第82話:時季外れの牡蠣には気を付けろ
「ふぅ。やはり昼食後のコーヒーは美味しいな」
とある豪華な民家の一つ。そこで優雅にコーヒーを飲んでいる父親にチョップをかました。今日は月曜日、他全員はヘルメス聖国に転送させたが、俺は普通に元世界にいた。特に理由が無いわけでもないのだが。
「会社はどうした。会社は」
「順調だぞ」
昼間から自宅でホケーッとコーヒー飲んでる場合か。
「しかしだな。出社してもすることが無いんだ」
父親曰く。百八グループの会社からサラリーマンが派遣され、辺根斗ローンの運営の一切を執り行っているらしい。社長の親父は既に能率に憑りつかれた新しい社員たちに仕事を奪われ、数字の最終チェックだけをすることになり、タブレットさえ手元に置いておけばどこで仕事をしようと同じらしい。派遣社員のレベルが高すぎて辺根斗ローンの業績も右肩上がり。取締役社長である親父の給料もアップしてウハウハ。まぁとはいえ株式は百八グループに百パーセント握られているので、明日どうなるかは知らんが。クレナイの義理人情上問題ない気はするけどな。で、俺には用事があった。
「ね~ぇ♡ お願い♡ 私のグラビア撮影見に来て?」
と一理カレンに言われると断りようもなく。仕方ないので妹のハルカと一緒に職業見学。まぁハルカの方はアマプロの所属アイドルなので見学ではないわけだが。
「わーお。レイトちゃん。今日はよろしくね?」
アマプロの社長さんも撮影現場に来ていた。何でも俺が顔を出すと聞いて社長自ら営業に出て来たらしい。何度言われても俺はモデルにはならんぞ。異世界関係で忙しいからな。
「レイトちゃんが異世界で忙しいのはわかっているけどー。ちょっとだけ。ちょっとだけアマプロに所属してくれない? そのイケメンは絶対バズるわ。私が保証してあげる」
あーはいはい。まぁグラディオにイケメンにはしてもらったが。
「本当よ? レイトちゃんはイケメンのトップオブトップ。アイドル業で天下獲れるから」
「これでも忙しい身なので」
のらりくらりと躱しながら、現場で突っ立っていると。
「おにぃぃぃぃさん♡」
今度は可憐なファッションを着たカレンが現れた。今日は水着撮影ではないらしい。季節に合ったコーデをしている。髪もヘアスタイリストさんに整えてもらって。俺はグラディオやジュリエットでもないのにドキッとしてしまう。
「どうですか。今日の衣装?」
「可愛いと思います」
「えへー。嬉しいな♡ 仕事終わったらデートしましょうね♡」
まぁ俺は構わんが。
「その~天地様……」
そうしてカレンと色々と服について批評していると見たことのない営業が社長に声をかけてきた。そしてボソボソと会話して。
「アーウチッ」
パン、と両目に手の平を打つ社長さん。
「どうかしたの?」
カレンが聞くと、社長は深刻そうに言う。
「今日カレンちゃんと一緒に撮影する男性モデルの子が牡蠣に当たって出動不能。今は病院にいるんだって」
この季節に牡蠣とか……アホかな?
