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世界樹の最後のTSエルフ  作者: 巌沢雪乃
一章 世界樹のふもと

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世界の血液

 草むしりを続ける。気分が軽かった。

 ぼやけていた輪郭が、はっきり見えるようになったみたいだ。


 ヴァル爺の手は止まっている。視線の先ではメグが鼻歌を歌いながら雑草を抜いている。


 口を開き、また閉じる。そしてまた開き……。


「おいガキ」


 試すような声だった。

 顔を上げるメグに、ニヤリと不敵に笑う。


「もう魔法について聞かないのか?」


 メグはキョトンとした。教える気がないものだと思っていたが、まさか教えてくれるのだろうか。


「教えて、くれるのか?」


 期待を込めてそう聞くと、ヴァル爺は口をへの字に曲げた。


「試すだけだ」


 試すだけ。よくわからないが、前向きな意味だと捉え、メグの顔はぱあっと明るくなる。


「ヴァル爺……!」

「フンッ」


 メグの元へヴァル爺が近付く。慌てて立ち上がった。


 ついに、ついに魔法に触れられるかもしれない。


「目を瞑れ。集中しろ。体に流れる魔力に意識を向けろ」


 目を瞑り、深呼吸をする。体に流れる魔力……。


「一箇所に集めろ。かき集め、圧縮し、保て」


 一箇所に集めて圧縮してキープする……。


「炎を想像しろ。燃える炎だ。炎の熱を、光を、揺らぎを鮮明に想像し、魔力で肉付けするんだ」


 炎……魔力で炎を……。


 目を開ける。何も起きていない。うんともすんとも言っていない。


「……」

「……」


 沈黙。


 メグの中で、じわじわと言いたいことが生まれ始める。


「才能がないな」

「いや絶対今のは教え方が悪いだろ!」


 ヴァル爺の一言で爆発した。


「なんだとこのガキ!」

「体の中の魔力だ!? なんじゃそりゃ!」

「魔力は魔力だろう、そんなこともわからんのかこのガキは!」

「わかんねえからこうなってんだろうが!」


 ガキのような言い合いである。


「魔力を集める? 肉付けする? 感じ取れてもねえんだからそこから教えろよ!」

「その程度のこと、できて当然だろう!」

「だからできてねぇんだよ現状さぁ!」


 ぜえ、ぜえと二人揃って肩で息をする。

 元々魔力なんてない世界で生きているのだ。魔力なんて物を操る力も、感じる力すらもメグは持ち合わせていない。


「そんなわけのわからない魔力をしておいて、それを感じることすらできないのかこのガキは」

「……わけのわからない魔力?」

「……なんでもない」


 今の言い方でなんでもないことはないだろう、とツッコミたかった。

 しかし今はそれよりも大切なことがある。


「それで、魔力ってそもそもなんなんだよ」


 それを知らないのは、感じる以前の問題だろう、とメグは考えた。しかし返ってきた答えは。


「知らん」


 誤魔化しているわけでもなく、本気の声だった。


「知らんって……じゃあどうやって感じたらいいんだよ、そんな得体の知れない物」

「知らんものは知らん。だが、人々はこれを奇跡の力、万能の力と特別視しておる」


 さっきまでのガキみたいな言い争いとは打って変わって、ヴァル爺の声は真面目だ。


「ワシは、魔力のことを『世界の血液』だと思っておる」

「世界の血液……? なんじゃそりゃ」


 抽象的すぎてわけがわからない。

 ヴァル爺はさらに続ける。


「魔力は人の中にも、動物の中にも、植物の中にも、水の中にも、空気中にも、あらゆる場所に存在しておる。真に魔力を扱おうと考えるなら、自身が世界の一部であることを認識しろ」

「俺が、世界の一部……」


 先ほど、メグはこの世界で生きていると実感したばかりであった。新鮮な気持ちゆえに、今もその感覚がこの胸を温めている。


「流れを掴め、それが魔法を使う第一の条件だ」


 魔力、流れ、世界の血液……。


 メグは体内に集中する。自分の心臓の音が聞こえるほど、集中する。

 しかし感じない、見えない。


 ヴァル爺は言った。あらゆる場所に魔力は存在している、と。


 メグは目線を足元に向ける。地面があり、石があり、草が生え、ケチェポの芽があり、自分の足がある。


 この光景を目に焼き付けたまま、目を瞑る。


 あの辺りに地面がある。

 その上には石があって、草が生えている。


 ――何かがある。


 草が生えていた場所には、微かな違和感があった。

 ケチェポの芽がある場所は、それよりも強い。


 そして自分の足は――。


 ブワッと世界が広がった気がした。鳥肌が止まらなかった。

 見えないが、感じる。世界が何かに包まれている。見えない何かが常に流れ、万物を包み込んでいる。


 目を開く。足元の光景は変わらない。だが感じ方が違う。


「ヴァ……ヴァル爺、これ!」


 顔を上げた時、ヴァル爺の表情は少し柔らかかった。しかし、すぐにいつもの顔に戻り、フンッと鼻を鳴らす。

 だが、すぐにまた不敵に口角を上げて一言。


「ま、素質はあるようだな」


 メグはガッツポーズした。

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