第4話「食欲の魔女と一緒に解説脱力飯テロダンジョン配信を始めてみた話」1/3
食欲の魔女の来訪翌日、私は会社のデスクにいた。
「ひぇひぇ……宮國ぃ……今日の予定はどうなってるんだぁ?」ロクディモントが私のデスクに両手をついて顔を近づけてきた。
――はーい。朝一からクソウザ上司登場でーす。家に得体の知れない魔女を置いたまま出社する羽目になったし、そのせいで寝不足の私はストレスマックスでーす。でも、魔女の心配よりクビとセクシー配信の方が恐ろしいのが、底辺OLの悲しい性なのでーす。
「えーっと……ダンジョン潜って動画作ります。あと、ご飯作る様子配信します」私は爪の隙間に溜まったごみを取り除いていた。
「ひぇひぇ!? 料理配信だと!? ダンジョン配信部門なのにそんなことやってどうするんだ? バカなのか!?」ロクディモントは目を見開いて唾を飛ばしてきた。
「あー、バッチいです。つば飛ばさないでくださーい。最近自費で雇ったプロデューサーがやれっていうんでテコ入れでーす。じゃあ行ってきまーす。宮國、本日直行直帰しまーす」私は立ち上がり、デスクを離れた。手にはパソコンと、配信機材が入ったカバンを持っていた。
何か背後からひぇひぇ語による叫び声が聞こえた気がしたが無視して部屋を出た。
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会社のエントランスで声をかけられた。
「宮國さん……どこに行くのかなぁ? おじさんに手伝えることはないかなぁ?」気だるげな声とともに現れたその男は、砂を固めたようなくすんだ色の長髪を肩まで伸ばし、糸のように細い両眼からはやる気が一切感じられなかった。
「スクワライドさん……おはようございます。ちょっと始まりのダンジョンで配信に」私は肩にかけたカバンを持ち上げて見せた。
――彼の名前はスクワライド・ヴァイゼン。エクリプスのダンジョン配信部門に勤める社員の一人で、歩く武器庫といわれるSクラス配信者だ。ファンからはWWC、スクワライド様、脱力系イケオジ等と呼ばれている。ファンクラブもあるようだ。正直なよなよしてるのに、距離が近いいけ好かないやつだ。何がいいのか正直わからない。
「そうかい……気を付けていくんだよぉ……最近低層階で強いモンスターが見かけられることもあるからねぇ……」スクワライドは細い目を更に細めた。
「あー……大丈夫ですよ。今日はスライムだけですし。ちょっと新しい配信スタイルを試すだけですから……」私は廊下の先を見ていた。
――話長げー。一言一言が長げー……
「ああ……そうかぁ……まあ何はともあれ気を付けてねぇ……若いとはいえ無理はしないようにねぇ~」スクワライドは手を振ってその場を去った。
――何だあいつ。私のこと好きなのかな? おっさんはタイプじゃないし、こういうやつばっかりだな、この会社……
私はエクリプスのエントランスを潜り抜け、はじまりの洞窟に向かった。
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マイクをつなぎ、感度チェックを行う。
「エスルス―、エスルス……聞こえますかー……テステス……こちらツッコ―……」
「ああ……聞こえてるよ、ツッコ。段取りはわかってるね?」イヤホンからエスルスの声が聞こえた。
――OK、音響も問題なし。
「ああ……良かった、昨日教えた通り使えてるね。段取りは、普段通りの会話をしながら、まずはエスルスのアドバイスに沿ってダンジョンを進む。エスルスはダンジョン入り口で待機。今日はスライム+αで無理はしない。ダンジョン攻略が終わったら一度配信を中断して、自宅についたら再開することを告げる。家で飯テロ、今日はトンカツ。でいいんだよね?」私は撮影用のカメラの準備をしながら会話を続けた。
『GOOD』エスルスが親指を立てた。
「ツッコも私も普段通りで行くからね。本当は配信の濃淡つけるためにお笑いの要素も欲しいけど今はそこまで求めなくて大丈夫だよ。ゆっくり行こう」エスルスはイヤホンを耳に付けなおしていた。
「え……? 飯テロってエスルスも食べるんだよね?」私は真顔だった。
「ああ……ボクが食べないわけがないじゃないか……それがどうかしたかい?」エスルスは首を傾げた。
「笑いはないとでも!?」私は目を見開いた。
「え……ごめん、何を言っているか理解できないな。ボクがご飯を食べると何かおかしいのかい?」エスルスは両手のひらを上に向けて、肩をすくめた。
「気付いてらっしゃらない!?」私は空を仰いだ。
「ど……どういう意味かな。ボクの知性をもってしても理解できないんだけれども……」エスルスはあごに手をあてて、視線を泳がせた。
「いや……いい! 皆まで言わないで……配信始めよう」私は話を打ち切って、ダンジョン配信用の撮影機材を取り出した。エクリプス社製の製品で自律型撮影が可能だ。配信開始ボタンを押した。カメラに羽が生え、私の周囲を飛び始めた。




