第59話「堅牢の殲滅士が自由落下によりゴリランカーを再建させた話」
「ただいま! シェリーを連れてきたよ!」
エスルスは玄関の扉を大きく開けると、家中に響き渡るような大きな声を出した。
「声が大きいデス!」
シェリーさんは両手で耳を塞いだ。
「この家は大きいからね。このくらい声を出さないとダメなんだよ?」
エスルスは小さく肩をすくめた。
「エスルス、いつも言ってるけど大きい声出しすぎると町内会で怒られるからやめて」
私はエスルスのすくめた肩を突いた。
「まあ……確かにこのおうちはとても大きいデス」
シェリーさんは玄関の前に立ち、外を眺める。日本庭園のような庭、石灯籠、その横にある穴を物珍しそうに見つめていた。
「無駄に大きいだけだよ」
私はゴリランカーが建造されていた穴を見つめた。
——あー……あのゴリラちゃんと埋めてないのかよ。
「やあ、ツッコちゃん、エスルス様、戻ったんだね」
フリードが廊下の奥から歩いてきた。エスルスの隣に立っているシェリーさんに気づき、目線を下に向けた。
「シェリーちゃん、ほんとにキミもこっちに来ていたんだね」
フリードが白い歯を見せた。玄関から入りこむ月明かりを反射していた。
——ムーンライトイケメン! 今日も変わらずかっこいいですね! ほんとにもったいない!
「フリードおにい……お久しぶりデス」
シェリーさんは玄関で厚底のコンバットブーツを脱ぐとフリードに近づき、足に抱き着いた。
「シェリーちゃん、僕も会いたかったよ」
フリードはシェリーさんの頭を撫でた。シェリーさんは頬を赤らめ、フリードの足に顔をうずめた。
「会えてうれしいデス……もう会えないかと思ったデス」
シェリーさんは顔をうずめたまま声を震わせていた。
「僕も心配してたよ。会えてよかった」
フリードはシェリーさんの背中をトントンと叩く。目を細めるが、その目はうっすらと潤いを含んで月明かりを反射していた。
——何! この尊いやり取り……私の心がもうもたーん! ってキーボードがあればやっちゃいそうなんだけど!
「シェリー! ほんとにシェリーなのかよ!」
廊下の奥からゴリラが縄張りを主張する咆哮のような声が響いた。
地響きとともに迫りくる金髪のゴリラ。セラはフリードの足に抱き着くシェリーさんを引きはがすと脇に抱え、そのまま外に飛び出した。
「ちょっと! セラ! 何するデス!」
シェリーさんは全身を淡い緑色の光で包み込み、両手両足をばたつかせた。
「シェリーだ! ほんとに……ほんとにシェリーじゃねえか……」
セラは大粒の涙を流すとシェリーさんを抱きしめた。全身が蒼色の闘気で覆われバチバチと音を立てていた。
「い……痛いデス! セラ、闘気も力も強すぎるデスッ!」
シェリーさんの体を包む緑色の光が淡い色から深緑に変わり、轟轟と唸るような音を立て始めた。
「はっはー! シェリー! 闘気も強くなったじゃねぇか! 姉ちゃんは嬉しいぞ!」
セラはシェリーさんの両脇を下から持ち上げるように抱える。全身から闘気を吹き出した。
「ちょっ! ちょっと待つデス! それはイヤ……」
シェリーさんが両手をセラの胸に突っ張り抵抗しようとするやいなや、セラは全力で腕を真上に振った。
シェリーさんはものすごい勢いで射出され、深緑の光をまとい、蒼色の残光を引きながら空に消えた。
「金髪ゴリラ! 何やってるの!? シェリーちゃんが死んじゃうじゃない!」
私はセラの蒼い闘気で包まれた体を小突いた。拳が痛かった。
セラは私の抗議を気にも留めず、おでこに手を添えたまま、シェリーさんが星になった方角を眺めていた。
私は両手に紫色の闘気を渦巻かせると、セラの背中を思いっきり押した。
「おいっ! ツッコ! いきなり押すんじゃねえよ!」
セラは私が押した勢いで二歩、三歩と前につんのめった。
「おわっ!?」
セラはそのままゴリランカー跡地に足を引っかけ穴に頭から落ちた。
「ツッコ……テメェ何すんだよ!」
セラが穴から這い出ようと、穴の底に両手をついた。
空から空気を裂くような音が近づいてくる。
セラは地面を押し、穴から顔を出した。
「あぁん? なんだこの音は?」
セラは空を見上げた。目の前には緑色の闘気に包まれた小さな足があった。
空に放り投げられたシェリーさんは体を丸め、全身を闘気に包んだ状態で自由落下していた。
シェリーさんの全体重と落下の勢いを、セラは顔面でもろに受け、ゴリランカー跡地に頭から突っ込んだ。
ズゥンッ! という鈍い音が響き、あたりが沈む。周囲に土煙が立ち込めた。
「怖かったデスぅ……セラはひどいデスぅ……」
シェリーさんは半べそになりながらよろよろと土煙の中から出てきた。
土煙が晴れると一回り大きなクレーターができ、その中央にはゴリランカーが再建されていた。
「シェリーちゃん、大丈夫かい? けがはないかい?」
フリードは半べそをかいているシェリーさんに近づいた。
「フリードおにい……怖かったデスぅ。セラを後で怒ってほしいデスぅ」
シェリーさんはフリードに抱き着き、顔をうずめたままゴリランカーを指し示した。
フリードは裸足のシェリーさんを抱きかかえた。
「ひゃあ! おにい……もう小さくないから恥ずかしいデス」
シェリーさんはぷぅっと頬を膨らませた。
「あたりに石が散らばって危ないからね」
フリードはシェリーさんを抱えたまま玄関を抜けて家に入った。
私とエスルスはシェリーさんが指し示していた先を見つめていた。
地中から突き出たセラの下半身はビクンッ! ビクンッ! と震えていた。
「大丈夫そうだね。早く食べないとケーキが痛んじゃうかもしれない」
エスルスはケーキの紙袋を持ち上げた。
「うん、そうだね。そうしよう」
私は小刻みに震え始めたゴリランカーを一瞥すると何事もなかったように家の中に向かった。
半月がゴリランカーを照らし、いびつなシルエットが日本庭園を飾っていた。




