第68話「食欲の魔女をゴリランカー跡地から助けたらマンドラゴラになった話」
私がセラの横顔を見つめていると、セラがパソコンの画面に目を落とす。
「何だ? ツッコ? Bランクダンジョンのこと調べてるのか?」
セラは私の隣にズシンと座り込んだ。
「うん、どんなところか詳しく知らないから。セラはAランクだよね? どうやってクリアしたの?」
私は椅子を少しずらし、セラに画面を見せた。
「ん? 熱くて入るのが嫌だったから内部に人がいないのを確認してから、外から闘気をぶっ放した」
セラは両腕を伸ばし、手を合わせて握り込むと私に歯を見せた。
「ごめん、人の言葉でもう一度説明してもらっていい?」
私はゴリラ語が理解できず頭を押さえた。
「おい、失礼なこと言ってんじゃねぇよ。クリア条件が『洞窟の奥にいるボスモンスターを討伐して洞窟の外に出る』だったから外から倒しただけだろうが」
セラは腕を組み、眉をひそめた。
「えーっと……言葉は理解できる気がするんだけど意味がわからない。それ、私の参考になる?」
私はこめかみを押さえながらセラを見上げた。
「ならねぇな!」
セラは大きな音を立てて両手を叩いた。
「だよね……はぁ。どうしようかな。私、全身を闘気で覆うの苦手なんだよな……またシェリーさんか、リーベさんに相談するかな」
私はパソコンを操作し、会社のスケジューラーを確認する。リーベさんも、セクハライドおじもやっぱりしばらく不在だった。
――この二人ずっといないよな……何してるんだろ。そういえばLOVE美としてのコメントも見てないような……
「何言ってんだよ? 環境適応の闘気操作ならプロフェッショナルがいるじゃねぇかよ」
セラはニヤリと笑い、親指で庭の方を指した。
「え? 誰それ」
私はセラの指す方へ顔を向けた。
「フリードだよ。アイツの鎧、魔闘具だぜ?」
セラの親指は庭ではなく、少し上を向いていた。
私は庭の方に体を向けた。よく見ると松の木のシルエットがおかしい。
目を凝らす。
松の枝にフリードが引っかかっていた。
「ちょっと! お前! 何やった!?」
私はセラに向き直った。
「あぁん? ケンカ売ってきたからのしただけだよ。エスルスも庭に埋まってるぜ?」
セラはゴリランカー跡地を指さした。穴があったはずなのに何かが見える。
上半身だけになったエスルスだった。
「え! エスルス!?」
私は靴を履いて外へ駆け出すと、ゴリランカー跡地へ走った。
エスルスが半身を地面に埋めて、土の上に肘を突き、手のひらに顎を乗せていた。
もう片方の手の人差し指で地面をトントンと叩いている。
「ああ、ツッコか……情けないところを見せたね」
エスルスは頬杖をついたまま、じとりと私を見上げた。
「エスルス……大丈夫? 抜こうか?」
私はエスルスを見下ろすと肩に手を添えた。
「頼めるかな? 魔力が切れて自分じゃ出られないんだよ」
エスルスは肩をすくめた。
「わかった、待ってて」
私はエスルスをつかむと、両手を紫の闘気で包み込んだ。
ゆっくりと力を入れる。
「ツッコ……ちょっと痛いんだけど、もう少し優しくできないかな……?」
エスルスは眉をひそませ、顔を歪めた。
「いや、そんなこと言っても埋まってるから」
私はさらに力を込めた。エスルスが少し持ち上がった。
「ちょっ! ツッコ、ちょっと待ってくれたまえ!」
エスルスは顔を真っ赤にして私の肩を叩いた。
「え? ゴメン無理……」
私は一気にエスルスを地面から引き抜いた。
地中の土にディアンドルが引っかかり、エスルスの体だけが服の中からスポンと抜けた。
地面から抜けたエスルスは、深い赤紫の下着だけの姿になっていた。
「ギャーーッ! ツ、ツ、ツ……ツッコ! 下ろして! 服を! ディアンドルを取ってくれーーーーッ!」
エスルスは両手で体を隠し、体を丸めながら叫んだ。
「あー……マジでごめんなさい」
私はエスルスをもう一度穴に戻した。
――なんか、穴から抜いたら叫ぶってマンドラゴラみたいだな。
「どうして戻すんだい!」
エスルスは穴から上半身だけを出し、胸を隠しながら真っ赤な顔で私を睨みつけた。
「いや……恥ずかしいかなと思って」
私は目をそらしながら、頬を指でかいた。
「埋められてるこの姿も十分恥ずかしいよ! キミはほんとにボクの尊厳を何だと思ってるんだ」
エスルスは胸元を片腕で隠しながら、もう片方の手で地面をバンバンと叩いた。
大きな声を上げるエスルスの後方で、松の木の枝がボキリと折れた。
ドサリッ!
何かが地面に落ちる音が聞こえた。
「ん?」
私は音のした方へ振り返った。
そこには枝を何本も巻き込み、仰向けに倒れたフリードがいた。
黒い鎧が黒い霧へ変わり、フリードの胸元に小さな十字架だけが残った。
月明かりに照らされた半裸イケメンの魅惑的な胸元が、私の目に襲いかかった。




