大公邸
王都迄の道中、普段のスープであれば、移動効率を重視して朝日と共にスタート、日没迄走れるだけ走って、宿か有ればラッキー、無ければキャンプと言うのが定番だが、貴族のお嬢様はそんなハードな旅はしない。あさ清々しい空気の中で、優雅に朝食。涼しいうちに走り、暑くなってきたら、木陰で休憩。しっかり昼休み、暑さのピークを避けてから午後のスタート。宿があれば、日が高いうちにその日のゴール。普段の半分程度しか進めない。更に面倒なのは、他領の領主の館がある街の場合、必ず挨拶に訪問し、そこでパーティーか開かれ最低1泊はする。そこに到着する迄に、どういう間柄七日、どう接するべきかは、奈緒美が事細かに指導して準備万端。13歳のお嬢様は社交界デビュー前なので、背格好、髪や眼の色が情報通りで、立派な馬車と護衛団の効果もあり、替え玉を疑われる事すら無かった。
40日掛けて王都に到着。智志の道案内でやって来たのは、とあるお屋敷。依頼を請けた時に、なんとなく聞いていた、高貴な方の屋敷だった。
高貴な方とは、現在の王の叔父にあたる大公様。その嫡男の許嫁の替え玉としての来訪なので、盛大に迎えられた。王には、王子が3人居るが、いずれも王妃の子ではなく、取り敢えず王位継承順位は、1、2、3位ではあるが、4位の大公、5位の嫡男の方が人気がある。王子達を推す貴族達が三竦み状態で、日和見派がどこに着くかが王位継承の決め手と考えられていたが、やって来た椿お嬢様は、里塚家と言う、江戸時代の徳川幕府で言う、御三家の様な家柄。王家に継ぐ者が居ない場合の候補を立てる事になっている。日和見派どころか、王子推しの中からも、大公嫡男に推し変する者も少なく無いと予想されている。
歓迎の宴を終えると、
「宏、お前が案内して差し上げなさい。」
大公は息子に、椿の案内を指示した。
宏は、改めて丁寧に挨拶し、手を引いて離れに案内した。ゆい達も広間に入った事を確認すると、扉を閉めて結界を張った。
「スープの皆さんは揃ってますね?」
「はい。」
椿、いやイクシーがおしとやかに返事をした。
「替え玉の件を知っているのは、両親と僕だけです。ここ以外では椿嬢でお願いしますね。」
その他諸々を打ち合わせた。椿嬢を襲うと推測されるのは、3王子推しの数人が挙げられるが、直に手を下すとは考え辛い。闇の人脈を使うのがセオリーだろう。そう考えると、不特定多数を怪しむ事となる。替え玉で返り討ちするのが、効率が良いと、今回の依頼になったらしい。10日後に予定されている王家の晩餐会で宏と椿の婚約が発表されるので、暗殺が企てられるならその前の筈。その晩から襲撃に備えた。
離れでの生活は何不自由無かったが、
「はぁ~」
『早く襲ってくれないかな?』
3日目には、イクシーは大きな溜め息と共に念話で愚痴を漏らした。
『流石に、24時間ネコ被りっぱじゃ大変よね。暗殺なんて無い方が良いけど、サッサと済んで欲しいわね。』
ターゲットになる為、中に誰が居るか解って、破られる程度の結界しか張っていない。お喋りも念話でしか出来ない。
『移動中は、しっかり結界を張ってたから、独りで楽しんで、声漏れても良かったけど、ここじゃ、ソレも出来ないでしょ?』
ゆいは、イクシーの不満を理解するのに少し時間が掛かったが、
『ソレ、真顔で言うから、なんのコトか解らなかったよ』
と赤面しながら答えた。




