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世界樹の最後のTSエルフ  作者: 巌沢雪乃
一章 世界樹のふもと

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芽が出た

 あれから数日が経つ。なんやかんや毎日のようにヴァル爺の家に通っている。たまに家に招かれ、一緒に食事をとることもあった。


 近所の人とは、目が合えば挨拶を交わし、たまに天気の話をするくらいには、この場所に馴染んでいた。


「あっちぃ……」


 最近、一段と暑くなってきた。本格的な夏が始まろうとしている。


 汗を拭いながら曲げていた腰を伸ばす。


「さっさと手を動かせ。雑草なぞなければないほどいいんだ」

「うっせ、わかってるよ」


 少し一息ついただけじゃないかと口を尖らせる。


 畑仕事を続けてわかったが、この細い少女の肉体、見た目ほどか弱くない。

 ヴァル爺も見た目の割に、ものすごくテキパキと動く。


 傍から見れば、やたら元気いっぱいな爺さんと孫だ。


「今更だが、もう少しおなごらしくしたらどうだ」

「女らしくだぁ? 知らねえよ、俺は俺だ」


 メグは、心を開くと素の喋り方をする。この世界において、それを見せる相手はルナ婆とヴァル爺だけだ。


 それ以外の村人には、ニコニコと笑って敬語を使っている。これは長年で養ってきた処世術である。


 ヴァル爺は最近、当たり前のように果実水を置いてくれている。冷たく甘い、水分補給に最適な飲み物だ。


「……生意気なガキだ」


 言葉とは裏腹に、声に棘はない。この程度の軽口を叩くのは日常になりつつあった。


 ともあれ、抜けども抜けども草ばかり。たまに地を這うよくわからない虫も、もうあまり見たくはない。


「魔法でちょちょいっとできたらいいのにな」


 せっかくファンタジーな世界なのだ。それくらいできたっていいじゃないかとぼやく。


「ふん、魔法はそんな便利な物じゃない」

「そうかぁ」


 ヴァル爺にピシャリと言われ、納得する。


 無言で雑草を抜き続ける。


「うん?」


 強烈な違和感に、メグは顔を上げてヴァル爺を見る。


「魔法について詳しそうじゃん、ヴァル爺」

「……知らん」


 目が合わなかった。


「おいおい、じゃあ魔法って何ができるんだよ」

「知らんと言ってるだろう!」

「流石に知らんは無理があるだろう!」


 畑に気を取られすぎて忘れかけていたが、メグは魔法を知っているかもしれないからと、この場に来ていたのだ。


「知ってるなら教えてくれよ、なあなあ」

「知らんと言ったら知らん!」


 ぶー、と口を尖らせ、また足元を見る。

 相変わらず、あちらこちらに雑草は生えていた。


◆◆◆


 さらに数日が経つ。種を植えてから二週間ほどは経っただろうか。

 今日も二人は畑をいじっていた。


 抜いても抜いても気付けば生えている雑草を、二人は毎日抜き続ける。

 キリのない作業ではあるが、不思議と苦痛には思わなかった。


 いつものように視線を向けた先、普段見かけない植物が顔を出していた。小さく、それでいて力強い。


「ヴァル爺、これって……」

「ああ、ようやく芽吹いたか」


 何が、とは言わない。言わずともわかる。


 メグが種を植えた場所。ミミズが這った跡かと言われたその場所に、ケチェポの芽が出ていた。


「ヴァル爺! なあヴァル爺! これ!」

「わかったわかった。騒ぐないちいち」


 改めて見ると本当に小さい。この芽は今後どう育つのだろう、どんな花を咲かせるのだろう、どんな実をつけるのだろう。


 何一つとしてこの植物については知らないが、確かにわかることが一つ。


 メグの行動が、形となったのだ。


「そうか……そうなのか」

「……なんだ」


 俯くメグに、ヴァル爺は視線を向ける。


「俺は……ここに生きてるんだな」

「……」


 口にしてみると、不思議と胸の奥にすとんと落ちた。


 沢田恵は、確かにこの地でメグとして生きていた。


「よくわからんが、お前はただの生意気なガキだ。それだけだ」

「……ああ」


 風が吹いた。

 メグの銀色の髪と足元の小さな芽が、同じように風に揺れていた。

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