↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の最後のTSエルフ  作者: 巌沢雪乃
一章 世界樹のふもと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/29

種は植えた

 いつもより早く起きてしまったメグは、ソワソワしながら庭の手入れをしていた。

 ついに、魔法に触れられるのだ。


 ソワソワしすぎて庭には大量の魔力の球が浮いて宙を舞っていた。


 頼むから家の近くでそれをやるなと、めちゃくちゃ怒られた。この世界で二度目のゲンコツもくらった。


 朝食を終え、パンを受け取り、ヴァル爺の元へ。明らかに早い時間、まだ寝ていてもおかしくない時間であった。


 遠慮なく家に入る。気配がない。寝室を覗くと、ヴァル爺はベッドの中にいた。


「昨日の復習でもして待っておれ、もう少し眠りたいんだ」

「……わかった」


 こちらを振り向くことなく、ヴァル爺は眠そうな声で言った。

 あまりに眠そうなものだから、忍びなくなって寝室の壁に背をもたれ座り込む。


 昨日の復習。帰り道、帰宅後、そしてここに来るまででも何度も行なっていた。それをこの場でもやるだけだ。


 一つ、また一つと魔力の球を出していく。何個も出せる。流石に全部を同時に動かすのは無理だが、順番に軌道を描いてそこに乗せる、ということはできる。


 気付けば、部屋は無数の魔力の球が蠢く空間へと変貌していた。


 少ししてヴァル爺が飛び起きた。顔が真っ赤だ。眉も今まで見た中で一番寄っている。


「ね、れ、る、か、バカタレクソガキャア!」


 突然のことにメグはビクッと体を跳ねさせる。


「ど、どうしたんだよヴァル爺。寝起きが悪い方なのか?」

「どうしたもこうしたも……っだあ! そうだな、わかるわけがないよな! ふぅ……おいクソガキ、今浮いている魔力、全部消せ」

「わ、わかった」


 言われた通りに消す。


「今日説明するつもりだったことを今話す。ちゃんと聞け」

「あ、ああ」


 ヴァル爺の真っ赤だった顔が少しずつ戻っている。


「あの魔力の球……あれはな、言ってしまえば抜き身の刃だ」

「……?」


 ピンとこない。ただ魔力を集めただけの球じゃないか、と思う。


「イメージ通りに作れただろう? イメージ通りに動いただろう? もしあれが、爆発するとイメージをしたらどうなる」


 想像した。してしまった。部屋を埋め尽くす魔力の球、それが手榴弾の如く爆発していたら。


 背筋に嫌な汗が流れた。


「お前も阿呆ではない。だからわかるな?」


 つまりだ、朝からメグは寝ている老人の上で、危険物を使ってお手玉をしていたのだ。


 説明をする前に球を消せと言った。もし、消す前に説明をしてメグがハッキリとイメージしてしまっていたら……。


 血の気が引く。そりゃルナ婆も怒るわけだ。魔法を知らずとも、危ない雰囲気を感じていたのだろう。


 おもちゃのように扱っていた魔力。その印象はたった今、大きく変わった。


「わかればいい。居間で待っていろ。すぐ行く」




 待ち時間はそれほど長くはなかった。着替えを終えたヴァル爺は、少し伸びたヒゲをそのままに、居間にやってきた。


 自然と椅子に座っていたメグの背筋が伸びる。


 正面の椅子に、ヴァル爺は音を立てて座る。


「さて」


 ヴァル爺の表情は先ほどと打って変わって、少し柔らかい。


「先に言うが、想像するだけではあの球は爆発せん」

「……は?」


 あれだけ言われたのに。じゃあなんで怒鳴られたんだ、と頭に文句が浮かび上がってくる。


「だが、可能性がないとは言わん。そこで慢心するか、警戒するか。どちらが賢明かはわかるだろう?」


 それはそうだ。車の運転だって「――かもしれない」と常に考える。普段大丈夫でも、いつそれが崩れるかはわからないのだ。


 メグの表情を見て、ヴァル爺は頷く。


「わかればいい。さて、いよいよ実践だ。ワシが教える魔法は一つ。火を灯す魔法だ」

「火を灯す魔法……」


 直前まで沈んでいた心が急浮上していた。火を灯す。魔法で。ついに望んでいた物が目の前まで迫っていた。


 危険性は理解した。ヴァル爺の発言をきちんと理解しよう。メグの瞳は決意の色に染まっていた。


「まず、練習のために球を作らせたが、そもそも球である必要はない。板でも、箱でも、もっと複雑な形でも。魔力を集める、それが重要なんだ」

「……」


 確かに、ヴァル爺は最初から「魔力を集める」と言い続けていた。魔法を使うために「球を作れ」とは言っていない。


「さ、それを聞いた上で魔力を集めてみろ。小さくていい。小指の先程度で十分だ」


 メグは集中する、目の前に小さな、小さな魔力の塊を作る。集めることだけを考えたため、少し不恰好な見た目をしている。


「上出来だ。そうだな、火を想像しろ。蝋燭の火でいい。そしてそれを集めた魔力に重ねるんだ」


 想像して、魔力に重ねる……。


 うまくできているかは自信がない。だが、恐らくできたので頷く。


「魔力を、その想像に合わせるんだ。まんま存在ごと入れ替わるように」

「入れ替わるように……」


 いまいち想像がしにくい。


 頭の中で「魔法とはなんだ?」という問いかけが響く。


 想像の力。想像力。


 魔力は栄養だ。魔力を糧とし、魔法という名の花が咲く。小さな火という想像は、いわば魔法の種なのだ。


 ぽう、と火が灯る。何もない空中に。


「で、できた……。できたぞヴァル爺! 俺、魔法が……!」


 ふっと火が消える。消えた理由はなんとなくわかった。メグは火が灯る想像しかしていない。燃え続ける火なんて想像はしていないのだ。


「フンッ……ワシから教えられることはあと一つだけ。無闇に力を振り回すな」

「……ああ、わかったよ。ちゃんと理解したさ」


 この力は危険だ。何にでもなり得るし、使い方次第で何だってできてしまう。


 今ならわかる。ヴァル爺の「魔法はそんな便利な物じゃない」という言葉は、きっとこういうことなのだ。


「メグ、これはワシからの褒美だ」

「褒美……? え? てか今名前……」


 突如、目の前に「光」が現れた。眩く、直視できない。

 それはジリジリと肌の表面を焼くほど強烈な熱を放っており、少し近づけば髪などは燃えてしまいそうだった。


 まるで太陽だった。


 次の瞬間、それは掻き消える。


「……」

「……」


 あれが、魔法。自分の手を見る。震えていた。

 あれが、できるのか。自分にも。

 期待か恐怖か、はたまた別の感情か。それはわからない。

 しかし、喉の奥が張り付くような、胸の方から何かが込み上げるような、感じたことのないそんな物を、身体中が訴えていた。


「今のはお前が使った魔法と同じ物だ」

「……は? 同じ?」


 明らかに違うだろう、と突っ込む前にメグは固まった。初めてヴァル爺が笑ったのだ。


「励めよ、クソガキ」

「え、でもまだ山ほど聞きたいことが……」


 ヴァル爺は首を横に振る。


「種は植えた。あとは芽吹くのを待つだけだ」


 この日を境に、ヴァル爺は魔法を教えてくれなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。