↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の最後のTSエルフ  作者: 巌沢雪乃
一章 世界樹のふもと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/27

便利な力

 あれからさらに時が過ぎた。この世界に来てもう二ヶ月である。


 メグは、相変わらず毎日のようにヴァル爺の家に通っていた。


「え? あれ?」


 扉を開ける前に畑が視界に映る。昨日まではなかった、黄色い花が見えた。


「嘘だろ、花が! 花が咲いてる!」


 メグは畑に駆け寄った。花を咲かせていたのは、メグが植えたケチェポだった。

 並び方はミミズが這ったように不恰好だが、それでも立派に花を咲かせていた。


「ヴァル爺! ヴァル爺!」


 扉を勢いよく開けて家に入ると、ヴァル爺は居間でお茶を啜っていた。


「ヴァル爺花が咲いてたぞ! 俺が植えたケチェポだ!」

「そうか」


 興奮しているのはメグだけであった。ヴァル爺からすれば、毎年見てきた光景なのだろう。茶を啜る姿には、これっぽっちも変化がない。


「そうかって……くっ、にぶちん! 人でなし!」

「は?」


 畑にもう一度向かう。やはり咲いている。花弁は張りがあり、朝日を浴びて光っているように見えた。


「二ヶ月か」


 振り返ってみるとかなり濃厚な時間を過ごしたように思える。

 目が覚めたらエルフになっていて、ルナ婆に拾われ、ヴァル爺と畑仕事をしながら魔法を教わる。


 働き、食って寝るだけ。そんな生活が遠い過去のように思える。


 メグは畑の地面に意識を向ける。目標は雑草。

 万物には魔力がこもっている。ケチェポにも、もちろん雑草にも。


 あまり広い範囲だとメグの頭が追いつかないので、ある程度の範囲の雑草の魔力に焦点を当てる。そして、それを引っこ抜くように魔法を使う。


 これはメグが考えた草抜きの魔法だ。一瞬で広範囲の雑草を仕留められるため、とても重宝している。


 初めてこの魔法を披露し、「魔法って便利な力だなぁ!」とメグが笑った時のヴァル爺は、とても微妙な顔をしていた。


 あれから、色々と気付いたことがある。

 まず、ヴァル爺の家を囲むように結界のような魔法が張ってある。これは誰かが家に近付いてきたことを知らせる物らしい。


 扉を叩いていないのに、寝起きのヴァル爺が家から出てきたことがある。

 それは、この魔法によって誰かが敷地内で佇んでいるため、出てきたとのことだった。


 他にもある。いつも出される冷たい果実水。

 冷蔵庫もなく、家に冷やす手段などない。方法があるとすれば、川に容器ごと浮かべて冷やすくらいか。

 

 それなのに、ヴァル爺が出す果実水はいつだって冷たい。

 二ヶ月もこの村で過ごしていたら、流石のメグでも違和感を覚える。

 明らかにおかしい。


 つまり、だ。ヴァル爺は最初から、魔法を使いながら「魔法など使えん」などと言っていたわけである。


 酷い話であった。


 それはさておき、ヴァル爺が見せたあの火を灯す魔法。少し前に自分なりに再現をしてみた。


 とある日だ。森の中の川のほとり、そこでメグは集中していた。

 魔力を集める際、重力のような力を持つ魔力の核を想像する。その力を強めれば、より多くの魔力がより小さな範囲へと集まっていく。


 それを火に変換した。明るく熱く、まるで太陽のような小さな火に。


 再現できた。あの肌を焼くような熱、目を開いていられないような光。あの魔法はメグでも再現可能だったのだ。


 そしてそのあと、ヴァル爺に「一人でそれを試すな!」とめちゃくちゃ怒られた。

 この世界で三度目のゲンコツは、ヴァル爺のものであった。


 イメージ、そして魔力の操作さえしっかりしていれば、結果として魔法は望んだ姿になってくれるらしい。


 その一環で生まれたのが、この草抜きの魔法である。


「よし! 今日の草抜き終わり!」


 一度もしゃがむことなく草抜きを終えたメグは、ヴァル爺の家に入った。


 ヴァル爺は居間で本を読んでいる。本の内容は魔法に関する物だ。この家にある本は全て、魔法に関する内容しか書かれていないのである。


 魔法が使えないと言っていた老人の実態は、身も心も魔法にどっぷり浸かった、魔法中毒者なのだった。


 本に書かれている文字は日本語ではない。もちろん英語などでもなく、この世界固有の言語である。

 なぜ読めるのかは謎である。少なくとも、この身体で目覚めたことと何か関係があるのだろう、とメグは勝手に思っている。


「なあヴァル爺、草抜き終わったぞ」

「ああ、ご苦労」

「そんだけかよ」


 本から目を上げることなく、ヴァル爺は答える。

 魔法を教えなくなってから少し素っ気ない。というより、ヴァル爺がメグに目を向け続ける理由がなくなった。


 しかし家から追い出すことはない。昼食もほぼ毎日一緒に食べている。


 朝から来て何をしているか、それはもちろん魔法の特訓だ。教わることがなくとも練習はできる。

 もし危ないことをしたとして、対処ができるとすればヴァル爺だけなのだ。最も安全な練習場所だ。


 やがて時間は過ぎ、昼食をとり、日が落ちる。


 もはやこれが日課となっていた。


 帰宅する。夕飯を食べる。そして体を拭く。ここで大きな問題がある。


 そう、石鹸がない。


 二ヶ月が経ち、この生活に慣れていく。しかし風呂事情だけはどうしても許せなかった。

 水が冷たい問題、これは魔法でなんとでもなる。水が出せる。ならこれを温めればいい話なのだ。


 ただ、どうしても石鹸だけはどうにもならない。この瞬間だけは、魔法が便利ではないという言葉に心から共感できた。


「石鹸……石鹸……」


 作り方は記憶の奥深く。思い出せメグ。思い出せ沢田恵。そう念じながら過去へ過去へと掘り進んでいく。


「油……」


 そう、油を使っていた。揚げ物などで使った廃油を濾し、何かと一緒に混ぜた。


「うーん……」


 思い出せない、危ない物だったような気がするのだが。物理的に頭を抱えながら考えることしばし。


「あ」


 手が溶けるから絶対触るなよ、という祖母の言葉を思い出した。

 肌を溶かすといえばアルカリ性のイメージがある。


 しかし。


「アルカリ性の物……? 何があるんだ?」


 メグは科学博士でもなんでもない、ただのサラリーマンであった。詳しい知識などあるはずもなかった。


「婆さんわかるかなぁ……」


 体の水気を拭き、服を着る。そして夕飯を準備してくれているであろう居間へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。