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世界樹の最後のTSエルフ  作者: 巌沢雪乃
一章 世界樹のふもと

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集まる魔力

 ヴァル爺の言葉に、ゴクリと唾を飲む。


「魔力を集める……いや、いい。お前なりの方法でこの球を作れ」


 雑だった。しかし、次にやるべきことはわかった。


 メグは意識する。実体のない魔力なんて存在、それをどう動かすか。

 魔力なんてのはどこにでもある。感じようと思えばいつだって感じられる。それが目の前に集まるようイメージする。


 惑星には重力がある。重力があるから物体は引き寄せられ、惑星としての形を保てる。


 つまり、核を作ればいいのだ。魔力を引き寄せる小さな核。それだけでいいのだ。


 目の前に、何かが現れる。それは周囲の魔力を集め、次第に大きくなる。

 やがて、野球ボールほどのサイズの球がそこに誕生した。


「……動かしてみろ」


 魔力の球はそこにある。ならばそれを軌道に乗せればいいのだ。

 空中にレールを敷く。球はそれに合わせて高速で動き出す。


「はぁ。もういい。次は数を増やせ」


 数を増やす際も簡単だ。「そこにある」と認識すればいいのである。それぞれを軌道に乗せる。複雑な形、しかし重ならないように。


「……今日はここまでだな。明日は魔法を扱う。だから帰っても決して魔法を使うな」

「わかった」


 有無を言わせぬ迫力を感じ、素直に頷く。


「家で練習するなら今日やった部分までだ」


◆◆◆


 帰宅中、メグは体の周りを回るように何個もの魔力の球を出したり、あちこちに飛ばしてみたりとやりたい放題であった。


 そのまま帰宅したものだから、魔力の見えるルナ婆は、目の下をピクピクと痙攣させながらメグを出迎えた。


「あー……魔力、動かせるようになったよ」

「見たらわかるわバカちん!」


 ルナ婆によると、急に村の中をわけのわからない魔力が何個も飛び回るものだから、何かの襲撃なのかと身構えていたらしい。

 非常に申し訳ないことをしたな、と思いつつ、長い耳の裏をぽりぽりと掻きながら話を聞いていた。




 さて、この世界での風呂事情について少し話さねばならない。

 少なくともこの村に風呂場、なんて物はない。便所の横にある壺の水と、布を使って体を拭く。これくらいしかできない。


 消臭効果のある薬草のペーストでにおいは消せるが、やはり汚れを落とすための石鹸が欲しくなる。


 それはさておき、この世界に来てまあまあ時間が経った。

 確かに時間経過と共に、自分の体であるという認識が深まり、馴染んではいる。

 それでも48歳のおじさんだった身としては、少女の体に触れるというのは、なかなかの犯罪臭を感じていた。


 拭かねば汚れる一方なのできちんと拭くのだけども。


 メグは、何かに対する謝罪の念をその小さな胸に抱き、今日も体を拭く。


 しかし。


「風呂入りてぇよなぁ」


 切実な願いであった。以前は毎日あった物だ。当たり前の日常としてそこにあった。48年も、である。


 いくら拭いてもなんか残っている気がする、におわないか気になる、あとものすごく水が冷たい。冬なんて死んでしまうのではないか。


「シャワー浴びたい……」


 一番の問題は髪だった。水で流して、消臭用のペーストを塗ったところで、皮脂を落とせているわけではない。


「……石鹸ってどうやって作るっけなぁ」


 メグは昔、祖母と石鹸作りをしたのを思い出していた。朧げな記憶だが、頑張れば材料を思い出せるかもしれない。


「いつか、絶対作ってやる」


 その目には、決意の炎が光っていた。




 夜寝る際、魔力の球で遊びつつも魔力感知の方にも意識を向けていた。


 庭に何かがいる。とても小さい。しかし動いている。きっとたまに見かけるよくわからない虫なのだが、メグは感覚の中にその気配だけを残して魔力感知を閉じる。


 小さな魔力だ。それでもきちんと追える。どこにいるのかがわかる。


 楽しかった。努力がこうも結果に直結すると、流石にテンションが上がる。


 生きてきた中で、謙遜ばかりしていた。いつしかその建前と本音が混じり合って、自分のことなんて認められなくなっていた。


 でもこの世界でなら、少しだけ自分を信じてもいいのかもしれない、そうメグは思った。

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