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食欲の魔女と底辺OLのダンジョン飯テロ配信~「赤字ならクビ」と言われたので、ポンコツ魔女に飯を食わせてブラック企業の売上を超えます~  作者: ダニエルさん
第2章:Sランク配信者なんて無理無理無理! でも、魔石採掘部門にはいきたくない!

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第83話「漆黒の聖騎士がチョコレートルネイドグッドガイになった話」

 カラシニコフ部門長は桜の髪飾りに右手を添えながら、正座したまま小刻みに震える私を見下ろしていた。


『宮國社員……私は珍しく怒ってるデス』


 カラシニコフ部門長は桜の髪飾りを外し、右手に握り込んだ。


「おっしゃる通りです! 申し訳ございませんでした! ピグミーマーモセットの分際で調子に乗っておりました!」


 私はカラシニコフ部門長の動きを見るやいなや、床に頭をグリグリと擦り付けた。


 ——これほど手っ取り早く反省を示せる姿勢もないよな!


「そこまでしろとは言ってないデス……調子が狂うデス」


 シェリーさんの方からカチリという音が聞こえた。

 

 私が顔を上げると、桜の髪飾りは元の場所に戻っていた。


「おや? 面白い姿だったのにやめてしまったんだね? 頭を踏んであげようと思ったのに」


 エスルスが私の隣でチョコレートフォンデュを食べていた。


「いつの間に戻ったの?」


 私は正座したまま身体をひねり、エスルスを見上げた。


「カロリーを消費したからね。糖分の補給だよ」


 エスルスはイチゴを指でつまむと、チョコレートの中へ沈め、そのまま口に運んだ。


「ふむ、これはなかなか悪くないね」


 エスルスは指についたチョコレートをなめると、皿の上の果物を見つめた。


 私たちは残ったチョコレートフォンデュと果物の皿を居間へ運び、座卓を囲んだ。


「エスルスお姉ちゃん、私ももう少し欲しいデスゥ」


 すっかりいつものシェリーさんに戻った彼女はエスルスに近づき、ディアンドルの裾を引っ張っていた。


「シェリーはチョコレートが好きだねぇ? それにしても、これは向こうのチョコレートとは比べものにならないくらい美味しいね」


 エスルスがキウイフルーツを串に刺すと、チョコレートに沈めた。


 シェリーさんの口元まで持っていく。


「アーンするデスゥ」


 シェリーさんが口を開けた。


 その瞬間、エスルスは手首を返し、自分の口の中に入れた。


「ふむ、酸味が効いているね」


 エスルスは唇についたチョコレートをなめた。


 シェリーさんは頬をぷぅっと膨らませた。


 スクワライドしか勝たん子:今、あの魔女、女の子にあげるふりして自分で食べなかった?


 エスルサーA:少女に現実の厳しさを教えているんでしょうね。流石は魔女。


 ツッコラーC:でも、さっきツッコはその少女に現実の厳しさを突きつけられそうになっていたけどな。


「お姉ちゃん、ひどいデスゥ……やっぱり私のこと怒ってるデス……」


 シェリーさんはうつむき、胸の前で手を組むと指先を見つめていた。


「ち、違うよ! ボクのちょっとした茶目っ気じゃないか! シェリー、ほら、これを食べるんだよ」


 エスルスはイチゴを指でつまむと、シェリーさんの口元へ近づけた。


 シェリーさんは再び口を開けた。


「おい、食欲の魔女! テメェ……口に入れた指で触ったもん、シェリーに食わせようとするんじゃねぇよ」


 後方から野太い声がした。


 私が振り返ると、汗だくになった金髪ゴリラがふらふらと立ち上がっていた。


「君はいちいち細かいんだよ。そんなに繊細だから、毎回即オチしてしまうんじゃないのかい?」


 エスルスはシェリーさんの口に近づけていたイチゴを、自分の口へ運んだ。


「あ……」


 シェリーさんが半分口を開けたまま固まった。


「また……ヒドイデスゥ……」


 シェリーさんの金色の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ始めた。


「ほら! 即オチが止めるからシェリーが泣いたじゃないか!」


 エスルスが座卓を叩いた。


「あぁん!? アタイのせいだって言うのかよ!」


 セラも同じように——いや、エスルスの倍以上の勢いで座卓を叩いた。


 ドンッ!


 座卓が大きく跳ねた。


 その上に置かれていた、温かいチョコレートソースの入った片手鍋が宙に浮く。


 ゆっくりと傾きながら、シェリーさんの方へ飛んだ。


「危ない!」


 私はとっさに床へ手をつき、立ち上がろうとした。


 間に合わない。


 片手鍋がひっくり返り、チョコレートソースが飛び散った。


 私は反射的に目をつぶった。


 ガタンッ!


 片手鍋が畳の上を転がる音が響いた。


「全く……エスルス様もセラも何をやっているんだ。シェリーが危ないじゃないか」


 聞き慣れた声がした。


 私はゆっくりと目を開けた。


 フリードがシェリーさんをかばうように立っていた。


「おにぃ……?」


 シェリーさんがフリードの背中を見上げていた。


 私はその身体を見て目を見開いた。


 飛び散ったはずのチョコレートソースが、細い帯となってフリードの周囲を渦巻いていた。


 茶色いチョコレートは一滴もフリードやシェリーさんの身体に触れることなく、肩から腰、腰から脚へと螺旋を描きながら流れ続けている。


 ——え……?


 私は思わず身を乗り出した。


 チョコレートが止まっているわけじゃない。


 流れている。


 渦を巻きながら、フリードの身体の周りをぐるぐると巡っている。


 ——螺旋……? シェリーさんもそうだったよね……


 私は息を呑んだ。


 チョコレートの渦巻くいい男……。


 チョコレートルネイドグッドガイの誕生であった。

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