「知ってますよ。ダンジョンの奥にいるボスを倒しゃーいいんでしょ?」


 私は包丁を肩に担ぎ、面倒くさそうに答えた。


「あらあら、さすがのあなたもそれくらいはわかっているのね? 偉いわ」


 ヨウシャールは幼い子を褒めるように、ゆっくりと拍手した。


「へいへい、ありがとうごぜーます」


 私はわざとらしく頭を下げた。


「あらあら、珍しく褒めたというのに……ほんとにイヤな子ね。まあいいわ。とりあえずダンジョンの奥まで行きましょうか。ついてきなさい」


 ヨウシャールはスタスタと奥へ歩き出した。


 周囲ではマグマがボコボコと沸き立ち、煙を上げている。


 それでもワンピースにハイヒール姿のヨウシャールは、うっすらと桃色の闘気をまとったまま平然と歩いていた。


 ――なんなんだよ。こいつは……。


「ツッコ? 置いていかれるよ?」


 ケーネは身体の周囲に薄深緑色の闘気の膜を張りながら、ヨウシャールの後を追った。


「ああ。わかってる」


 私は『食実剛健』という文字が刻まれた包丁を握り込んだ。


 ――五感を使って、料理をするイメージ……私はキッチンでチャーハンを作ってる……。


 鼻から息を吸い、耳を澄ます。


 身体の周囲に紫色の闘気が渦巻き始めた。


 私はケーネの後を追った。


「もう安定して出せるようになったね」


 ケーネが振り返り、私の身体を包む紫色の闘気を見つめた。


「コックコートの魔闘具のおかげだよ。あれ、闘気運用間違えると大惨事になるからね」


 私は苦笑いを浮かべ、包丁を握り直した。


「うん……初めて見た時びっくりした」


 ケーネは頬を引きつらせた。


「あー。思い出さないで。つらくなるから」


 私は片手で額を押さえ、首を横に振った。


 脳裏に浮かぶのは、フリードのガンギマった笑顔と地獄のような特訓の日々。


 ——思い出すだけで胃が痛くなる。しかも、コックコートはあんなことになるし。


「あらあら、ファイアリザードが出てきたみたいね。お手並み拝見といこうかしら」


 ヨウシャールの声に、私は顔を上げた。


 岩陰から赤黒い鱗に覆われたファイアリザードが姿を現した。


「ツッコ、ここは私が」


 ケーネが一歩前へ出て、右手をかざした。


 掌から薄深緑色の光が溢れ、蒼い輝きへと変わる。


 冷気が走った。


 次の瞬間、ファイアリザードは牙をむき出しにしたまま氷の中に閉じ込められていた。


「……はやっ」


 私は氷漬けになったファイアリザードとケーネを交互に見つめた。


「あらあら、すごいわ。氷の魔闘具に目覚めたとは聞いていたけど、魔闘具を発動させずに魔法も使えるのね」


 ヨウシャールは小さく手を叩いた。


「フリードさんに散々しごかれましたからね……」


 ケーネはかざしていた手を下ろし、遠い目をした。


「あらあら、それは……」


 ヨウシャールは一瞬言葉を詰まらせた。


「大変だったわね。あの男は顔はいいけど、加減というものを知らないから」


「不本意だけど、それには全面同意ですよ」


 私は深いため息をつき、肩を落とした。


「あらあら、私もあなたと同意見なんて不本意よ」


 ヨウシャールは肩をすくめ、再び歩き出した。


 三人でしばらく洞窟の奥へ進む。


 やがて視界が大きく開けた。


 目の前には巨大なマグマだまりが広がり、その奥では真っ赤な溶岩が滝のように流れ落ちていた。


「あらあら、こんなに順調に着くとは思わなかったわ。試験は一人ずつ挑んでもらうわ」


 ヨウシャールはマグマの滝を背に、両手を広げた。


「え、ボス級モンスターを倒すんですよね? どっちかが倒したら終わっちゃうんじゃないんですか?」


 私はケーネと顔を見合わせ、ヨウシャールに問いかけた。


「あらあら、何も知らないのね? ここのボスは倒しても三十分後には生き返るわ」


 ヨウシャールは指を一本立て、何でもないことのように答えた。


「そんな都合のいいことがあるんすか?」


 私は眉をひそめ、マグマだまりの奥へ目を向けた。


「あらあら、むしろ逆よ。すぐに復活するからこういう試験内容なのよ?」


 ヨウシャールは溶岩の滝の上を見上げた。


「ほら、話をしてたら早速やってきたわよ?」


 その瞬間、巨大な影が私たちの頭上を横切った。


「え?」


 熱風が吹き抜け、私の髪が大きく揺れた。


 バサッ。


 重い羽音が洞窟内に響く。


 私はゆっくりと顔を上げた。


「キィィィィーンッ」


 甲高い鳴き声が洞窟全体を震わせた。


 溶岩の滝の上に、真っ赤に燃え盛る翼を広げた巨大な大鷲がいた。


 羽ばたくたびに無数の火の粉が舞い散り、灼熱の風が私たちへ吹き付ける。


「うわっ……!」


 私は片腕で顔を覆った。


 隣ではケーネが杖を握りしめている。


 ヨウシャールだけは薄く笑ったまま、大鷲を見上げていた。


 炎の大鷲は大きく翼を広げると、鋭い眼光を私とケーネへ向けた。

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