第82話「堅牢の殲滅士がチョコレートフォンデュでサイコーでハラショーになった話」
私はシェリーさんの頭を撫でた。
「シェリーさん、大丈夫ですよ。いつものことだから落ち着いてください」
「いつものことデス!? おにぃもセラも、食べ物で今までこんなことになったことなんてなかったデス……怖いデスゥ」
シェリーさんは涙目で私の肩をつかみ、顔を見上げた。
スクワライドしか勝たん子:そうよね。私たちも慣れたけど異常よね。
ケセラセラ:私も慣れてしまったわ。
ガンギマリスト:同じく……
エスルサーA:だが、常に新鮮さもあるという不思議……
「そっか。でも、大丈夫ですから。そんなことより甘い物食べます?」
私はシェリーさんの手を握った。
「甘い物? 欲しいデス!」
シェリーさんが顔を上げると、ぱあっと表情が明るくなった。
私はその輝きに目を細めた。
——おっと……チョロいぞ? こんなにチョロい堅牢の殲滅士なら、あっさり瓦解できてしまいそうだぞ?
私はシェリーさんの手を引きながらキッチンに戻った。配信用のカメラが私たちの後を追いかけてきた。
キッチンに着くと食品棚を開け、チョコレートを取り出した。冷蔵庫からはバターを一片、生クリーム、牛乳を取り出す。
「何を作るデス?」
シェリーさんは目をこすりながら、チョコレートを見つめていた。
「いいものですよ。楽しみにしていてください」
私はまな板の上にチョコレートを並べると、ザクザクと刻んでいった。
片手鍋に牛乳と生クリームを注ぎ、弱めの中火にかける。
しばらくすると、ふつふつと小さな泡が浮かび始めた。
温まったミルクと生クリームの優しい匂いが広がると、シェリーさんが鼻をひくつかせた。
私はその様子に頬を緩ませ、火を止めた。
スクワライドしか勝たん子:今日はまだなにか作るのね?
ツッコラーE:ツッコさんの料理を作るところをまた見られるなんていいですね。
エスルサーA:エスルス様にもぜひ食べさせてほしい。
「みなさん、ありがとうございます。じゃあ、チョコレートを溶かしていきますね」
刻んだチョコレートを鍋へ加え、バターをぽとりと落とす。ゴムベラでゆっくり円を描くように混ぜながら溶かしていく。
「こうやって温めすぎないように混ぜ合わせていくのがコツです」
ゴムベラの動きに合わせ、チョコレートは少しずつ角が取れ、形を崩していく。
ふわりと濃厚なカカオの香りが鼻をくすぐった。
『チョコレートのいいにおいデスゥ』
シェリーさんは鍋を覗き込みながら、すんすんと鼻を鳴らしていた。
やがてチョコレートは完全に溶け、艶のあるトロトロのチョコレートソースが出来上がった。
「さて、あとは一緒に食べるフルーツの準備ですね」
バナナの皮をむき、一口サイズに切りそろえた。
冷蔵庫からイチゴやキウイを出すと、同じように食べやすい大きさに切り、キッチンペーパーで表面の水気を取って皿に並べた。
スクワライドしか勝たん子:ツッコちゃんはご飯じゃなくてお菓子も作れるのね。
ツッコラーB:チョコレートフォンデュもおいしそう。
名無しさんC:これ、なんでキッチンペーパーで拭いたの?
「えっと、フルーツに水気が残ってるとチョコレートが薄まったり、うまく絡まなかったりするので軽く取っておくんです」
私はカメラに向かってキッチンペーパーをひらひらと振った。
名無しさんC:あ、ありがとうございます。
スクワライドLOVE美:ツッコちゃんはよく知ってるのね。
「無駄に料理してるだけですよ~」
私はバナナを一つ串に刺すと、鍋の中でくるりと回し、たっぷりとチョコレートを絡めた。
串を持ち上げると、とろりとバナナからチョコレートが滴り落ちる。
——うん、絶妙な感じのトロみ。これはキマるぞぉ……?
「シェリーさん、おひとつどうぞ」
私はチョコバナナの下に片手を添えて、シェリーさんの口元へ運んだ。
「え、食べていいデス!?」
「もちろんです! はい、アーンしてください」
「アーン……」
シェリーさんはチョコバナナを口に入れ、噛み締めた。
口の端から一滴のチョコレートが垂れそうになるが、ぺろりとなめ取る。
もぐもぐと口を動かすと、両頬に手を添えた。
『バナナとチョコレートが混ざって、とっても美味しいデスゥ』
シェリーさんは目尻を下げ、顔いっぱいに幸せそうな笑みを浮かべていた。
私はその様子を見つめ、口を小さく開けた。
——シェリーちゃんはやっぱりかわいいぞ!? この生き物! 他に! 他に何食べるんだ!?
「シェ、シェリーちゃん。次はイチゴですよ……」
私はテーブルの上にあるイチゴを串に刺した。
チョコレートをたっぷりと絡め、シェリーちゃんの口元へ運ぶ。
シェリーちゃんが小さな口を大きく開いた。
パクリ。
モグモグ。
ゴクリ。
『イチゴはほのかに酸っぱいですけど、こっちも美味しいデスゥ』
シェリーちゃんは口元についたチョコレートを舌でぺろりとなめると、嬉しそうに足をぱたぱたと揺らした。
私もシェリーちゃんの様子を見つめながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
——ちょっとこのシェリーたんめ! 次はどうしてやろうかしら。次はキウイフルーツ? いや……変化球だ!
私は戸棚から薄切りのポテトスナックを取り出し、袋を勢いよく開いた。
勢い余って中身がキッチン台に何枚かこぼれてしまったが、構うものか。
私はポテトスナックを一枚つまむと、その半分をチョコレートの中へ沈めた。
表面にたっぷりとチョコレートを絡め、片手を添えながらシェリーたんの口元へ運ぶ。
シェリーたんはパクリと食いついた。
パリパリと軽快な音を立てながら咀嚼する。
『甘じょっぱいのも美味しいデスゥ』
シェリーたんは頬を押さえ、幸せそうに身体を左右へ揺らした。
「ああ! もう! 最高かよ! シェリーたん!」
私はたまらずシェリーたんを抱きしめた。小さな身体を胸元へ抱え込み、柔らかな頬へ自分の頬を擦りつける。
——ちょっと髪飾りが刺さって痛いけど、気にするもんか! かわいいなチクショー! ハラショーだよ!
シェリーたんは私の頭を引きはがそうと、両手でぐいぐいと押した。
「ちょ! ちょっとどうしたデス!? ツッコさん!」
シェリーたんは身体をよじって逃げようとする。
私は気にせず、さらに力を込めて抱きしめた。
「い、痛いデス! セラみたいなことはやめるデス! お仕置きするデスよ!」
シェリーたんは私の頭を押しながら声を張り上げた。
それでも私は離さなかった。
『警告はしたデス。宮國社員』
次の瞬間、空気が重くなった。
私はゆっくりとシェリーたんの頬から顔を離した。
——いや、違う。目の前にいるのは、カラシニコフ部門長だ。
猛禽類のように鋭く輝く金色の瞳と目が合った。
私はそっと両手を離し、二歩、三歩と後ずさった。
そのまま床に正座する。
おそるおそる顔を上げた。
カラシニコフ部門長の全身を覆う緑色の闘気が、螺旋状に渦巻いていた。
私はその光景を見上げたまま、目を見開いた。
——あれ? おかしいなぁ? 私のシェリーたんはどこにいっちゃったの?




