第75話「スイカ女の助言でチーズフォンデュにからめられた話」
ケーネはしゃがみこんで丸まろうとしたまま、きょとんとした。
「え、スイカですか? どこにあります?」
かがんだまま周囲をきょろきょろと見渡した。
「お前の胸にぶら下がってるやつだよ……まさか伝わらないとは?」
私は丸まったまま小さく肩をすくめた。
「宮國社員。あまりふざけてるとお仕置きするデスよ?」
シェリーさんは桜の髪飾りを右手で撫でていた。
「いえ! なんでもありません! 宮國通子はマジメ一辺倒であります!」
私は体を丸めたまま、おでこに手を添えて敬礼した。
——ヤバイ! クソ上司みたいにガトリング運搬の刑に処されちゃう!
「まあいいです。ケーネさんは体全体からあふれるイメージはできているのでむしろ指先から全身に流す練習をした方がいいデス」
シェリーさんが右手の人差し指を立てると、指先からぐるぐると回る緑色の闘気があふれ出た。
緑色の闘気は指先から右腕を通り、体を抜け左手の人差し指に抜けた。
ケーネは立ち上がり、人差し指に力を込めると薄緑色の闘気がバチバチとあふれた。
指先から闘気を動かそうとするがスッと消えてしまった。
「なかなか難しいですね」
ケーネは指先を見つめ、眉をひそめた。
「渦をイメージするといいですよ。こんな感じに。私の場合はうずまきクッキーですけど」
私は右手の人差し指へ紫色の闘気を集め、そのまま手のひらを通して薬指まで移動させた。
「え! ツッコさん、すごい!」
ケーネは私の指をつかんで小さく跳ねた。胸が上下に揺れる。
「いやぁ、これくらいはコツをつかめばすぐできますよ」
私は左手で胸をどんと叩いた。目はケーネの揺れる胸を注視していた。
——褒められてるのか貶められてるのかわからないな。ケーネはイイ子。でも、無自覚な邪悪。
「ケーネさんはどうやって体全体から出してるんですか? イメージしてることがあれば教えてくれると嬉しいんですけど?」
私はケーネの胸から目を離し全身を見つめた。
「うーん……私の場合は体全体を水の中に沈めるイメージでしょうか。水の中に溶け込んでいくような……あ!」
ケーネは顎に人差し指を当てながら説明をしていたが、何かに気づいたように両手を組み下におろした。
「体の中を水で満たして、その水に渦を作る……」
ケーネの組んだ指先から薄緑色の闘気があふれる。
ぐるぐると螺旋を描いた闘気は指先に浸透した。
両腕を通り、体を抜け、両足に広がり、最後は全身を包み込んだ。
「できた……?」
ケーネの全身を薄緑色の膜が包み込んでいた。
「素晴らしいデス! その調子デス!」
シェリーさんはケーネの両手をつかむとぴょんぴょんと跳ねた。
私はその様子をじっと見つめていた。
——あれ? さっき渦巻いてドヤってた私の立場は……?
私は目をつぶった。
——水の中に沈むイメージか。水、水……。
昔、仕事に疲れてお風呂で寝て、おぼれかけたな……
いや、そんなことはどうでもよくて。
沈むかぁ。
……
トロトロのチーズフォンデュ食べたくなってきたな。
パンにジャガイモ、アスパラ、ソーセージなんかもいいなぁ。
チーズにダンクして、全体にトロッと絡めて食べたい……
「宮國さんもすごいデス! 上手デス!」
——そうそう。私のチーズフォンデュは上手なんだぞぉ。ワインもキメれば最高だなぁ……
「ツッコさん、よかったですね!」
——うん。良かった良かった。って何がよかった?
「へ?」
私は目を開けた。手を見つめると、紫色の闘気の膜が張っていた。
目の前では小さく跳ねるシェリーさんがいた。
その奥には同じように嬉しそうに微笑むケーネもいた。
「へ?」
私の間の抜けた声が大浴場に響き渡った。
「宮國さん? 何をそんなに驚いてるデス? 二人ともできるようになったからサウナに入ってみるデス! レッツゴーデス!」
シェリーさんは鼻歌交じりにサウナの扉に手をかけた。
私は両手を見つめた、闘気の膜は安定している。
恐る恐る一歩前に進む。
ぐにゃりと膜が波打っている。
私は息を飲んだ。
両腕で体を抱きしめ、サウナに向かって歩いていく。
——私はアルマジロ、チーズフォンデュに浸されたっぷりのチーズが絡んだアルマジロ……
ケーネが歩くたびに胸が揺れていた気もするが、そんなことを気にする心の余裕は私にはなかった。




