第78話「スイカ女が漆黒の聖騎士に胸囲を知られて黄色い声をあげた話」
ケーネは額に汗を浮かべ、おでこに手を添えていた。
その体は小刻みに震えていた。
「大丈夫!? 頭痛いんですか?」
「へ、平気です……痛ぅッ!」
ケーネはテーブルに突っ伏してしまった。
「誰か! ケーネが頭を痛がっているんです! 治療師を呼んでくれませんか!!」
私は顔を上げ、周囲に助けを求めた。
昼休みには少し早く、人はまばらだった。何事かとこちらを見る者はいたが、すぐに動いてくれる者はいなかった。
私はカバンに手を入れ、スマートフォンを取り出して部門の緊急連絡先に電話をかけた。
コール音は聞こえるが、誰も出ない。
私はスマートフォンをスピーカーモードにしてテーブルに置くと、ケーネの体に触れた。
――こういうとき、どうすればいいんだっけ……下手に動かさないほうがいいよな……
コール音が響く。
相変わらず誰も出る様子がない。
「ああ……もう! 誰か!」
「ツッコちゃん? 大きい声を出してどうしたんだい?」
私の後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
振り返るとフリードが立っていた。
「フリードさん! ケーネさんが頭が痛いって言ってて、どうすればいいか……」
私はフリードに駆け寄った。
「それは良くないね……僕が診るよ」
フリードは首元の蒼い十字架に手を添え、ケーネの背後へ回った。
その時、コール音が消えた。
「ひぇひぇ? 宮國どうし……」
私はすかさず終話ボタンを押して通話を切った。
フリードが蒼い十字架を握り込むと、淡い蒼の光が広がり、蒼剣に姿を変えた。
フリードは剣を握り、ケーネに剣先を向けた。
「フリードさん!? 何やってるんですか!?」
私は驚き、思わずフリードの腕をつかもうとした。
「体の中を診るだけだよ。心配しないで」
フリードの握る蒼剣の剣先が輝き、蒼い霧がにじみ出した。
霧は光に変わり、ケーネを包んでいく。
「うん、頭痛の原因は分からないけど、体に異常はなさそうだよ。少し胃が荒れて、肩こりがあるようだから、そこは治してしまうよ」
フリードが蒼剣を十字架に戻すと、ケーネに手をかざした。
手から橙色の光があふれ、ケーネを包み込んだ。
「ん……はっ!」
ケーネが飛び起きるように体を起こした。
「大丈夫かい?」
フリードはケーネに白い歯を見せて微笑んだ。
窓から差し込む昼の陽光が、その整った顔を照らしていた。
「だ、大丈夫です……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ケーネは顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がると、大きく頭を下げた。
デビルフルーツがたわみ、椅子が後方に倒れた。
「頭が痛かったんだったら、急に立ち上がると危ないよ?」
フリードが椅子を元に戻すと、手のひらをケーネに向け、座るように促した。
「は、はい……ありがとうございます」
ケーネは真っ赤になりながら椅子に座り直した。
フリードもケーネの隣に座った。
「フリードさん? ケーネはもう大丈夫なんですか?」
私は頬を赤くしてフリードに見惚れるケーネを見つめた。
「うん、大丈夫だよ」
フリードはテーブルに肘をつき、手のひらに顎を乗せた。
「さっきの蒼い光もその剣の力なんですか?」
私はフリードに熱視線を送るケーネを睨んだ。
「うん、体の異常を見つけることができるんだ。それだけじゃなくて身体の基礎情報も拾えるよ。身長とかいろいろね」
フリードが黒髪をかき上げた。
サラサラと髪が落ちた。
「へぇー、そうなんですね……」
私はフリードのさらさらとした黒髪を見つめていた。
視界の端に、同じように見上げるデビルフルーツ女が目に入った。
「ん? それって私が前に気絶したときも使いました?」
私は視線を下ろし、フリードを見つめた。
「もちろん。気門の修復に体を詳細まで調べる必要があったからね」
フリードは当時を思い出すように、軽く目を細めた。
「それってまさか……体重とかもわかります……?」
私は恐る恐る尋ねながら、胸元に両手を当てた。
「そうだね。身体測定で出るような数値なら、胸囲や座高も含めてだいたい分かるよ? それがどうかしたかい?」
フリードはキョトンとした。
「ぎゃーっ!」
「キャッ!」
私がダークホラーなスクリームを上げる横で、イエローな声を上げるケーネ。
私は顔を青ざめさせ、ケーネは頬を赤く染めていた。
「うん? どうかしたのかな?」
フリードは私とケーネの顔を交互に見つめ、首をかしげた。
「「いえ、何でもないです」」
私とケーネは下を向いた。
「そ、そうだケーネ! 体調は大丈夫?」
私は顔を上げて、ケーネを見つめた。
「え、ええ。スープの匂いを嗅いだら、昔、誰かにスープをもらったのを思い出して……」
ケーネはポトフの入ったスープジャーを見つめていた。
「それで頭が痛くなるの?」
私は眉をひそめ、ケーネの顔を覗き込んだ。
「ええ……」
ケーネは両手を胸に当てた。
「私、実は数か月前までの記憶がないんです」
ケーネは胸元で何かを握り込んだ。
チャリッという金属がこすれる音がした。
突然の告白に言葉を失い、私もフリードも、金属音のしたケーネの胸元をじっと見つめた。




