集まる魔力
ヴァル爺の言葉に、ゴクリと唾を飲む。
「魔力を集める……いや、いい。お前なりの方法でこの球を作れ」
雑だった。しかし、次にやるべきことはわかった。
メグは意識する。実体のない魔力なんて存在、それをどう動かすか。
魔力なんてのはどこにでもある。感じようと思えばいつだって感じられる。それが目の前に集まるようイメージする。
惑星には重力がある。重力があるから物体は引き寄せられ、惑星としての形を保てる。
つまり、核を作ればいいのだ。魔力を引き寄せる小さな核。それだけでいいのだ。
目の前に、何かが現れる。それは周囲の魔力を集め、次第に大きくなる。
やがて、野球ボールほどのサイズの球がそこに誕生した。
「……動かしてみろ」
魔力の球はそこにある。ならばそれを軌道に乗せればいいのだ。
空中にレールを敷く。球はそれに合わせて高速で動き出す。
「はぁ。もういい。次は数を増やせ」
数を増やす際も簡単だ。「そこにある」と認識すればいいのである。それぞれを軌道に乗せる。複雑な形、しかし重ならないように。
「……今日はここまでだな。明日は魔法を扱う。だから帰っても決して魔法を使うな」
「わかった」
有無を言わせぬ迫力を感じ、素直に頷く。
「家で練習するなら今日やった部分までだ」
◆◆◆
帰宅中、メグは体の周りを回るように何個もの魔力の球を出したり、あちこちに飛ばしてみたりとやりたい放題であった。
そのまま帰宅したものだから、魔力の見えるルナ婆は、目の下をピクピクと痙攣させながらメグを出迎えた。
「あー……魔力、動かせるようになったよ」
「見たらわかるわバカちん!」
ルナ婆によると、急に村の中をわけのわからない魔力が何個も飛び回るものだから、何かの襲撃なのかと身構えていたらしい。
非常に申し訳ないことをしたな、と思いつつ、長い耳の裏をぽりぽりと掻きながら話を聞いていた。
さて、この世界での風呂事情について少し話さねばならない。
少なくともこの村に風呂場、なんて物はない。便所の横にある壺の水と、布を使って体を拭く。これくらいしかできない。
消臭効果のある薬草のペーストでにおいは消せるが、やはり汚れを落とすための石鹸が欲しくなる。
それはさておき、この世界に来てまあまあ時間が経った。
確かに時間経過と共に、自分の体であるという認識が深まり、馴染んではいる。
それでも48歳のおじさんだった身としては、少女の体に触れるというのは、なかなかの犯罪臭を感じていた。
拭かねば汚れる一方なのできちんと拭くのだけども。
メグは、何かに対する謝罪の念をその小さな胸に抱き、今日も体を拭く。
しかし。
「風呂入りてぇよなぁ」
切実な願いであった。以前は毎日あった物だ。当たり前の日常としてそこにあった。48年も、である。
いくら拭いてもなんか残っている気がする、におわないか気になる、あとものすごく水が冷たい。冬なんて死んでしまうのではないか。
「シャワー浴びたい……」
一番の問題は髪だった。水で流して、消臭用のペーストを塗ったところで、皮脂を落とせているわけではない。
「……石鹸ってどうやって作るっけなぁ」
メグは昔、祖母と石鹸作りをしたのを思い出していた。朧げな記憶だが、頑張れば材料を思い出せるかもしれない。
「いつか、絶対作ってやる」
その目には、決意の炎が光っていた。
夜寝る際、魔力の球で遊びつつも魔力感知の方にも意識を向けていた。
庭に何かがいる。とても小さい。しかし動いている。きっとたまに見かけるよくわからない虫なのだが、メグは感覚の中にその気配だけを残して魔力感知を閉じる。
小さな魔力だ。それでもきちんと追える。どこにいるのかがわかる。
楽しかった。努力がこうも結果に直結すると、流石にテンションが上がる。
生きてきた中で、謙遜ばかりしていた。いつしかその建前と本音が混じり合って、自分のことなんて認められなくなっていた。
でもこの世界でなら、少しだけ自分を信じてもいいのかもしれない、そうメグは思った。




