第81話後編「食欲の魔女がチーズフォンデュのせいで伸腕伸身開脚倒立十字懸垂静止をキメた話」 4/4
「そうだね」
私もセラの大きな背中を追いかけた。私たちを追うように配信用カメラも家の中へ戻ってきた。
エスルスが変わらず何かを叫んでいたが、家の奥から響く声にかき消された。
「おにいが! おにいが大変デスゥッ!」
家の中からシェリーさんが迷彩柄のワンピースを揺らしながら廊下を駆け抜けてきた。廊下の奥を指さしていた。
「ど、どうしたの?」
私は玄関に靴を脱ぎ捨てると、体をかがめ、シェリーさんの肩に手を添えた。
「まさか! 敵襲か!?」
セラが体を蒼白く光らせながら、廊下を飛ぶように走った。
「あ! ゴリラ! 家が壊れるだろ! シェリーさん! 見てくるね」
私はシェリーさんに会釈をすると、セラを追いかけた。
廊下を曲がり、居間を覗くと、そこにはガンギマったイケメンが、陸に上がった鯉のように畳の上をのたうち回っていた。
ガンギマリスト:キャーッ! ガンギマライズしてるわぁーーーッ!
スクワライドしか勝たん子:何? ガンギマライズって。
ケセラセラ:最近フリードフリークの間で流行ってる言葉みたいよ? 例のスキャンダル以来、フリードがガンギマることを呼ぶらしいわ。
スクワライドしか勝たん子:なにそれ、おもしろいw
『ギャアアアアッ! 肉汁と見せかけてあふれ出るマグマぁッ! 喉が焼けるぅ! 濃厚なチーズが絡まり口の中が煉獄のようダァイィイイイッ!』
そこにはイケメンはいなかった。安定のガンギマリであった。私の中で何かがしおしおとしぼんでいくのを感じた。
「ヨシッ! 期待通り!」
私はガッツポーズをした。
——食堂では危うかったからな。ふぃ~……このガンギマリがなかったら、イケメンにかどわかされるところだったぜぇ……
私は畳の上でのたうち回るガンギマリを見下ろしていた。
「おにぃは! おにぃは大丈夫デスか?」
シェリーさんは私の袖を引いた。
「安心しろよ。いつものことだぜ。全くだらしねぇやつだぜ」
セラはドカッと座布団の上に座ると、赤黒いブツをフォークで刺した。
チーズに沈め、一気に口へ運んだ。
「あ! セラ、それは食べちゃダメ!」
私はセラの手をつかんだ。
「あぁん……? これがどうしたってんだよ……うげっ!?」
セラは眉をひそめたあと、喉を押さえた。
「それ、DIEソース入りソーセージなんだよ……フリード用の……」
私はセラの震える体を支えていた。
『なんなんだよこれぇえええ♡ トロトロの白いのが喉に絡む上に刺激的すぎるよぉおおおおッ♡』
セラは体を震わせながら恍惚としていた。安定の汚ねぇ嬌声だった。
ケセラセラ:期待通りの即オチ! このなるようにしかならない感じが大好き!
スクワライドしか勝たん子:ケセラセラってそういう意味なのね……
ケセラセラ:そうよ! おもしろいでしょ!
スクワライドしか勝たん子:はいはい、おもしろいおもしろい。
「う……うぇーん! おにぃもセラも壊れちゃったデスゥウウウ!」
シェリーさんが急に大きな声で泣き出した。
外からも変わらず奇女の奇声が聞こえてくる。
喉を押さえてガンギマるイケメン、恍惚と悶えるドM、泣き叫ぶ幼女。
「相変わらずろくでもないけど、安心するよな」
私はブロッコリーに手を伸ばし、チーズを絡めると口に含んだ。
「うん、美味しい! でもちょっと辛いな……」
私はウルトラブリリアントポークのソーセージの隣に並ぶ、赤黒いDIEソーセージを見つめていた。
=============【作者より】
読んでいただきありがとうございました。
食欲の魔女が! 食欲の魔女が帰ってきたぞ! といえる第81話、いかがでしたか?
〇今回の声に出して読みたいかっこいいドイツ語講座ァーッ!
●Versenk sie im weißen Meerァァアッ!(真っ白な海に沈めるんだよぉおおッ!)
Versenk……「~を沈めろ、沈める」。英語のsinkに対応する動詞versenkenの命令形ですね。語尾のeが省略されて勢いが増しています。
sie……「彼女を、それを」。英語のher/itにあたります。ここでは女性名詞であるWurstを指して「そいつを!」と叫んでいます。
im……「~の中に」。英語のin theにあたり、inとdemが合体した形です。
weißen……「白い」。後ろの名詞Meerに合わせて、語尾が変化しています。
Meer……「海」。英語のsea/oceanですね。
ふつふつと温まるチーズフォンデュの鍋を「真っ白な海」に見立て、ソーセージを容赦なくダイブさせる、最高にハイテンションな飯テロ命令フレーズです!
●Genau wie das Kreuz des Südensゥゥゥウウウッ!(まさに南十字星のようだよぉ! ツッコぉオオオ!)
Genau……「まさに、ちょうど、その通り」。英語のexactlyですね。肯定や強調の相づちでもよく使われます。
wie……「~のように」。英語のas/likeですね。
das……「その」。英語のtheですね。中性名詞であるKreuzにつく冠詞です。
Kreuz……「十字架、クロス」。英語のcrossですね。
des……「~の」。英語のof theですね。男性名詞であるSüdenの所有格(二格)の形です。
Südens……「南」。英語のsouthですね。desの後ろについて、語尾にsが追加されています。
ウルトラブリリアントポークのソーセージと濃厚なチーズに魅了されたエスルスが、なぜか松の木を使って伸腕伸身開脚倒立からの十字懸垂静止をキメ、自らの姿を南十字星に見立てて叫ぶ! 味覚と体操が融合した、色彩美と肉体美(?)あふれるフレーズですね!




