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食欲の魔女と底辺OLのダンジョン飯テロ配信~「赤字ならクビ」と言われたので、ポンコツ魔女に飯を食わせてブラック企業の売上を超えます~  作者: ダニエルさん
第2章:Sランク配信者なんて無理無理無理! でも、魔石採掘部門にはいきたくない!

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第85話「漆黒の聖騎士の端正な顔が幻想的に輝いていた話」

 私は赤いトカゲの方に向き直り、ナイフを手に取って構えた。


 紫色の闘気が全身を包み込む。


「ファイアリザード! 確かこいつって……」


 ファイアリザードが大きく口を開いた。


 口の奥がオレンジ色に輝く。


「ツッコ、来るよ! そいつの倒し方は前に教えた通りだよ!」


 配信画面の隅に映るワイプから、エスルスの声が聞こえた。


 私は地面を蹴って横へ飛び込み、そのまま地面を転がった。


 ゴオッ!


 私が立っていた場所を炎が舐めるように広がった。


 炎が消えると、地面は黒く煤け、うっすらと煙が立ち上っていた。


「よく避けたね。でも、あまり転がり回ると危ないよ」


 ワイプ画面からエスルスの呑気な声だけが聞こえてくる。


「わかってる! とりあえず倒してから考える!」


 私は右手に構えたナイフへ闘気を込めた。


 バチバチッ!


 紫色の光が刃を包み、薄暗い洞窟を照らした。


 ——熱い! 早く倒さないときつい!


 地面を蹴る。


 一気にファイアリザードとの距離を詰め、ナイフを振り下ろした。


 ガギンッ!


 硬質な音が洞窟内に響く。


 体表を覆う黒い鱗がナイフを弾いた。


「硬い! やっぱこれじゃあ無理か!」


 私は後方へ飛び、距離を取った。


 スクワライドしか勝たん子:ツッコちゃんの攻撃が通らないじゃない。


 名無しさんB:ファイアリザードの体表は鉱石を含む溶岩が固まったみたいな鱗だからな。相当硬いぞ。


 名無しさんC:闘気運用もヘタそうなのに勝てるのか……?


 ツッコラーB:ツッコちゃんなら大丈夫なはずだ。


 名無しさんA:まあ、今までもなんとかしてるからな。そこは期待してる。


「がむしゃらにやっても無駄だよ? 教えた通りやるしかないさ」


 ワイプ画面からエスルスの声が聞こえた。


「わかってるよ! でも熱い!」


 私はナイフを構えたまま、右腕に集中していた闘気を一度落ち着かせた。


 大きく息を吐く。


 全身へ意識を向けた。


 ——チーズフォンデュアルマジロ……。


 身体の表面を覆うように、紫色の闘気をゆっくりと張り巡らせていく。


 薄い膜が腕から肩、胸、腰、脚へと広がった。


 肌を焼くようだった熱気が、わずかに遠ざかる。


 ——動かなきゃできる。熱さもない。でも……。


 ファイアリザードが身体をこちらへ向けた。


 大きく口を開く。


 口の奥が先ほどよりも強く赤く輝いた。


「ツッコ、今度のはさっきより大きいよ」


 エスルスの声がワイプから響く。


「見りゃわかるっ!」


 ファイアリザードの口から炎の塊が吐き出された。


「うわっ!」


 私は横へ転がった。


 身体を覆っていた紫色の膜が揺らぐ。


 ドンッ!


 炎の塊が地面へ激突した。


 洞窟全体が小さく揺れ、私が立っていた場所が大きくえぐれる。


 穴の周囲では砕けた岩が赤く熱せられ、バチバチと火花を散らしていた。


「熱っ!」


 爆発の衝撃で、近くを流れていた溶岩が跳ねた。


 赤く輝く飛沫が私の右足へ飛んでくる。


「うわっ!」


 右足を覆っていた闘気の膜が、転がった拍子に薄くなっていた。


 そこへ溶岩の飛沫が付着する。


「アッツぅ!」


 私は慌てて右足を振り、付着した溶岩を払い落とした。


 ジュッ、と嫌な音を立てながら赤い飛沫が地面へ落ちる。


 私は息を切らしながら右足を見つめた。


 ——やっぱりだ。


 止まっているときは膜を維持できる。


 でも、避けようと身体を動かした瞬間、闘気が乱れる。


 右足だけじゃなく、肩や腰の周りを覆っていた紫色の膜も、ところどころ薄くなっていた。


「ほら、チャンスだよ。ツッコ」


 ワイプ画面の向こうから、エスルスの声だけが聞こえてきた。


 ファイアリザードが低く身体を沈め、再びこちらを睨みつけている。


 体表の鱗が浮き上がり、その隙間から白い湯気が噴き出していた。


「わかってるっての!」


 私は地面を蹴り、ファイアリザードへ飛びかかった。


 湯気が噴き出す鱗の隙間へナイフを突き立てる。


 手首を返し、一気に切り裂いた。


「ギャアアッ!」


 ファイアリザードは悲鳴を上げると、ドサリと地面に倒れた。


 赤い舌をだらりと伸ばしたまま、動かなくなる。


「お見事。課題は多いけど、とりあえずファイアリザードは倒せたようだね」


 ワイプ画面の向こうから、エスルスがパチパチと手を叩く音が聞こえた。


「何とかね……でも、これじゃあダメだよ」


 私はその場に座り込み、大きく息を吐いた。


 もう一度、全身に闘気の膜を広げる。


 紫色の闘気を身体の周囲へ循環させながら、ゆっくりと立ち上がった。


 足。


 腰。


 肩。


 身体を動かすたびに、ところどころ膜が薄くなる。


 ——何かコツがあるのかな……。


 私は薄くなった膜をゆっくりと修復しながら、洞窟の奥へ歩き出した。


 進むにつれ、溶岩の赤い光が少しずつ遠ざかっていく。


 やがて周囲は薄暗くなり、足元の岩さえ見えにくくなった。


 ——あれ?


 私は足を止めた。


 ——おかしいな。ほかのところよりも涼しい気がする。


「なかなか上手になったね。ケーネさん」


 暗い洞窟の奥から、フリードの声が響いた。


「フリード?」


 私は壁に手をつきながら、声のする方へ歩いていく。


「ん?」


 右肩にひんやりと冷たい空気を感じた。


 続いて左の太もも。


 膜が薄くなっている場所だけ、周囲の冷たさが直接肌へ伝わってくる。


 ——なるほど……薄いところって、こうやって分かるんだ。


 私は自分の身体を見下ろしながら、さらに奥へ進んだ。


 少し先に淡い深緑色の光が見えた。


 その光を目印に歩いていくと、やがて開けた場所へ出た。


「え……?」


 私は思わず足を止めた。


 薄い深緑色に輝くケーネが立っていた。


 ケーネの身体の周囲には、深緑色の闘気の膜が絶え間なく渦巻いている。


 途切れることなく、身体全体を包み込むように流れ続けていた。


 その隣では、複数のファイアリザードが氷像となって並んでいた。


 透き通った氷の表面が、ケーネの深緑色の光を反射している。


 反射した光が、氷像のそばに立つフリードの端正な顔を幻想的に照らしていた。

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