【10】 プールで転覆の練習?
身体が十分に温まったところで、
3人はメインのプールへ移動した。
爽香「お風呂のシャワーだけでもすごく良い練習になったわ。前にいる艇が上げる水しぶきって本当に半端じゃないから」
由利「動画で見たことあるけど、前が見えないどころの騒ぎじゃないよな」
爽香「それでも前に突っ込んで行かなきゃ勝てない。恐怖心との戦いなの」
丹沢「ここに来て良かったね」
爽香「うん! さあ、次はプール特訓!」
爽香は持参したヘルメットをかぶり、
プールサイドに立った。
シールドを下げて声を張る。
爽香「あたしがここに立つから、二人で横や後ろからプールに突き落として!」
由利「転覆の練習か」
爽香「そう! 転覆を恐れてたら思い切った旋回ができない。恐怖心から安全策をとると、結果として6着になるの」
由利「でも、転覆して命を落とす危険もあるんだろ?」
丹沢「命を『落とす』の『落とす』って、水に『落ちる』から来てるのかな?」
爽香「さあ……分かんない」
丹沢「まあ、どっちでもいっか」
爽香「とにかく、突然水に放り出されてもパニックにならないようにしたいの。溺れないように」
丹沢「でも爽香さん、泳げるなら大丈夫じゃないの?」
爽香「ヘルメットを着けてると、水が入ってきて呼吸が途端に難しくなるのよ」
由利「かと言ってヘルメット無しでレースはできないしな」
爽香「脱げたら頭蓋骨骨折よ」
丹沢「落ちてから水中でヘルメット脱げないの?」
由利「アゴ紐でガッチリ固定してるから無理だな」
爽香「脱ぐのはレスキュー艇に引き揚げられてから。……よし、二人とも遠慮なく来て!」
丹沢「よし、行くぞ!」
丹沢が横から体当たりをかまし、
爽香をプールへ突き落とした!
「ドパーン!」
豪快な水音とともに爽香の体が沈む。
爽香はヘルメットを被ったまま
水中で15秒耐え、ゆっくりと浮上した。
これを何度も、何度も繰り返した。
爽香の体力は急速に奪われていく。
爽香「ハァ……ハァ……。次は、あたしが水面に浮かぶから、丸太みたいにグルグル回して最後沈めてほしいの」
由利「それ、どういう意味があるんだ?」
爽香「落水したときに方向感覚を失いたくないの! 水中で上下左右が分からなくなったら死ぬわ。どんな状態でも自分のボートの位置と水面の方向を把握できるようにしたいの!」
丹沢「プロって凄まじいな……」
爽香「命がかかってるんだもの! 自分の命は自分で守らなきゃ。何があっても他人のせいにしたくない。すべて自己責任よ」
丹沢「『自己責任』……重い言葉だね」




