第87話「限界OLが前門のガンギマリ、後門のガンギマリ状態になった話」 1/2
ケーネはドッグタグを握りしめると目をつむった。手の中から薄深緑色の光が滲み出した。
「ツッコさん! 下がってください」
ケーネの手の中で光が形を成し、杖へと姿を変えた。
『ダメだよぉ? ここはツッコちゃぁんが戦わないとぉ……成長につながらないと思わないかぁい?』
フリードは口元からよだれを垂らしながら、ケーネを遮るように手を伸ばした。伸ばした手には、黒い十字架が握られていた。
「で、でもフリードさん、ツッコさんはまだ闘気が不安定のようですよ?」
ケーネが杖を両手で握りしめて抗議した。
『大丈夫だぁい。何かあれば僕が助けるから。ケーネちゃんは見てるんだぁい』
フリードの手の中で黒い霧が広がり、いつの間にか黒い剣を握っていた。
私は振り返り、闘気を全身へ循環させた。
正面に立つ大型種——フレアリザードもガンギマっていた。
口元から垂れるオレンジ色の液体が地面に落ちる。
じゅぅっ。
焦げ臭いにおいが広がった。
前方のガンギマリ、後方のガンギマリである。
——なんだろう。後ろのガンギマリは味方のはずなのに、後方からの圧の方が強い!
「ツッコ! フレアリザードの前でぼーっとするんじゃない!」
スマートフォンから声が聞こえた。
エスルスだった。
「早く動きたまえ! 舌で絡め取られてしまうよ!?」
エスルスが注意した瞬間、私の身体が宙へ打ち上げられた。
「うわっ!」
足が上空へ引っ張られる。
逆さまになりながら足元を見ると、足首にフレアリザードの太い舌が巻き付いていた。
「ちょっ! なにこれ!」
そのまま身体を振り回される。
次の瞬間、舌が離れた。
「うわあああっ!」
私は真下へ落下する。
真下ではフレアリザードが大口を開け、私が落ちてくるのを待ち構えていた。
「ちょっと! タンマ!」
私は慌ててナイフを抜き、フレアリザードの上顎へ思い切り突き立てた。
ガキンッ!
身体が口の奥へ滑り落ちそうになる。
「うぐっ!」
私はナイフの柄を両手で握りしめ、ぶら下がるように身体を支えた。
足元では、フレアリザードの喉の奥が赤橙色に輝いていた。
「ツッコさん!」
ケーネが杖を構えていた。
杖の先端が淡く光り輝き始める。
『ダメだよぉ。もう少し様子を見るんだぁい』
フリードがケーネの前に立ち、射線を遮った。
「フリード! ツッコを殺す気かい!?」
エスルスの声が洞窟内に響いた。
私の足元がさらに明るく輝き始める。
「やばッ! 熱っ! 熱い!」
ブーツから煙が上がった。
焦げ臭いにおいが鼻を突く。
——これ、落ちる前に炎が来ちゃう!
私は両腕へ闘気を集め、ナイフの柄を握る手に力を込めた。
「ぐぬぬぬ……!」
私は腕の力だけで、ゆっくりと身体を引き上げた。
その代わり、足先から闘気が薄くなっていった。
「ぎっ!」
熱が一気に足へ広がる。
私は身体を折りたたむように両脚を引き上げた。
——まずい! これ、登ろうとしたら足の闘気が弱くなっちゃう!
『フリードォッ! このままだと焼きツッコができちゃうじゃないか!』
エスルスが机を叩く音が響いた。
スクワライドしか勝たん子:ねぇ。なんであのガンギマリは助けないの?
ガンギマリスト:獅子は谷の下に子供を突き落とすんだよ。
名無しさんB:これ、谷というか火口だけどな。
ケセラセラ:なるようになるさ。
スクワライドしか勝たん子:いや、冗談言ってる場合じゃないのよ。
ツッコラーB:ツッコちゃんなら、なんとかしてくれるはず……
「クソっ! 周りは言いたい放題だな! おい、ガンギマリ! 助けて!」
私は天井を見上げて声を張り上げた。
『ツッコちゃぁん……仕方ないなぁ』
フリードは黒剣を肩に担ぐように構えた。
「フリードさん……」
ケーネがほっとしたように胸をなで下ろした。
『ツッコちゃぁん。前にやったアルマジロで防ぐんだぁい』
「え? 何言って……」
フリードが大きく黒剣を振りかぶった。
「あ! え? もしかして私ごと……?」
私は慌ててナイフから片手を離した。
——アルマジロ! アルマジロ!
全身を闘気で覆いながら、両腕と両脚を身体へ引き寄せる。
身体を丸めた瞬間、ナイフを握っていたもう片方の手も滑った。
「あっ」
支えを失った身体が、そのままフレアリザードの口の奥へ落ちていく。
バクンッ!
視界が真っ暗になった。
——食われたぁぁぁぁ!?
私は両腕を身体に回し、両脚を曲げてさらに小さく丸まった。
紫色の闘気が全身を覆う。
——熱い!
全身を焼くような熱気が押し寄せる。




