第60話「堅牢の殲滅士が大人とホメられてえへへった話」2/2
私はシェリーさんのはにかみを見つめ鼻血が噴き出るのを我慢していた。
——今日の狂人はタダのイケメンです! 否! 有料のイケメンです! お金取れます! ゴリランカーに続く宮國家観光スポット第二弾の完成です!
「ふむ、ツッコの不手際をすぐにケアするなんて、さすが上司というだけはあるね」
エスルスは何事もなかったかのように座布団に座った。
フォークを取るとショートケーキを突き刺し口に運ぶ。
無言で咀嚼し始めた。
次のケーキにフォークを伸ばす。
私はその様子を尻目に四人分のコーヒーとシェリー用にオレンジジュースをコップに注いだ。
「美味しいデスぅ……クッキーもおいしかったけど、ケーキも甘々で幸せデスぅ……」
シェリーさんはフルーツタルトを食べて、頬を緩めていた。
——LOVE美さん、ごめんなさい。あなたのことちょっと怖いと思ってました。至高の可愛さの前にSHI! KO! U! って叫びたくなります。
「確かにおいしいね。シェリー、僕は甘いのそんなに好きじゃないから僕の分も食べていいよ?」
フリードは自分の皿をシェリーさんに近づけた。
「おい、フリード。テメェ、シェリーに優しいのはいいが、甘い物バッカ食わせんじゃねぇよ。病気になったらどうすんだ」
セラがフリードをにらみつけた。
「え?」
私はセラの方をガン見した。
——このゴリラ、今糖分の取りすぎは病気になるといったのか? ゴリラが?
「おい、ツッコ。テメェまた失礼なこと考えてるだろ。アタイは一応こいつらン中じゃ常識枠だってのに……」
セラはシュークリームを親指と人差し指でつまむと口に放り込んだ。
「ふぁぁぁん♡ 甘いよぉおお♡」
そのまま座卓に突っ伏した。安定の即オチであった。
「頼むから常識という文字を辞書で開いて1,000回読み上げてくれ」
私は顔を手で覆い、首を上に向けた。
「シェリー……あれは見ちゃダメだよ」
フリードがシェリーさんの目を手で覆った。
「ホラーとか、スプラッタはよく見たので平気だけどえっちぃのはニガテデス……」
シェリーさんはフリードの手の隙間からそっと視線だけを覗かせ、小さく身をすくめた。
「シェリー、そろそろその話を聞こうか。あっちの世界でいなくなってから何があったのか」
エスルスがナプキンで口をぬぐう。エスルスの前の皿は空っぽになっていた。
——おい、こいつ叫ばなくてもご飯食べられるのかよ。今までのは何だったんだ。ホント。
「エスルスお姉ちゃんは私とトオルがいなくなった日のこと覚えてるデスか?」
シェリーさんは皿を机の上に置くと、フォークを皿の上に重ねた。
「覚えているとも。夜に家の近くで大きな音が聞こえたと思ったら君たちがいなくなっていた」
エスルスはシェリーさんの前に置かれたフリードの皿を当然のように手に取った。
「アタイやフリードも探したけど、裏手の山に大きな穴が見つかっただけだった」
セラは机に顔を乗せたまま目線だけをシェリーさんに向けた。フルーツタルトに手を伸ばした。
——おい、シリアスなシーンで食うな。
「家の中には荷物や着替えなどは残っていたから急にいなくなって不思議だったんだ。何日も探したけど結局見つからなかった」
フリードはシェリーさんを優しく抱きしめた。
「あの夜、私とトオルは暴食の悪魔と名乗る女と戦ったデス。いや……」
シェリーさんは桜の髪飾りを手に取った。
「戦ったというよりも守られていたというのが、正しいデス。私の力は何も通じなかったデス……」
髪飾りを握りしめ、手を震わせた。
「暴食の悪魔……? エスルスと関係あるの?」
私はコーヒーカップに口をつけ、小さく首をかしげた。
「何でそうなるんだい。ボクはそんな女のことは知らないよ」
エスルスはフリードの皿のシュークリームを口に含み、飲み込んだ。
「それが何で二人がいなくなることにつながるんだ……よぉ♡」
セラはガトーショコラをほおばり、体を震わせ、恍惚とした表情を浮かべた。
「ちょっと長くなるけど順を追ってちゃんと説明するデス」
シェリーさんはオレンジジュースを手に取り、くぴりと一口飲み込んだ。
「あれはトオルと私が闘気の使い方の訓練を行っていた時のことデス」
シェリーさんの金色の瞳がわずかに揺れ、ぽつりぽつりと話し始めた。
〇今回の声に出して読みたいかっこいいドイツ語講座ァーッ!
●Dafür habe ich mir die Knochen geschundenンンッ!(ボクが何のために重労働をしたというんだッ!)
Dafür・・・このために、そのために for this/thatですね。疑問の文脈と強い感情が乗ることで「一体何のために!」という反語になります。
habe・・・英語の have に近い語。ここでは geschunden とセットになって、現在完了形「〜した」を作ります。
ich・・・ボク、私 Iですね。
mir・・・自分自身に、という意味の再帰代名詞です。ここでは die Knochen(骨)と組み合わさり、「自分の骨身を」という表現を作っています。
die Knochen・・・骨、身体 the bonesですね。
geschunden・・・(皮がむけるほど)痛めつけた、こき使った。
下衆ン殿(ゲシュンデン:こき使う)。下衆MAX(ゲシュマックス:味覚)に続く下衆シリーズ第二弾ですね。神殿のような荘厳な響き……は感じられませんね。
下衆のようにこき使う神殿と覚えてください! どこかの聖帝を彷彿とさせますね。
sich die Knochen schinden で「(自分の)身体や骨を痛めつけるほどあくせく肉体労働をする・粉骨砕身する」というドイツ語の有名な慣用表現です!
直訳すると「このためにボクは自分の骨身を削ったというのか!?」となります。
目の前の美味しいものを前にして、自分がしてきた努力や重労働の過酷さを叫ぶ、魂の咆哮フレーズです!
なお、やったのは皿やフォークを並べてコーヒーを準備したくらいです。重労働とは?




