第62話「堅牢の殲滅士になる前の少女が廃墟でお腹を鳴らした話」
私とトオルは廃墟のようになった街の中に飛ばされていた。
「ニコ、ボロボロの建物ばっかだが、どうやら人はいるようだぜ?」
トオルが暗闇の向こうへ指を伸ばした。
私はその先を見つめる。崩れかけた建物の隙間に、小さな明かりが点々と輝いているのが見えた。
「ほんとデスね……」
私は抱きしめていた愛銃を構え直した。
「とりあえず見に行ってみようぜ。気を抜くなよ? ニコ」
トオルはうっすらと紫色の闘気をまとい、私をかばうように前を進む。
私も同じように闘気をまとおうとするが、パチパチと音が立ってしまう。この暗闇では目立ちすぎる。私は闘気を押さえ、トオルの後ろをついていくことにした。
明かりがついている建物はいくつかあったが、トオルはその中でも大きな旗の立っている建物へ向かっていく。
入口近くまで来ると、剣を腰に差した男と槍を持った男が立っていた。
「おーい、ちょっちいいか? 子連れで迷子になっちまってよ」
トオルは両手を上げ、何もする気はないと言わんばかりにヒラヒラと振った。
「誰だ貴様は! 見慣れないやつだな!」
男がバッと槍を持ち上げ、穂先を私たちに向けた。
「おうおう、元気いっぱいだな? 腹でも減ってんのか?」
トオルは両手を上げたまま、まるで気にしていないようにズカズカと近づいていく。
「ふざけるなっ! そこで止まれ! 仮に減っていたとしても貴様に関係ないだろ!」
もう一人の男が腰の剣を引き抜いた。暗闇の中で刃がギラリと光る。
「関係あるさ。俺は料理人だ」
トオルはニヤリと口角を上げると、腰に差した出刃包丁を引き抜いた。
「りょ、料理人だと? 料理人がなぜこんなところにいる」
男は剣を構えたまま槍の男より一歩前へ出た。さっきよりも私たちとの距離が縮まる。
「さーてね、俺が聞きたいよ。角が生えた顔色の悪い腹ペコ女に会ったんだけどよ? その女に送り込まれちまった」
トオルは立ち止まると、両手を頭に当てて人差し指をピンと伸ばした。
角のつもりらしい。
「なんだと……? その女はローブ姿だったか?」
男の剣先がピタリと止まった。
「ああ、そうだな。俺を喰って力に変えるとかなんとか言ってたな」
トオルは頭の上に作った角をそのままに、首を上下に振った。
「暴食の悪魔だ……貴様、戦ったのか?」
男は小さく息を飲むと、トオルの頭から足元まで確かめるように鋭い目を走らせた。
「俺の包丁で腹を割いてやった」
トオルは頭に当てていた手を上げたまま、背中に背負った包丁ケースを親指で指した。
「そんなバカなわけがあるか!」
男の腕にグッと力が入り、剣の切っ先がトオルの胸元へ向けられた。
「そんなこと言ってもなぁ。事実だぜ?」
トオルは額に手を当てたまま、やれやれと肩をすくめた。
男は剣を構えたまま手を震わせていた。トオルはそんな男を困ったように眉を下げ、じっと見つめている。
緊張感が広がる。
私は愛銃を握ったまま、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そのときだった。
ぐぅうううう~~。
張りつめていた空気をぶち壊すような大きな音が響いた。
私のお腹だった。
「おいおい、腹ペコ娘。ここで腹を鳴らすのかよ」
トオルが私へ顔を向け、ニヤニヤしながらお腹を指さしてきた。
「う! うるさいデス! それより前を見るデス!」
私は熱くなった顔を隠すように愛銃を胸元まで持ち上げた。
「貴様等ふざけているのか!」
槍の男が腰を落とし、じりじりとすり足で一歩だけにじり寄ってきた。
「お前、料理人と言ったな」
剣の男が切っ先をわずかに下げた。
なぜか空いた方の手でお腹を押さえている。
「ああ、そうだぜ? どうかしたか?」
トオルは出刃包丁を腰のケースへ戻すと、その手で自分のお腹をポンと叩いた。
「この建物を入って左手奥にキッチンがある。その子に食べさせてやるといい」
剣の男は私をちらりと見たあと、親指で建物の中を指した。
「メッサー! 何を言っている!?」
槍の男がギョッと目を見開き、隣に立つ男へ勢いよく顔を向けた。
「ツァンゲ、こいつらは悪いヤツではなさそうだ」
メッサーはツァンゲの槍を片手で押さえ、穂先をゆっくりと地面へ向けさせた。
「いや、まだわからないだろう」
ツァンゲは押し下げられた槍を握り直し、眉間へしわを寄せた。
「仮に悪いやつだったとしても、俺たちはあんなに小さな子供に悲しい思いはさせたくない……そうだろ?」
メッサーは私をちらりと見ると、剣を鞘へ収めた。
カチンッ。
その音が響いた瞬間、さっきまで私たちへ向けられていた殺気が少しだけ薄くなった。
「……確かにそうだが」
ツァンゲは私とメッサーを交互に見たあと、槍の石突きを地面につけた。
「おいおい、いつまで話をしてるつもりだ? うちの腹ペコ娘が我慢できなくて泣いちまうよ」
トオルは私の頭にポンと手を置くと、そのままわしゃわしゃと髪をかき回した。
「そんなことで泣かないデスよ!」
私は頭の上に乗った手を両手でつかみ、力いっぱい引き剥がした。
「まあいい、ついてこい案内してやる」
メッサーは建物に向かって歩き出した。
ツァンゲは一度メッサーへ顔を向けたあと、もう一度私たちを見つめた。槍を下ろすと建物の入口へ移動し、周囲の警戒を始めた。
「さーて、何を作るかな。材料を見て考えるか」
トオルは肩を鳴らしながら建物に向かった。
私はその後ろをちょこちょことついていった。




