第71話「漆黒の聖騎士がプリンをきっかけに魔闘具を使えるようになった話」
「フリード、ボクたちを掘り出してくれないかな?」
エスルスはフリードを見上げ、片目をつぶりウィンクを飛ばした。
「お待ちください。ちょっと動かないでくださいね?」
フリードは松の木の根元に落ちていた黒い十字架を拾い上げ、握り込んだ。
十字架からは灰色の霧があふれ、みるみるうちに一本の黒剣に姿を変えた。
フリードはその剣を握ったままエスルスの背後に回ると、黒剣を地面へ向け、半月を描くように振るった。
風を切る音に遅れて、エスルスの埋まっている穴の周囲の土が崩れた。
「ありがとう。助かったよ、フリード」
エスルスは崩れた地面の中でもぞもぞ動いた。
「あー……ダメだね。服の隙間に土が入り込んでる」
エスルスは胸元を引っ張り、服の中に入り込んだ土を払い落とした。
「次はツッコちゃんだね」
フリードは私に近づくと、先ほどと同じように剣を振るった。
私は土を押しのけながらピグミーマーモセッティング跡地から這い出た。
――ズボンは死守! 確認ヨシ!
フリードは私たちが土を払う様子を一瞥すると、黒剣を下げたまま、地面に落ちていた青みがかった十字架を拾い上げ、首にかけた。
「フリードさん、魔闘具って何なんですか?」
私はフリードの手に握られた黒剣を指さした。
「魔闘具かい? 闘気と魔力を融合させた本人固有の武具だといわれているよ」
フリードは黒剣を持ち上げ、私に見せた。
「へぇ、そうなんだ。エスルスや……そこの柱も持ってるの?」
私はエスルスの方を見つめ、ゆっくりとゴリラの柱へ視線を移した。
「ボクは持っていないね。闘気を使うのも苦手だし、第一、目覚めるきっかけがなかったから」
エスルスは首を横に振り、肩をすくめた。
「きっかけ?」
私は首をかしげ、フリードを見上げた。
「ああ、魔闘具は目覚めの魔具とも呼ばれていてね。本人が壁を越える瞬間や、価値観が大きく変わる瞬間に生まれるといわれているんだ」
フリードは黒剣の刃に目を落とした。
「ふぅん。ちなみにフリードはどういう時に使えるようになったの?」
私は黒剣とフリードの顔を交互に見つめた。
「……鎧と双剣では違うんだけどね。鎧の方は昔、エスルス様のプリンを勝手に食べたときかな。両手両足をへし折られて、庭に括り付けられたんだ……」
フリードは遠い目をした。
「しかも耳元で、ずっとプリンへの恨みつらみを聞かされてね……食に対する畏怖を覚えたよ」
フリードは小さくため息をついた。
「おい、銀髪の鬼女、お前何やってるんだ」
私はエスルスを振り返り、思わず眉をひそめた。
「おや? 何を言ってるんだい、ツッコ? キミもプリンにはずいぶん思い入れがあるじゃないか? 暴走して死にかけたくせに」
エスルスは口元に意地悪な笑みを浮かべる。その目は深く、黒く濁り始めていた。
「あ? ケンカ売ってるのか? お前が私のプリンを食べたんだろう?」
私は拳を握り締め、そこへ紫色の闘気を通わせた。エスルスを睨みつけた。
私たちは睨み合った。
紫色の闘気とどす黒い闇がぶつかり合う。
ズボッ!
私とエスルスは同時に音の方へ振り返った。
「ああ、イテェなぁ……ツッコ……」
金髪ポニーゴリラは地面に両手をつき、刺さっていた頭を引き抜いた。そのまま両手だけで垂直に倒立した。
セラは体をくるりと翻し、しゃがみ込むように着地した。
しゃがんだまま私を見上げた。
「また無茶な闘気の使い方して、体をボロボロにする気かよ。やめとけ」
金髪ゴリラは下から私を優しいまなざしで見上げていた。顔が土まみれで汚かった。
「あ、ごめん、セラ。だが、エスルス。いつか落とし前はつけてもらうからな」
私はエスルスの顔へ人差し指を突きつけた。
エスルスは返事をすることもなく、肩をすくめて首を左右に振った。
私は奥歯を噛んだが、フリードに向き直った。
「じゃあ、双剣はどういうきっかけなの?」
フリードは私の言葉を聞いて一瞬目を泳がせた。
地面を見つめ、小さくため息をついた。
「……」
私はその様子を息を飲んで無言で見つめていた。
――あらやだ、愁いを帯びたイケメン! 素敵! 月明かりも相まって神秘的!
「双剣の方はね。大切な人がきっかけだよ」
イケメンは顔を上げて私を見つめた。月が雲に覆われ、その表情は夜の影に隠れた。
「その人に剣を向けられてね。それに抗うために生まれたんだ。……今は、これ以上話したくないかな」
イケメンは空を見上げた。
「え……?」
私は両手を胸の前で組み、ぎゅっと指を握り込んだ。
沈黙がしばらく続いた。
やがて雲が流れ、月明かりが再び差し込んだ。
その光が、イケメンの頬を伝う一筋の雫を照らしていた。
「ああ、ごめん。湿っぽくなったね。魔闘具はきっかけさえあれば、ツッコちゃんも使えるようになるかもしれない」
イケメンは頬を伝う雫を、指先でそっと拭った。
「ああ、そうだね。ツッコは魔力の適性もありそうだ」
エスルスは腕を組んで何度もうなずいた。
「アタイの使い方はちょっと特殊だけど、今度見せてやるぜ!」
セラは両手を目の前でパァン! と合わせた。
私は上の空で三人の会話を聞いていた。
あとから聞いた話だが、このときの私は頬を緩ませ、目尻を下げ、口元からヨダレを垂らしていたらしい。
「イケメン……カッコイイでしゅ」
私の脳内は月明かりに照らされて憂いMAXのイケメンの横顔でいっぱいだった。




