1つ目の世界③
決戦の地に、それは佇んでいた。
「災い」を司る龍、マレディクス。その姿は、圧倒的な強さと美しさを併せ持っていた。
白矢は、エルドに乗って空中を走っていく。視界の先にマレディクスの姿が見えると、その場に留まって、後方の部隊員に告げる。
「―――全員、傾注!この先にいるのが災祟龍だ。……感じるか、やつの圧倒的な殺気を。怖気づいた者、家族の心配をしている者は、今のうちに戻ったほうが良い。戦闘が始まったら、そんな隙はなくなると思え」
その言葉に何人かが身震いするが、その場から立ち去るものはいなかった。それを見て、部隊長の男が白矢に言葉をかける。
「白矢様、ここにそんなやつはいやしませんよ。俺達は、貴方様の弟子のようなものなのです。仲間のために向こうに残ったものはいれど、師匠の勇姿を見ずして、部隊の一員を名乗る愚か者はいないのです!」
「……愚問だったな。その心意気やよし、行くぞ!」
一斉に速度を上げ、決戦の部隊へと降り立つ。
「『武具創造』!『オートバトルモード』!『自動装填』!」
白矢の周りにいくつもの重火器が並び、一斉に攻撃を始める。全身をくまなく撃ってまわり、外殻がほかより柔らかいところを見つける。
(あそこだ!他よりも鱗が薄くなっている!)
「総員傾注!遠距離部隊は胴から首あたりを、近距離部隊は足を狙え!バランスを崩したら、全力で頭を撃つ!」
全員が白矢の指示通りに攻撃を始める。だが、敵も黙ってはいない。天高く咆哮を上げると、突然、落雷が起きた。だが、雷はただの電気ではなく、「炎の雷」であった。
(二属性魔法!?いや、違う、この感じはスキルの力だ!やっぱり、テンプレ通りの攻略法じゃだめか…!)
白矢が指示を出すより早く、後方部隊が防御魔法で防ぐ。だが、その抵抗も虚しく、一瞬にして被害が広がった。
「並の防御魔法じゃ駄目だ、アレを防ぎきれる手段……どうすればいい……考えろ……持てる全ての力で対抗するんだ……!」
攻撃に対処しながら、白矢は思い出した。
(そういえば、あの雷が落ちる直前、鱗全体が輝いたように見えた。偶然か?くそ、まとめるには情報が足りない…!いまある最大火力で挑めるのはこの一戦だけ、焦ってはいけない…もっと深く、もっと広く考えろ……!)
その時、また咆哮を上げて、雷が落ち始めた。そして白矢は、自分の仮説が正しいことを知った。
(背中の外殻から何かが放たれている…?もしや!)
白矢が狙いを外殻に絞って攻撃すると、雷がすぐに止んだ。
「やっぱり…!砲撃班!背中にある外殻を狙え!」
白矢の指示に瞬時に反応し、設置型の兵器が照準をあわせる。
(よし、こっちはこれで大丈夫だろう。さて、僕も降りよう!)
「エルド、空中から攻撃を頼む!」
[承知!主よ、くれぐれも集中を切らすな!]
「ああ、分かってる!行くぞ!」
勢いよく飛び降り、全体を切りつけながら地面に足をつく。
「状況は!」
付近にいた兵士に問いかけると、すぐに返答が帰ってくる。
「は!部隊50名の内約35人が負傷、後方で回復をさせています」
「分かった。総員、散り散りになって、自分が一番攻撃しやすいところをひたすら叩け!他のものと被ってもいい、とにかく殴れ!やつが一点に攻撃を集中しないようにするんだ!」
部隊員たちが一斉に散らばり、再び攻撃を始める。
「さて…。始めるか」
(うまくいってくれよ……。「思考会話」)
そのスキルを使った瞬間、脳内に声が流れる。
『ほう?お前、俺と会話ができるのか』
『まあね。一応、人間のつもりではあるけど』
『確かにお前からは、人間の匂いがあまりしないな。…むしろ、俺達に似た匂いがする』
『俺達?それは、どういう……』
『まあ、それはいい。一つ、要望があるのだが』
『それが、ここに来た理由ってことか?なら聞こう』
『うむ。………人間の中では、俺は災いを象徴する、と呼ばれているのだろう?その考えを変えてほしいのだ』
『………詳しく聞こう』
『俺は確かに概念の象徴だ。だが、俺は『光』を司る龍光迅龍。光を生み出すもの…電気や炎といったエネルギーを司る存在だ』
『では、災いの象徴とは一体?』
