13 ピットちゃん人形
「うわー! ピットちゃん人形が動いてる! 実験は大成功じゃないですか!」キィちゃんが興奮している。
ピットちゃんはこちらを見ながら、瞼をぱちくりぱちくり何度か瞬きさせた後、両手で目を擦った。それから周囲の様子を伺うようにきょろきょろと辺りを見回した。まるで昼寝から起きた子供のようだ。
「すごい、こんなにしっかりと人間みたいに動くんですね」
ついさっきまでは物言わぬ人形だったピットちゃんに、魂が吹き込まれたかのようだった。あまりの魔法の完成度の高さに私も興奮する。
「いえ、違うわ」
「え?」
「待って、何かがおかしいの」
サーヤ先輩は青ざめていた。動くピットちゃんから距離を取るようにゆっくりと後退していく。
「こんなはずじゃなかったの。この実験ではピットちゃん人形は確かに動くんだけど、せいぜい床を這いつくばるか、のたうち回るぐらいの動作しかしないはずなの」
「それは逆に怖い!」
「こんなに意志を持ったように動くはずがないの!」
サーヤ先輩の絶叫を合図に、皆、弾かれたようにピットちゃんを見た。ピットちゃんは先ほどと同じ姿勢でじっと、私たちを見ていた。
互いに目線を合わせたまま、数秒間、膠着状態が続く。
先に沈黙を破ったのは、ピットちゃんだった。
「あの」
ピットちゃんが喋った。私たちは驚いて言葉を発せぬまま、沈黙を貫く。
「あの、すみません」
しかも意外に礼儀正しそうだ。
「先輩、これは大発見ですよ! ピットちゃん人形が喋りました! まるで人間のように動いて喋るピットちゃん人形ですよ!」キィちゃんが興奮で顔を真っ赤にしながら叫んでいる。いきなり大声を出されて、ピットちゃんはビクッと震えた。
「え、ええ、そうね」
「捕まえて発表したら、私たちは一躍、時の人になれますよ! 補習部に取材がバンバン来て、新聞に名前が乗ります。そうしたらいつも補習部を馬鹿にしている奴らに目に物見せてやれますよ! あっ、でも魔獣園に売り飛ばすのもいいですね、良い値段で売れそうです」
そう言うと、キィちゃんは素早い動作でピットちゃんに手を伸ばした。人形の右手を掴もうとするものの、紙一重でピットちゃんは身体を捻り、キィちゃんの腕を回避する。
そのまま横にゴロンと一回転すると、転げるように机の上から落ちて床に着地する。
机を挟んで真正面から向かい合う形でキィちゃんとピットちゃんが睨み合う。
後方で状況を見守っていたサーヤ先輩が音もなく近づき、ゆらりとキィちゃんの隣に立った。
「そうね、怯えている場合じゃないわね。この実験をまとめて発表したら、名高い魔法科学誌に掲載されるかもしれないわね。そうしたらこの先の進路は安泰よ」
キィちゃんとサーヤ先輩の目が座っている。なんなら欲望が透けた目がにんまりと三日月型に細められている。
二人の気迫に押されて、ピットちゃんはじりじりと後退りする。なにも映さないはずの人形の瞳は、二人の猛獣から目を逸らすように背けられている。
もうどっちが化け物なのかわからない状況だ。
動いて喋るオカルト人形vs欲望に塗れたモンスター。
この対決の結末はいかに!?




