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食欲の魔女と底辺OLのダンジョン飯テロ配信~「赤字ならクビ」と言われたので、ポンコツ魔女に飯を食わせてブラック企業の売上を超えます~  作者: ダニエルさん
第2章:Sランク配信者なんて無理無理無理! でも、魔石採掘部門にはいきたくない!

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第72話「漆黒の聖騎士にアルマジロ状態のままお持ち帰りされた話」

 私は次の日、Bランクダンジョン『灼熱の炎獄洞』に電車で向かっていた。


「現状、何ができて何ができないかを確認してみよう」


 昨日、エスルスが言っていた言葉だ。確かにその通りだと思い、私は必要な荷物を抱えていた。


 カバンの中には大量のスポーツドリンクと冷却材が入っていた。


 『灼熱の炎獄洞』は私の自宅から近い。


 電車を乗り継いで二十分程度の場所にある、この地域で最も大きな山『大沸山』の崖が崩れてできた溶岩洞だ。


 私は緊張でドキドキしていた。


 新しいダンジョンに挑戦することもそうだが、修行の一環ということもあって、この男が付いてきていた。


 私は荷物が入ったカバンを膝にのせて抱えたまま、右隣を視線だけで見上げた。


 そこには背もたれにもたれかかり、眠そうに小さくあくびをするフリードがいた。


 Tシャツ、ジーパンのラフスタイル。首には黒、青、グレーの十字架が輝いている。


 私はカバンを抱える腕に少し力を込めた。


 ――イケメンとのお出かけデート……ではないのだが! なんなんだろうこの気持ち!


 私はもう一度イケメンを見つめた。


 ――うーん……かっこいい。でも、こいつの場合はまた別の意味でもドキドキがあるんだよな。


 そんなもやもやを抱えながら電車に乗っていたが、あっさりと目的地に着き、私とフリードは灼熱の炎獄洞に向かった。


 『灼熱の炎獄洞』の入口からは、息苦しいほどの熱気が流れ出していた。空気が陽炎のように揺らぎ、その奥では溶岩らしき赤橙色の光が瞬いている。照明がなくても、洞窟内は明るかった。


「ツッコちゃん、とりあえず闘気をまとって中に入ってみようか」


 フリードは灰色の十字架を手に取った。あふれ出した灰色の霧がフリードを包み、黒色の甲冑へと姿を変えた。


「あ、はい。フリードさん、その鎧で暑くないんですか?」


 私はカバンを下ろすと配信機材を取り出し、配信開始ボタンを押した。撮影機器が周囲を撮影し始めた。


「ああ、僕の魔闘具は状態異常の無効化の能力を持っているんだ。だから暑さや寒さも平気なんだよ」


 フリードは胸元の甲冑を軽く叩いた。


「状態異常の無効化。便利ですね」


 私はPCで映像を確認していた。


 ふと手を止めた。


「え? じゃあ何で普段あんなにガンギマってるんですか?」


 私はPC画面から顔を上げて、黒色の鎧に包まれたフリードの顔を見上げた。


 ――イケメンがガンギマリ化する状態異常は無効にならないの?


「ツッコ、あれは状態異常じゃなくて本人としては正常だからだよ」


 エスルスの声がPCから聞こえた。身もふたもない救いのない言葉だった。


「僕は剣や辛い食べ物には真摯でありたいですからね。全力で向かい合うんですよ」


 フリードは首元へ手を伸ばし、黒い十字架を握り込んだ。


「あ! 今は剣を出さなくて大丈夫です!」


 私は立ち上がると、慌てて両手を前に伸ばした。


 ――こんなダンジョンの近くでガンギマリ化されてたまるか! 私の命の保証がなくなる!


「そうかい? さて、準備ができたならそろそろ行こうか」


 フリードは黒い十字架から手を離し、地面に置いてあったスポーツドリンク入りのカバンを持ち上げると、灼熱の炎獄洞の入口に向かっていった。


 私は後を追った。


 入口に近づくほど熱気が強くなり、目を開けているのもつらくなってきた。


 私は思わず目を細め、額に浮かんだ汗を拭った。


「ツッコちゃん、闘気だよ」


 フリードは振り返り、小さく微笑んだ。


 私はその笑顔に答えるように紫色の闘気を全身へ巡らせた。闘気はパチパチと音を立てながら、薄い膜となって体を覆った。


 フリードが私を見つめ、目を細めた。小さく肩をすくめると洞窟の奥に入っていく。


 私はフリードの後を追った。


 一歩進むたび、全身を覆う紫色の闘気がぶわりと膨らみ、すぐにしぼんだ。


 ――なんか、前と違うけど大丈夫かな?


 灼熱の炎獄洞の中では、動画で見たとおり岩肌の亀裂を赤い溶岩が流れていた。


 私たちは十五分ほど洞窟の中を散策した。モンスターに遭うことはなかった。


「熱……くはないですね。これ、うまくできてるんですかね?」


 私は自分の腕にまとわりつく紫色の闘気を見つめながら、フリードの背中に声をかけた。


 フリードはゆっくりと振り返った。目尻を下げ、その表情にはどこか愁いが滲んでいた。


「ど、どうしたんですか?」


 私は息を飲んだ。イケメンはカッコ良かったが、そこではなかった。


「ツッコちゃんにはBランクダンジョンはまだ早いかもしれないね」


 フリードはゆっくりと私のもとまで戻り、籠手に包まれた手で私の手を取った。


「ひゃっ! な……何するんですか!?」


 私は肩を跳ねさせ、思わずフリードの顔を見上げた。


「ツッコちゃん、手を軽く動かしてごらん?」


 フリードは私の手を握ったまま、もう片方の手で小さく左右に振る仕草をした。


「手を動かす? こうですか?」


 私は手を左右に振った。パチパチと小さな音を立てていた闘気が、動かすたびにバチバチと音を立て、光が強くなった。


「動くと闘気が安定しないね。これじゃあだめだ」


 フリードは私の手からあふれる闘気を、指先でゆっくりとなぞった。


「安定する方法はどうだったか思い出してごらん?」


 フリードは私の手を離し、一歩後ろに下がった。


 私は呼吸を整えて先日のことを思い出した。


 しゃがみ込んで体を丸めてみた。


 ――私はアルマジロ……真ん丸なアルマジロ。


 私の体を包む闘気の音が静かになり、紫色の光が薄く全身を包み込んだ。


「いいね、その調子だ」


 フリードはしゃがみ込み、私を覗き込んで小さくうなずいた。


 私はゆっくりと立ち上がった。


 するとバチバチと闘気が漏れ出し、一部が霧散してしまった。


 体に一気に熱が広がり、汗が噴き出た。


 私は慌てて再び丸まった。


「あれ? これって動くにはどうしたらいいですか?」


 私は膝を抱えたまま顔を上げた。


 フリードと目が合った。彼は大きく肩をすくめ、首を左右に振った。

 

 そのまま私の背中と膝裏へ両腕を差し入れ、アルマジロ状態の私を軽々と抱え上げた。


「ちょっと! フリードさん! 下ろしてください!」


 私は抗議しようとして体を開いたが、闘気が霧散して汗が止まらなくなった。


 慌てて再び膝を抱え込む。


「もう限界だから無理しない方がいい。死んじゃうよ?」


 フリードは私を抱え直し、そのまま出口へ向かった。


 私はオレンジ色に輝く溶岩洞の中を、イケメンにアルマジロ状態で抱えられたまま運ばれていた。

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