15 三番目のトイレ
「あー、逃げられちゃいました! 私の栄光の未来がー!!」
キィちゃんは扉にぶつけた手を痛そうに振って悔しがった。
「どこにいったのかしらね」
サーヤ先輩も息を切らしながら、ピットちゃん人形が走って行った方向を見つめていた。
そのまま4人でしばらく廊下に佇んでいたが、ピットちゃんが戻ってくる気配はなかった。
「はあ、この窓、先生にどう説明しようかしら」
サーヤ先輩の重いため息が、夕暮れの薄暗い廊下に響いた。
◇◇◇
ピットちゃんの行方がわかったのは、翌日のことだった。
午前の授業が終わり、私は机の上に広がっているノートや筆記用具を片付けていた。
昼休みの学校は、友達と喋る生徒や食堂へ向かう生徒たちでがやがやと楽しそうに賑わっている。
「きゃー、王子! 王子来た! こんにちは〜」
女の子の黄色い声が聞こえて、私は廊下の方を見る。
教室の扉を開けたところにレオくんが立っていた。手を振ってくる女の子に、律儀に手を振り返している。
きゃー、手振ってくれた、と女の子たちの悲鳴が聞こえる。
こういうところが王子然としてるんだよな、と私はしみじみと思う。
レオくんは抜群に綺麗な見た目をしている。
サンゴ礁の海のような水色の目は見ていると吸い込まれそうなほど美しい。さらさらとした髪は目と同じ水色だ。肌は透き通るように白く、横顔も整っていて、まるで海から生まれた妖精のようだ。
その見た目と物腰柔らかな仕草から、校内の女子には『王子』と呼ばれていた。
「スーちゃん、ちょっといいかな」レオくんが私を呼ぶ。
「ああ、うん。いいよ」
返事をして、私はレオくんの方に向かう。クラスの女の子たちの鋭い視線が刺さる。
私とレオくんはただの部活の友達で、それ以上の関係はなにもありませんよ、という顔で廊下に向かう。
恋だの人間関係だの勉強とは関係ない余計なトラブルに巻き込まれるのはごめんだ。
「どうしたの」
「ここではできない話なんだ。歩きながら話そう」
レオくんは廊下を歩き出した。私もレオくんについていく。
「昨日逃げたピットちゃんのことなんだけど、今日、会ったんだ」
「どこで?」
「男子トイレの中で。怪談どおりにちょうど三番目の個室にいたよ」
「ピットちゃんって男子トイレに出るんだ。てっきり、女子トイレに出るもんだと思ってた」
「僕もそう思っていたよ」




