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新人研修

仕事が好きなのと辞めたい気持ちって両立するんですかね

「あ、リブリーさん。その資料はあそこの棚へお願いします」

「タケルさんは午後からの新人研修のプレゼンテーションの最終チェックを」

 

今日の管理課は少々賑やか。それもそのはず、今日は新人研修会の日なのだ。私たちは午後に備え準備をしているのだが……

「主任!レッドドラゴンが今日も無断欠勤してるようです!」「ええ?!またですか!」

レッドドラゴンは最下層にある隠し部屋のボスだ。中級ダンジョンを複数クリアした冒険者だけが挑戦資格を得られる。初心者が間違って迷い込むことは、まずない。


「今月に入って無断欠勤何度目ですか……」「通算5度目ですね」

 レッドドラゴンは気性こそ穏やかだがサボり癖や気分屋な面があり扱いが難しい種族だ。今までも何度か対応を試みたが、どれも暖簾に腕押し。まるで改善する気配がない。

「主任、レッドドラゴンの対応をするのであれば本日の新人研修会には欠席した方がよろしいのでは?」


 確かに、あのレッドドラゴンから意見を聞き出し、納得のいく解決案を出すとなればまず間違いなく研修には間に合わなくなるが……「いえ、大丈夫です。今回レッドドラゴンの対処にはアーシュレイン幹部に対応してもらいます」「アーシュレイン幹部ぅ?!」


 タケルが素っ頓狂な声を上げる。なかなか大きい声のせいで驚いたリブリーのカツラが取れてしまった。スケルトンにとって頭皮(頭骨?)を見られるのはデリケートらしい。

リブリーはカタカタと骨を震わせながら更衣室に引っ込んでいった。


「幹部がこの案件を引き受けてくれるのですかね、あの人戦闘管理課ですよね?」「むしろ、こういう案件を引き受けるのが戦闘管理課の仕事だね。あそこは問題行動を起こすモンスターや違反行為を繰り返す冒険者たちに武力を行使する部署だから」

 

「なんか戦闘管理って感じはしないっすねー」

 タケルが知らなかったーとメモを取っている横でスズネはメッセージを送る。これでレッドドラゴンの件は大方解決だろう。なにせあの人のことだ。戦える機会には誰よりも喜んで現場に向かう。

「さて、そろそろ待機室にいる新人さんたちを案内しましょうか」


 ぞろぞろと新人さんが会議室に集まってくる。ここはアットホームな職場なので種族問わず採用するのだ。今回の研修会にも、様々な種族の人がいる。竜人族、小人族、ミノタウロス、オーム、人間……もっとここが賑やかになりそうだ。


「初めまして皆さん。本日の研修会で、ダンジョンの運営及び管理の基礎をしっかりと聞き、メモをしてくださいね」メモを取り出す様子を見渡しながらプレゼンを進める。


「まず、ダンジョンについて。皆さんもうご存知だと思いますが基礎の中の基礎なので今一度説明をしますね。ダンジョンとは『ダンジョン統括局』が主体となり運営、構築されているエンタメ施設です。」

「ダンジョン攻略は幅広い種族の中で最も人気の高い娯楽と言えます。今や誰もがダンジョンという魅力に夢中ですからね。」


「そんなダンジョンですが、もちろん危険が無いわけではありません。基本的にダンジョン内でHPが危険域まで低下したのを確認した場合、自動で「緊急転送陣」が起動し、安全ゾーンや拠点へ排出されます。しかし、所謂高難易度ダンジョンと呼ばれるダンジョンでは、そうはいきません。」


「高難易度ダンジョンでは、転送が間に合わないほどのオーバーキルや高濃度の魔力汚染により、現実でも重い障害が残ったり最悪の場合は死亡したりするケースがあります。多くの人の娯楽となっているダンジョン攻略ですが、管理が杜撰になれば、それだけ多くの冒険者やモンスターを危険に晒すということです。」


 一度新人たちの顔をゆっくり見渡す。誰もが真剣にメモを取っている。その姿に思わず胸が熱くなった。

「そのため、誰もが一度はお世話になるチュートリアルダンジョンでは、新米冒険者が「危険への適度な緊張感」と「攻略の成功体験」を安全に学ぶための教育・訓練施設として機能するように管理する必要があるのです。」


「それでは本題に入りましてダンジョンの運営、管理において最も大切なことを1つ教えます」

 もったいぶった物言いに会議室の空気は一段と張り詰めた。

「ダンジョンの運営において最も大切なことは、……………コミュニケーション能力です。ここ……「チュートリアルダンジョン管理課」では毎日種族問わず寄せられるクレーム、上司からの無茶振りが降ってきます!」

「ある程度、柔軟に対応できる冷静さ、クレームや無茶振りに耐えうるメンタル辺りも必要となってきます!」


 捲し立てるような剣幕の私に新人たちは思わず気圧されている。こほん、とひと区切りをいれ、締めに入る。

「皆さんには辛いと思う日々がこれからたくさん訪れると思います。それでも、私は今日ここにいる貴方たち、そして今まで頑張ってきた課のみんなでこれからもチュートリアルダンジョンをより良くしていきたいと思っています!……今日の研修会はここまでです。皆さん、ありがとうございます。」


 深々と頭を下げた私にまばらに拍手が起こる。

 

ここはチュートリアルダンジョン管理課。いつも多様なクレーム、上司の無茶振りが絶えない部署。それでも新米冒険者をサポートするこの仕事が大好きだ。

 

「全く、この仕事は骨が折れますね」

リブリーさんが焦った様子で私の体を確認してきた。すみません……そういう意味じゃなかったのです……


 ……え?アーシュレイン幹部が今からこっち来るって?

やばっ!今日はもう定時で帰るんだから!!それじゃあお先に失礼しまーす!

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