替え玉
イクシーが、イタズラ半分?いや、ほぼほぼイタズラで懲らしめたパーティーは、かなり面倒なクレーマーだったようで、受付嬢からも、他の冒険者達からも拍手と賛辞が舞い上がった。目立ち過ぎると、面倒な事に巻き込まれそうなので、逃げ出す様にカウンターを離れたが、外の扉に到達する事は叶わず、
「ちょっと良いかな?指名依頼を請けて頂きたい。」
ギルマス、若しくはそれらしい管理職だろう。応接室の前を素通り、奥の突き当りの部屋のドアを開けた。そのまま窓を背にした大きな机に進んでドカッと腰を下ろす。
「まぁ、寛いでくれ。」
秘書らしい女性に合図をすると、サッと居なくなり、お茶を用意して現れた。
依頼を持ち掛けた男は、ゆいの予測通りギルマスで、そこからの展開は、やはり予測通り面倒な依頼を告げられた。予測通り断わる事は困難、と言うか断わる事は不可能だろう。諦めてソファーに腰を下ろした。
依頼を請けたスープ一行は、宿探しをする事無く、領主の屋敷を訪れた。
「お待ちしておりました。」
執事らしき老紳士に迎えられ、派手さは無いが立派な部屋に通された。
すぐに現れたのは領主夫妻とお嬢様。指名依頼の意味が良く解った。13歳のお嬢様は椿様、その歳にしてはスラリと背が高く凛とした雰囲気はかなり大人っぽい、小柄で華奢で童顔のイクシーは影武者にピッタリ。髪色もほぼ同じで、目立った違いは胸だけだった。
依頼は、王都迄の護衛。正確には護衛と見せ掛けた替え玉。貴族のルールは面倒なのでスルーしたが、かなり偉い人の許嫁で、ここの領主も田舎ではあるが何代も続いた名家らしい。この婚姻で貴族達のパワーバランスが激変する事は確実で、それを良く思わない輩は大勢いて、暗殺の恐れがあるらしい。
前のチュートリアルで、騎士団長の孫娘の替え玉を演じるため、淑女に見えない事もない程度の教育を受けていた上、女性として暮らす時間が増えたり、聖女と崇められ、それっぽく振る舞っていたので、簡単なミーティングで変身を済ませた。胸がキツく、ドレスを新調しなければならなかったのが想定外だったが、領内のお針子を総動員して、何とか3日で十数着を完成させた。
ドレスを待つ間、イクシーは念のため淑女教育を継続。ゆいはメイド、男子達は護衛騎士に成りすます特訓。
いつもの馬車は見掛けポンコツの高性能車だが、そのまま乗る訳にはいかないので、中身はそのまま、領主様仕様の重厚な見掛けに改装してもらった。コレも馬車職人を総動員し3日で完成した。
VIPお嬢様の護衛が5人と言う訳にはいかないので、ホンモノの騎士も同行する。人数も勿論だが、ある程度の人物でなければ不自然だろう。熟慮の上選ばれたのは、騎士団長の長男智志。基本的に世襲制なので、実質的な時期騎士団長。立場としては問題無く、現状は要職と言う訳では無いので、本来の業務にも影響は少ない。他の団員も働き盛りを避け、引退前のベテランと、落ち着いて見える新人で揃えた。結果、次代を担う若きリーダーと、御目付役のベテラン、若手有望株といった、理想的な、いや、理想的に見える護衛団が完成した。
出発の日、ゆいとイクシーは、メイドに扮しお嬢様の部屋を訪れた。イクシーはドレスに、椿お嬢様はメイド服に着替え、替え玉完成。領主様仕様に改装した馬車に乗り込んだ。
馬車のメンバーは、椿役のイクシー、メイド役のゆい、ホンモノのメイド奈緒美、護衛団リーダーの智志、護衛役のフカヒレとミンシル。馭者台にはボル。トムとブイヤは馬で前後を固める。更にその前後の馬車に、護衛とメイドが乗って、騎馬を含め総勢30名。お嬢様の旅に相応しい一団となった。




