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おぼっちゃま

 翌朝、少しゆっくり宿を発った。目的のダンジョンが中途半端な距離で、のんびり夕方に到着する計画だった。


 予定通り、ダンジョン前のキャンプスペースに日の入り前に到着。かなりの僻地なので、貸し切り状態を予想していたが、テントが十数張り規則正しく並んでいた。

「面倒くさいヤツかな?」

ミンシルが眉間にシワを寄せた。


 ミンシルの推測は的中、直ぐに寄って来た男は、子爵家の使いだと名乗った。

「ダンジョン踏破を目指すなら雇ってやる。日当は銀貨5枚、魔物を倒せば歩合で支払う。食糧は支給する。」

「いえ、結構です。私達は勝手に進めますのでお構い無く。」

「そんな軽装備で、食糧なんかロクに持て無いだろう?」

「いえいえ、ご心配頂かなくても。」

ゆいは出来るだけ穏便に断わろうと努力したが手に負えず、使いを魔法で眠らせ、離れた場所に結界で隠れて、その中にテントを張った。子爵の使いは、直ぐに目を覚まし、ゆいとの会話が夢なのか現なのかが解らないまま、テントの団地に帰って行った。


 夜更けに、ダンジョンから4人の冒険者が戻った。

「薬や包帯、あるだけ全部持って行く、30階層で、トップチームが全員死にかけてるんだ、多分ここまでだろう。」

大きな組織で攻略するには、ベースキャンプや資材運搬等をスタッフに任せ討伐に集中して進めるが、どうやら戦力的に限界らしい。ドンドン潜り進んでいる後を追う場合、先に討伐した所をラクに進めるが、魔物から採れる魔石やアイテムは手に入らない。最深層を踏破しても何のメリットも無いので、他人の不幸を喜ぶ様で申し訳無いが、30階層で諦めて貰えば、ギスギスせずに済む。撤退を待ってから入れ替わる予定でしばらく、結界で隠れたまま過ごす事にした。


 明け方、テント団地の方がが騒がしくなった。

「若様が、僅かな手勢と共にフロアボスに挑んで、戻りません!全ての武器弾薬を降ろして、全員で捜索に向かう!」

前線からの伝令だった。


「コレ、不味いパターンだよね?」

聴き耳を立てたブイヤは、救出を提案した。

 総攻撃の準備をしているテント団地を横目に、コッソリとダンジョンに潜った。

 組織的な攻略の場合、ダンジョン前のベースキャンプ、途中に中継キャンプ、進行した最深階層手前の前線キャンプを設置、その間を頻繁に往来するので、殆ど魔物は出没しない。偶に出る雑魚を蹴散らし、ドンドン潜る。10階層と20階層に中継キャンプが有り、テントは空っぽだった。

 29階層には、前線キャンプと思われるテントが有り、負傷した冒険者の手当てが忙しなく行なわれていた。テントを覗いて鑑定すると、重体患者が数人。集中治療かと思ったが、治療を断念した様子だった。ゆいは、いかにも貴族風の年配の男性に声を掛けた。

「偶々通りがかったのですが、ヒールのお手伝いしましょうか?」

偶々通りがかるなんて有り得ないが、

「それは助かる!テントの中はもう助からないから、向こうから診て貰おうか。」

「いえ、こちらから。」

スルリとテントに入ると、命に関わる傷を即ヒール、会話が出来る程度に回復させた。


「・・・女神様が居るって事は、天国なのか?」

意識を取り戻した冒険者には、ゆいはそう見えたようだ。

「まだ生きてますよ、29階層のキャンプです。随分ムリなさったようですね?」

「ああ!そうだ!若さんに撤退を進言しなきゃ全滅だ!早く連れてってくれ!!」

絶え絶えの息で声を振り絞った。

「その若様が、突っ込んだそうよ。」

「無理だ!俺等でも歯が立たないんだ、実績を金で買った坊っちゃんなんて、瞬殺だ!」

「落ち着いて下さい、下の様子を教えて下さい。あと、若様の代わりのボスはあの方でいいです?」

「あぁ、あの偉そうな奴が執事だかなんだかって言ってたな。それで、下の魔物は・・・」

 30階層はカマキリの魔物が複数居るらしい。かなり巨大で、鎌に当たったらほぼKO。殻は硬く、剣は役に立たない。動きも俊敏で、魔法攻撃も軽々躱してしまう。雇われ冒険者のレベルは30台ばかりなので、スープのレベルであれば、太刀打ち出来るが、若様達が隠れて生き延びている可能性もある為、慎重な闘いが要求される。地形等の情報や、無理した理由も聞き出して、執事との交渉に向かった。


「解った、それで良い。直ぐに向かってくれ。」

若様の救出を請け負い、救出後は撤退する契約を交わした。生還なら金貨500、遺体なら250で相場よりも安めだが、撤退してくれれば面倒な事にならないのでまぁ仕方が無い。

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