「というわけで今日の撮影は中止になるわけだけど……そうなると損害もデカいのよねー。まさか牡蠣に当たったモデルちゃんを無理矢理引っ張るわけにも…………」
と、そこまで言って、社長の視線が俺に向く。すっげー嫌な予感。
「じゃ、俺帰りますんで」
「レイトちゃん? ちょーっとお願いがあるんだけど?」
「謹んでごめんなさい」
「お願い! お給料は弾むから!」
「嫌だっちゅーの」
「このままだと、相手の出版社の雑誌に穴が開いちゃうのよ? 可哀想だと思わない?」
泣き落としのつもりか。
「さて、それじゃあ…………」
「そんなこと言わず~……」
あーだこーだ。喧々諤々。丁々発止。色々と議論を深めた末に、今回だけ、と確約を受けてもらって。一回だけ雑誌に載ることになった。芸名は会社の方で考えてもらうとして、臨時社員としてファッションモデルの仕事に向かう。着せられたのはカレンと一緒に撮影するためだろう……季節を意識したカジュアルな服装。それでも一万円は軽く超えるのだろうが。
「わー♡ お兄さんカッコいい♡」
「カレンも可愛いぞ」
「それじゃあ撮影を始めましょう。ただしカメラマンさん。レイトちゃんは素人なので指示には細心の注意を払ってね? プロだから甘い考えは通用しない……というのはレイトちゃんに限ってはパワハラだから」
まぁたしかに。そこまで怒られてまでやりたい仕事でもないし。そもそも男性モデルが牡蠣に当たったのが悪い!
「じゃ、撮影始めまーす。よろしくお願いしまーす」
そうして撮影が始まった。指示通りにカレンの隣に立って、指定されたポーズで写真に撮られる。「いいですよー。いいですねー」とセクシー女優でも撮影しているのかと思わせる声かけをしながらカメラマンが俺とカレンを撮る。
「社長! この男の子最高っすね!」
「でしょう? 我が社のリーサルウェポンよ」
いつから俺がアマプロに入った? とはツッコむのも野暮なんだろうな。そうしてパシャパシャと写真を撮られ。その画像を精査している職員一同。そうして何度か撮り直しをした後、「お疲れ様でしたー」と言われて仕事は終わり。
「収入はハルカの方にお願いします」
俺が貰ってもしょうがないし。そもそも元世界ではあんまり金は使わん。というか既にウチは百八グループに所属しているのでモデル業をする必要もない。ハルカがやっているのは仕事と言うより承認欲求の方に偏っているのだろう。別に悪いわけじゃ無いぞ。褒められたいと思う……という風に言い換えれば自然な考えだし。
「わかったわ。お給料はミハルカちゃんの方に。あ、あとその服はあげるから、着て帰って頂戴。カッコいいわよ? レイトちゃん」
「お兄さん。デートしましょうよ。仕事も終わったんですし」
「お前。学校は?」
「今日は仕事があるのでお休みでーす」
ニコッと微笑んでカレンは悪戯っぽく笑った。
「そうだな。じゃあデートするか」
そういうことになったのだった。
「あらー。若いっていいわね」
社長も普通に若い気はするのだが。ソレを言うのも野暮なのだろう。マネージャーがペコペコと頭を下げて、それに軽やかに挨拶をすると、カレンは俺を引っ張って撮影現場を離れる。
「お兄さんって普段何をしてるんです?」
「ダンジョン攻略」
嘘じゃないぞ。本当のことさ。
「へー。じゃあ深い洞窟とか潜って?」
「そんな感じかな」
そうしてカレンと一緒に庵宿区へ。流石にジュリエットの爆乳ほどではないが、それでも大人気グラビアアイドル。一理カレン。巨乳のグラディオと同じくらいの大きさが……いかんいかん。煩悩よ。去れ。六根清浄。
「じゃあデートして。買い物しよ? 全部奢ってあげるから♡」
「服はもう着てるんだが」
仕事でもらったものが。と思うと周囲がざわついていた。
「あれ一理カレンじゃね?」
「隣の男子は?」
「超絶イケメンじゃん。推せる」
「やっぱりカレンちゃんレベルだとああいう男の隣にいれるのね」
「あたしもあんなイケメンにエスコートしてもらいたい」
「いいなー。カレンちゃん」
「っていうか隣の男の子もきっとアイドルだよね」
「アマプロかな?」
「チェック怠ってたわー」
「ホント推しに出来る」
周囲がそのようにザワザワとどよめいていた。
「人気者ですね♡ お兄さん♡ デート相手の私も鼻が高いです♡」
なんかあんまり俺は自分がイケメンだという自覚が薄いんだが……南無三。




