第77話「限界OLが実はデビルフルーツに心を奪われていた話」
私は目の前で迷彩柄のワンピースに身を包み、銃を担いだ少女に戦慄していた。
「あの、それ当たると痛いですよね……?」
私はシェリーさんが手に持っている銃を指さした。
「ん? 心配ないデス。闘気弾の出力を調整するので当たっても痛くないデスよ」
シェリーさんは銃口を自らのふくらはぎに向けた。
「え! 危な……」
ケーネが口を両手で覆った。
タンッ! タンッ!
乾いた音が響いた。銃口から撃ち出された緑色の小さな弾が、シェリーさんの左ふくらはぎに当たった。
「ほら、痛くないデス。魔闘具だから出力も自由自在デス」
シェリーさんはニコニコと微笑み、左足を上げ、プラプラと揺らした。
「そ、それならいいですけど。実演する前に一言ください。心配します」
「そうですよ! びっくりしました」
私とケーネはそろって抗議した。
「二人は優しいデスね……ゴメンナサイデス。こういうところはまだ人の気持ちがわからないデスね」
シェリーさんは床を見つめた。
フッと息を吐き、口角を上げると顔を上げた。
「さて! 反省は以上デス!」
シェリーさんは銃口を私に向けた。
『宮國社員、闘気の膜を張るデスゥ』
シェリーさんの金色の目が揺らめき、口がカァーッと開いた。
「はい!」
私は目をつむり、体に力を入れるとチーズフォンデュアルマジロを意識した。
体の中から闘気が染み出していく。
『発動が遅いデス! 敵から目を離すなデス!!』
タンッ! タンッ!
私の両手に銃弾が当たる。
『動かないなんて的にしてくれと言ってるのと……』
タタンッ!
私の両足に銃弾が当たる。
『同じデスゥゥッ!』
ドンッ!
私の足元の床が揺れた。
私が目を開けると、紫色の膜が体を覆っていた。
『宮國社員、動く前に練習することがありそうデス。今のが実践なら宮國社員……』
シェリーさんの銃が薄緑色に輝き、桜の髪飾りに姿を変えた。
「悪いやつに殺されてしまうデス……今日は終わりデス。着替えて昼ご飯でも食べるデス」
シェリーさんは頭に髪飾りを戻しながら演習室の扉に向かった。
私は拳を握りしめ、足元の床にできた小さなへこみを見つめていた。
「……前に皆で話してたデスが、こういう咄嗟の闘気運用は、本当におにぃがうまいデス。ちゃんと話を聞いてあげてほしいデス」
シェリーさんが扉を開け、外に出ていく音が聞こえた。
「はぁーッ……私このままでダンジョン攻略できるの?」
私は座り込んだ。
——アルマジロチーズフォンデュで動けるイメージがないよ……魔石採掘部門……イヤだ!
「ツッコさん、お昼食べませんか?」
私は声をかけられて顔を上げた。
目の前で二玉のスイカが揺れていた。
「そうですね……食べます。スイカの育て方……じゃなくて闘気の使い方で意見交換しましょう」
私は立ち上がり、スイカを見下ろした。
——これは敵かと思ったがそうではない。
私は腕を組んだ。
——人の心を奪う魔性の果実だ。デビルフルーツ。サウナルームでは夢中になりすぎて、危うくほかのことが何も考えられなくなるところだったが……いいものだ。
私はウンウンと何度もうなずいた。
「ど、どうしました? スイカの育て方……? 私スイカ農家じゃないですよ?」
ケーネが手をぎゅっと握りしめて体を縮こまらせた。ウサギのイヤリングが揺れた。
「いやいや! こうして会ったのも何かの縁だし、これからもよろしくね!」
私はケーネに微笑み右手を差し出した。
ケーネは私の手を一度じっと見つめ、恐る恐る私の手を握り返した。
——おや? この子は何をそんなに怯えてるのかな?
私はケーネの手に左手を重ねた。
「前にダンジョンでひどい目にあったから怖いよね。一緒に乗り越えよう」
——ロクディモントはほんとにクソだな……
ケーネは私をじっと見つめ、目をそらした。
「ご飯食べにいきましょうか!」
ケーネは私から逃げるように扉の方に向かった。
「おやぁ?」
私は首を傾げながらケーネのあとを追った。
————
私とケーネは社員食堂に着き、メニューを眺めていた。
「何にしようかな~」
ケーネが口元に指をあててメニューを眺めていた。
エクリプスの社員食堂には、定食や麺類、ご飯もの、小鉢、デザートなど、オーソドックスながら豊富なメニューがそろっている。味もそこそこおいしく、社員のほとんどがここで昼食を取っている。
「あ、そうだ。私、今朝のスープの残りを持ってきてたんだった……パスタにしようかな」
私はメニューを眺めた。
——カルボナーラに、和風スパゲッティ、ミートソースか。今日はがっつり行きたい気分なんだよな……
「カラアゲ食べたいですけど高いんですよね……」
ケーネがメニューを眺めてため息を吐いた。
「……」
——カラアゲ丼……これだな。今の私の社内施設利用料はセクハライド負担だし、何を食べてもいいよな。ケーネにも分けてあげればいいし。
私は券売機で爆盛カラアゲ丼のボタンを押し、社員証をかざした。
ケーネも何かを選んだようだ。
私とケーネは席を確保して、それぞれ定食コーナーと丼コーナーに向かう。
私は食券を渡し、お盆を手にしてボーッと調理の様子を見つめていた。
「あいよ! 爆盛カラアゲ丼ね! こんなにいっぱい食べられるのかい?」
食堂の職員が、カラアゲを山のように積み上げた丼とお味噌汁を私のお盆に乗せた。
「美味しいので。いつもありがとうございます!」
私はにんまりと笑顔を見せた。
席に戻るとケーネはまだ戻っていなかった。
私はカバンの中からフードジャーを取り出すと、蓋を開けた。
今朝作ったポトフだ。ジャガイモやベーコン、タマネギ、ニンジンだけのシンプルなもの。野菜とベーコンの甘い香りが鼻をくすぐる。
ケーネがお盆を持って私の座っている席に近づいてきた。
「すごい量のカラアゲ……」
ケーネはお盆を持ったままカラアゲ丼に目を落とした。ふと、その隣にあるポトフに視線を動かし、鼻をひくつかせた。
「懐かしい匂い……」
ケーネは手に持っていたお盆をテーブルに置き、椅子に座った。もう一度ポトフの香りをかいだ。
「う……痛っ……」
ケーネは突然眉をひそめ、頭を抱えた。
「だ、大丈夫!?」
私は椅子から立ち上がり、ケーネに近づくと肩に手を添えた。




