第60話「堅牢の殲滅士が大人とホメられてえへへった話」1/2
私たちはゴリランカー再建記念式典を開催することなく、四人で居間に移動した。
居間の座卓の上にはすでに五人分のフォーク、皿、コップが並べられており、電気ポット、コーヒーメーカーまでセットされていた。
「準備がいいね。誰がやってくれたの?」
私は配信機材の入ったカバンを床に置きながら座卓の上を眺めていた。
「エスルス様ですよ」
フリードはゆっくりと畳の上にシェリーさんを下ろし、自身は隣の座布団に腰かけた。
シェリーさんは周囲の座布団を見つめ、当たり前のようにフリードの膝の上へ座った。
「早くケーキが食べたかったからねぇ。早く! ボクがガマンできるとおもうかい!?」
エスルスは机の上のフォークに勢い良く手を伸ばした。
「あー……ありがとう。でも、エスルス、もっと他に言うことあるんじゃない?」
私はフリードの上に座るシェリーさんを見つめていた。
——部門長……なんだよな。初めて来た会社の偉い人が狂人イケメンの膝の上に座って本人が違和感なさそうにしてるの、脳がバグるな。
「他? いただきますは料理が出てからいうものだろう? キミはバカなのかい?」
エスルスはケーキの入った袋を開けて、ケーキを取り出し始めた。
「いや、そうじゃなくて。シェリーさんが来てるんだよ?」
私はエスルスに皿を手渡した。
「ふむ? 食べることより優先されることがあるとでも?」
エスルスは皿の上にケーキを並べながら鋭い目で私を見つめた。
「エスルスお姉ちゃんは相変わらずなのデス。いいデス。今日はお泊りセットも持ってきてあるからゆっくりするデス」
シェリーさんは持参した小さなポーチをぽんと叩いた。
「さすがはシェリー。キミはツッコと違って大人だね。しっかりしてる」
エスルスは自分の前にケーキを並べ、深く満足そうに頷いた。
「おい、私が非常識みたいに言うなよ。お前らの常識ちょっと狂ってるぞ」
私は眉をひそめ、人差し指でエスルスとシェリーさんを交互に指さした。
「全くだぜ……普通生き埋めにしたままどっかに行くか?」
ゴリラの声が居間に響いた。
私はハッとして居間の入口に向かって振り向いた。
そこには全身を蒼色に光らせ、いつもどおり頭部から血を流すゴリランカーの建築素材が揺れていた。
「あー……首がいてぇ。シェリー、闘気が強くなったじゃないか」
ゴリラは首をゴキリゴキリと鳴らしながら近づいてくる。座布団にドカッと座ると闘気が小さくなり消えた。
ゴリラの負傷はすでに完治していた。相変わらずのノスフェラトゥっぷりだった。
「いろいろあったデス……さっきみたいに死にかけたことも一度じゃないデス」
シェリーさんは桜の花飾りを撫でていた。
「ふむ。それはケーキを食べながらじっくり聞こうか。ツッコ、説明を」
エスルスは皿の上にケーキを並べ終えていた。
「えっと、イチゴが乗ってるのがショートケーキ、そっちにある丸いのがチーズスフレ、黒いのがチョコレートを使ったガトーショコラ、ベリーや桃を使ったフルーツタルト、あとはシュークリームだね」
私は指をさしながら一つずつ説明した。
「さて、どれから食べようかな?」
エスルスは舌なめずりをして、手をすり合わせていた。
「おい、全部食うなよ。一人一個に決まってるだろ」
私はエスルスの手をはたいた。
「な! ボクがこれだけの食事を前に一つしか食べちゃいけないなんて……」
エスルスは立ち上がり、両足を広げ、腰を落とす。
『Dafür habe ich mir die Knochen geschundenンンッ!(ボクが何のために重労働をしたというんだッ!)』
天井を見上げ、咆哮した。銀髪が大きく揺れていた。
「エスルスお姉ちゃん、五月蠅いデス。こうすればイイデスよ」
シェリーさんは太もものナイフホルダーからコンバットナイフを抜くとケーキをきれいに五等分に切った。
皆が食べる分をそれぞれのお皿の上に並べ直した。
「シェリーは大人だね」
フリードはシェリーさんの頭を撫でた。
シェリーさんは小さく「えへへッ」とはにかんだ。




