第65話「堅牢の殲滅士になる前の少女が堅牢の殲滅士になってしまった話」2/2
戦いは終わらなかった。
メッサーが死んでも。トオルがいなくなっても。
魔物たちは毎日のように街へやってきた。
最初は大人たちの後ろで銃を撃っていた。
いつの間にか、大人たちが私の後ろに立つようになった。
「シェリー! 右から来る!」
「分かってるデス!」
棍棒を持った魔物の腕を闘気で受け流す。
体を横へ滑らせる。
愛銃を持ち上げ、顎の下へ銃口を当てた。
引き金を引く。
倒れた魔物を蹴り飛ばし、その向こうにいたもう一体へ銃口を向ける。
撃つ。
また撃つ。
倒す。
「左側、下がるデス! 私が前に出るデス!」
「でも、シェリー!」
「早くするデス!」
私は常に前に立った。
攻撃を受け流す。避ける。撃つ。
また受け流す。撃つ。
私は倒れなかった。倒れるわけにいかなかった。
「……強いな」
誰かが言った。
「敵の攻撃を全部受け流してやがる」
「しかも、あの数を一人で……」
別の日。誰かが私をこう呼んだ。
「堅牢の殲滅士」
いつの間にか、その呼び名が広がっていた。
どうでもよかった。
私はただ。もう誰も死なせたくなかった。
失いたくなかった。
————
それでも。
人は死んだ。
ツァンゲが死んだ。
北側の防衛線で魔物に囲まれた。
助けに行ったときには、もう動かなかった。
私は小さな鉄の板を拾った。
ツァンゲは鉄のプレートが付いたネックレスを握りしめていた。
『MESSER』と刻まれていた。
私は近くに落ちていた鉄の板に名前を刻んだ。
『ZANGE』
紐を通し、首にかけた。
メルザーが死んだ。
崩れかけた家の中に子供が残っていると聞き、一人で戻った。
子供は助かったが、メルザーは戻らなかった。
『MÖRSER』
鉄の板が一枚増えた。
ベッヒャーが死んだ。
水を汲みに行ったまま帰ってこなかった。
一緒にいた若い兵士、ブレットも帰ってこなかった。
翌朝。
二人が使っていた水桶だけが、道の途中に落ちていた。
『BECHER』
『BRETT』
また増えた。
首だけでは足りなくなった。
腕にも巻いた。
腰にもつけた。
脚にもつけた。
私は死んだ仲間の名前を忘れたくなかった。
忘れてはいけないと思った。
一人死ぬたびに、私は鉄の板へ名前を刻んだ。
そして。ジープが、ライべが、ヴェンダーが、プファネが、レッセルが。
仲間は少しずつ減っていった。
————
最後に残ったのは。
ガーベル。
ケーレ。
数人の子供たち。
そして私だけだった。
「シェリー、こっちだよ!」
ガーベルが倉庫の扉を開けた。
「早く!」
「ガーベルさんはどうするデス?」
「私もすぐ行く」
ガーベルは笑った。
その顔を見て。
私は嘘だと分かった。
「一緒に行くデス」
「ダメ」
「嫌デス」
「シェリー」
ガーベルが私の両肩をつかんだ。
「あなたは子供たちを守って」
聞いたことがある言葉だった。
トオルも私にそう残した。
「でも……」
「お願いだよ」
ガーベルは私の肩から手を離した。
子供たちを倉庫の中へ押し込む。
最後にケーレが私の袖を握った。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫デス」
私はケーレの頭を撫でた。
「お姉ちゃんがついてるデス」
また同じことを。今度こそ。
今度こそ守る。
ガーベルは倉庫の扉を閉めた。
「絶対に出てくるんじゃないよ!」
扉の向こうから声がした。
すぐに魔法の音が聞こえた。
何度も。
何度も。
そのたびに子供たちが肩を震わせた。
私は扉の前に座り、愛銃を握りしめた。
やがて。
大きな音がした。
それから。
静かになった。
「ガーベルさん……?」
返事はない。
「ガーベルさん!」
私は扉を開けた。
外には誰もいなかった。
地面に杖が落ちていた。
その隣には折れた剣。
大きな血だまり。
「ガーベル……さん……?」
目の前に魔物がいた。
口元を赤く染めている。
牙の間に、布切れのようなものが挟まっていた。
ガーベルが着ていたローブと同じ色だった。
「…………」
頭の中が真っ白になった。
私は髪へ手を伸ばした。
桜の髪飾りをつかむ。
髪が引っ張られる。
痛かった。
それでも強く引いた。
髪を何本も巻き込んだまま、桜の飾りをむしり取る。
手の中で緑色の光が広がった。
愛銃へ姿を変える。
「どくデス」
魔物が走ってくる。
私は引き金を引いた。
一体目が倒れた。
二体目。
三体目。
さらに奥から魔物たちが押し寄せてくる。
「どけって言ってるデス!」
撃つ。
魔物が私の腕に噛みついた。
「ッ……!」
血が流れた。
それでも愛銃を離さなかった。
大きく息を吐く。
銃身を横へ振る。
銃口を一体ずつ合わせる。
撃った。
また撃った。
腕が痛い。
足にも力が入らない。
闘気もほとんど残っていない。
それでも。
後ろに子供たちがいる。
「ここは……通さないデス……」
最後の一体が倒れた。
私は壁に手をつきながら、倉庫の入口まで戻った。
足が震えていた。
扉を閉める。
背中を扉へ預けた。
「大丈夫……デス」
扉の向こうにいる子供たちへ声をかける。
「お姉ちゃんが……ついてるデス……」
自分の声なのに、ひどく遠く聞こえた。
顔を上げる。
正面の道。
黒い影が立っていた。
ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
黒いローブ。
青白い肌。
頭から伸びる角。
金色の瞳。
「……暴食の……悪魔……」
女は何も言わなかった。
一歩ずつ。
私の方へ近づいてくる。
私は愛銃を持ち上げようとした。
腕が動かない。
緑色の光も出なかった。
暴食の悪魔は私の目の前まで来ると、ゆっくりと手を伸ばした。
「トオル……」
私は小さく名前を呼んだ。
視界が黒く染まっていく。
「ごめんなさい……デス……」
最後に見えたのは。
私へ向かって伸びてくる、白い手だった。
そこで。
私の意識は途切れた。




