郁の異変?
母屋で饗された日の翌日から、イクシーの住まいの中心は母屋に変わり、宏の寝室で寝泊りする様になっていた。宏は警護の都合上と言っているが、イクシーに熱を上げているのは、誰が見ても明らかだった。
「本名は何ていうんだ?」
元々は生島卓人というが、そう答える訳には行かない。前のチュートリアルで娼館にいた頃の源氏名をそのまま使っているので、イクシー以外の名前は無かった。一応、名前については聞かれる機会が有ればこう答えると準備していた。赤ん坊の時、拾われた時に取り敢えず付けた呼び名がイクシーで、その後そのまま本名の様に使っていると伝えた。
「これからは郁と名乗りなさい。」
と命名した。
城に転居する際も宏は、
「明日、迎えを寄こす。秘密を知った仲間だけで登城しなさい。」
と抱き締めてから馬車に乗り込んだ。
宏の言う通り、翌日、城からの使いが来て登城の指示が伝えられた。ゆい達スープ一行は大公家の馬車で城に向かった。
用意されていた宴の席は、王族と国の重鎮達、その中には、ホンモノの椿嬢の父、里塚公爵も結構な上座に座っていた。ゆい達は、場違いな格好で席に着いた。
城のメイドに連れて行かれたイクシーは衣装部屋に。メイド達はテキパキと作業を進め、髪を結い直し、化粧筆を走らせた。豪華なドレスとアクセサリーで、あっという間にお姫様が出来上がった。
宴の広間まで来ると、自動的に扉が開き、宏が待っていた。郁の前まで進むと膝を付いて、手の甲にキス。上座の中央の席にエスコートした。
宏は立ち上がり、
「この度、里塚公爵家御息女、椿嬢の替え玉をして頂いた、冒険者の郁殿です。」
立ち上がる様、目配せした。流れに合わせて立ち上がると、
「郁殿を妃に迎えたい、我が妻になって欲しい。」
まさかのプロポーズ。郁にとっては寝耳に水だが、集まっていたおえらいさん達は、その発表のために集まっていたので、郁の返答も聞かぬうちに、スタンディングオベーションで二人を祝った。郁は断わるタイミングを逸してしまった。それぞれのグラスには、スパークリングワインが注がれ、郁には果実水が用意されていた。
驚いたゆいは、念話で尋ねる、
『知ってたの?この展開!』
『いや、初耳!』
『コレって、決定事項みたいね。』
『あ、うん・・・もう、今更だよね。』
郁は、果実水のグラスを手に取り宏と乾杯した。
その会は、簡単な顔合わせで終わり、郁はそのまま城に部屋を与えられた。ゆい達には客間が用意されていたが落ち着かないのでそれを辞退、大公家の離れに戻ることにした。
城を出てすぐ、郁に念話を送った。
『ねぇ、届いてる?』
『うん、大丈夫。』
城の結界で、許可された者しか念話が通じない縛りが掛かっている。
『俺も繋がってるぜ。』
ボルも参加、全員試して無事疎通確認出来た。
離れに帰ってから再確認、
『じゃあ、郁の荷物を運べばいいのね?』
『うん、お願い。』
王妃になってしまえば必要無さそうな着替えや、小物等を纏めて、アイテムバッグに収納した。
翌朝、ゆいは独りで登城。貰っていた通行証で難無くゲートを通過。郁の部屋までほぼスルーで到着出来た。
「おはよ、郁!あっ失礼しました、おはようございます王妃様!」
「やめてよ、そんな、未だだし。」
「フフッ、荷物持ってきたけど、王妃様には必要無さそうじゃない?」
「何か用事が無きゃ来てくれないでしょ?」
「まぁ、そうね。まさか脱走とか考えてないよね?」
「いや、流石にソレはムリでしょ?ちょっと気になる事があって。」
「どうしたの?」
「実は・・・」
城のメイド達が、恭しく対応してくれるのは立場上当たり前かも知れないが、気の使い方がどうも気になると言う。
「昨夜の乾杯も、あたしだけノンアルだったでしょ?もしかして妊婦扱いかと思ってさ。」
「でも、魔法で避妊してるんだよね?」
「そうなんだけどさ、気になるの。」
「それなら、鑑定してみるね!」
ゆいは郁の額に人差し指を当てて、魔力を込めた。
「あら?ホントに赤ちゃんかも!もうちょっと見せて!」
ベッドに寝かせ腹を擦りながら魔力を込めた。
「うん、間違い無いよ!おめでと!」
「めでたいかな?」
郁は少し黙った後、
「DNA鑑定とか出来る?母屋に行く前、ウチの皆んなとシてたから、誰の子か解らないでしょ?」
「流石にムリね。あ、でも、血液型なら解るわ!」
ゆいはそのまま腹を擦り続け、
「郁はO型でしょ?赤ちゃんはBだから、パパは、BかABね!宏さんは?」
「コッチじゃ血液型って浸透してないでしょ?解んない。」
「じゃあ、帰って皆んなの血液型調べて見るね。」
早速離れに帰った。