『………『厄』を司る龍、厄縛龍。そして『闇』を司る龍、闇烙龍。この二体が合わさる時、マレディクスが生まれるのだ』
『なるほど。……そろそろ時間だ。それなら、僕は君を殺したくない。遠くに逃げて、そいつらが来たらカッコよく出てくるといいさ』
『そうしよう』
白矢の意識が現実に戻り、すぐに声を掛ける。
「総員、攻撃やめ!」
その言葉に困惑しながらも、全員が攻撃をやめる。その時、
『人間たちよ、この地に集ってくれたこと、心から礼を言う。私はそろそろ抜けるとしよう』
「総員、こちらに集まれ!」
光迅龍が浮き、遠くに飛んでいく。
「隊長、どういうことですか!何故この場で、やつを討たなかったのですか!」
「説明している暇はない、来るぞ!」
その言葉通り、遠くから高速でこちらに向かってくる影が見えた。
「総員、ここからが本当の討伐戦だ!回復、手入れはすぐに済ませろ!後からじゃあ遅い!」
部隊員たちが困惑しつつも、武器を修復したり、怪我人達を癒やしたりと、各々の出来ることを始める。
「やっぱり、この部隊は強い。個々の力だけでなく、他者の事も考えて行動できる。………さて、僕には僕の、出来ることをしようか。『武具創造』!」
今まで白矢の使っていた武器は消え、二振りの剣が顕現する。白矢の頭に、2つの文が浮かんだ。
『業神剣<純白> 刻まれし紋章は、創世の象徴。光に研がれし刃は、快楽の象徴。創りし者は、■■の象徴』
『魔轟剣<漆黒> 刻まれし紋章は、滅びの象徴。闇に研がれし刃は、苦痛の象徴。創りし者は、■■の象徴』
「…いい剣だ。闇の具現化たる漆黒の剣と、光の具現化たる純白の剣。対になる剣か。よし、これでやつを討つ!エルド!」
[承知!]
白矢はエルドにまたがり、空を駆ける。だが、そう簡単に攻撃態勢を取れるほど、敵は甘くなかった。
「ッ!まさか…!エルド、全力で回避!」
龍から血に塗られた鎖が白矢目掛けて飛ばされる。ギリギリのところで回避したが、白矢は宙に投げ飛ばされてしまう。エルドが風魔法を白矢に使い、簡易的な「思考会話」で伝える。
[主よ、我の魔法を使え!主の魔力なら使いこなせるはずだ!]
「エルド、助かった!地上で待機しておけ!アイツを墜とす!」
[承知!]
エルドが風に乗って地上へ向かう。それを見届けた白矢は、龍に向き合う。白矢の姿に姿がはっきりと映るほどに、龍は近づいていた。次は頭の中に声が流れる。
『闇烙龍 闇を象徴する司龍であり、同時に、災祟龍の召喚のための生け贄として必要不可欠な存在。その体には具現化された鎖が巻かれ、捕まったものは闇に呑まれると言われている』
「いや説明が怖すぎる。ただまあ、アイツが闇烙龍というのなら!」
剣を構え、敵を捉える。
「この場で即刻!討伐する!」
龍が咆哮し、魔力を練り上げながら、高火力の魔法を乱れ撃つ。白矢は自らを狙って飛んでくる魔法を打ち消し、地上に被害が出ないように、用意していた魔術具を起動する。全弾撃ち切った隙を狙って、懐に潜り込み、純白の剣を突き刺す。
「行くぞ!機能解放『光刃連斬<神威>』!」
刃が光り輝き、龍の内部からダメージを与える。並行して、漆黒の剣で龍を切り刻んでいく。龍が苦痛に声をあげ、白矢を振り下ろそうと暴れまわるが、白矢は剣をさらに深く突き刺して抵抗する。激攻の末に、龍が練り上げていた魔力が霧散し、全快した隊員たちが待つ地面へと墜ちる。
「―――総攻撃、開始!!!持てる全ての力で、やつを討てぇぇぇ!!!」
隊員たちが一斉に攻撃を仕掛け、傷が広がっていく。白矢は再び上空に飛び、今度は漆黒の剣を掲げる。
「機能解放『闇鎧重装<魔斬>』!」
漆黒の剣を両手で握りしめ、風魔法の効果を切り、龍の首目掛けて振り下ろし、完全に切断する。
―――その瞬間。
「ッ!なんだよ、コレ……!」
龍の体が魔力の奔流に変わり、白矢の体に入り込む。膝をつき、地面に倒れる。隊員たちが慌てて駆け寄った、瞬間。
「―――厄災の鎖」
体から、血に塗られた鎖が飛び出した。鎖はその場の全員を一瞬にして拘束し、体が起き上がり、顔を上げる。そして、そこに立っていたのは、
―――「災祟龍マレディクス」であった。




