第81話:塩ラーメン
「はっきょうしたい?」
それはアレか? 発狂して死んだ死体のことか? ハミルトニアンが塩ラーメンを食わせろとうるさいので次元壁フリーで世界を超えて元世界に戻った俺。ついでにジュリアンとジュリエットとグラディオとスレイブを連れてきたのだが、ほぼ全員浮いていた。ジュリアンとジュリエットは猫耳。グラディオは銀髪。スレイブに至っては紫の髪に羊の角を付けている。これで目立つなという方が難しいが、俺はもうあきらめの境地。
「エイトロード。八人のロードと書いて八卿至帝っす」
「何ソレ?」
ラーメン屋で五人揃って塩ラーメンをすすっているのだが、思ったよりこれが好評。グラディオに至っては、異世界でも再現できないだろうかと考察するレベル。まぁ美味いのは俺も否定しないし。
『はー。幸せ』
俺を介して塩ラーメンを味わっているハミルトニアンにも文句はないらしい。
「で、その八卿至帝ってのはなんだ?」
「純霊長……人間の頂点に位置する八人っす」
「つまり霊長類の王様のようなものか?」
「間違ってはいないっす」
そういうことらしい。
「本来こっちじゃない……私たちの世界では……」
と、今度はグラディオが口を開く。
「エルダーワンと呼ばれる複数の霊長における頂点の個体が存在するんです」
「エルダーワン」
塩ラーメンをズビビーとすすりながら、俺がそう言う。
「ちなみに魔族にとってのエルダーワンがそこにいるタイインスレイブで、帝作用を封じ込めるためにダンジョン封印刑に処されたわけですね。純霊主義を掲げる八卿至帝によって」
ああ、それで。スレイブが戦闘卿を目の仇にしていたのはそういうわけか。
「唯王四公。ダンジョンに封印された亜霊種のエルダーワンを、異世界ではそう言うっす」
唯王四公。唯王というのが魔王であるスレイブ……タイインスレイブを指すとして。
「エルフ公プランティア。ドラグ公ブレッシング。オーガ公キィンバルク。デモン公アークマーズ。拙に仕える四種の亜霊長のエルダーワンっす」
「ということはエルフとドラゴンとオーガと悪魔が存在するのか!?」
「しますね」
グラディオが肯定して。俺は夢心地で塩ラーメンをすする。
「っていうかダンジョン以外でエルフやドラゴンを見ましたか?」
今度はジュリエットが問うてくる。
「見て……ないな」
「エルダーワンはそれぞれの亜霊種のトップにして権限の持ち主でもあるんです」
「権限?」
「マイティ・カースト・ドミナンス・オーダー。頭文字をとってミカドオーダー。通称帝作用と呼ばれるバフ効果を種族全体にかけるシステムでして。それあるからこそ霊長は生物の中でも特別とされているんです」
「じゃあ異世界でエルフやドラゴンを見なかったのは……」
「エルダーワンがダンジョン封印刑にされて、種族そのものが弱体化。八卿至帝によって浄化戦争と呼ばれる純霊種以外の霊長を排除する運動がおこり、ライカンスロープ以外の亜霊種は魔境大陸に避難した……というわけです」
すってーと。あれ?
「タイインスレイブが復活したってことは」
「魔族の帝作用は復活。魔族という霊長はその力を取り戻したわけっすね」
とすると大陸間戦争が?
「今のところその気はないっす。八卿至帝も侮れないっすから」
「その八卿至帝も純霊種のエルダーワンなんだろ? なんで八人もいるんだ。正確には今は七人か」
戦闘卿はダンジョン封印刑に処された。
「純霊のエルダーワンを殺して力を奪い、その執行者たちが互いにエルダーワンの能力を八等分して共有。その力を使ってデミヒューマンを駆逐。唯王四公を封印して、純霊主義を施行したわけですね。はー、にしてもラーメンは美味しいですね」
塩ラーメンをすすりながらグラディオが言う。
「もちろんグラディオを封印したのもその八卿至帝なんだろうな?」
「私は聖女として霊長の区別なく救済する使命がありますから。それを八卿至帝が目障りだと思ったのでしょう。実際にディレクターズカッターであればダンジョンの封印刑も解けるわけですし」
そう言う事情か。
「それでー。アニキ……」
「残りの四公も開放しろって話だろ?」
「さっすがアニキ。わかってるっす」
それくらいはまぁなぁ。そうして塩味のスープをすすって、ご馳走様。支払いは注文前に食券を買っているので、レジは通さなくていい。
「まぁ俺もエルフやドラゴンを見たいから四公を解放するのには賛成だが」
「じゃ、当面の目的は四公を封印しているダンジョンの攻略っすね」
あと四つもダンジョンを攻略しないといけないのか。しかしジュリアンとジュリエット……あとはスレイブさえいればなんとかできる気はしないでもない。ただもちろん八卿至帝も黙っているわけもないし、消えた矢佐間ユウシの行方も気になる。アイツ。相当俺を恨んでいたからな。仕返しというか復讐というか。後れを取るつもりはないが、矢佐間も千剣適合のスキルを持っているので強力な聖剣魔剣を手に入れれば脅威にはなるだろう。
「さてそうすると」
とりあえずは元の世界に戻ってきたのだ。どうやって楽しもうか考えていると。
「あっれー? 君たち超激カワじゃん。俺たちと一緒しねえ? いい目見せてやるからさ」
ジュリエットとグラディオを見つけたチャラ男どもがコナをかける。
「ハイけってーい。俺たちとデートね。これで決まり!」
気安くジュリエットに触れようとして殴り飛ばされる。さすがに修羅疾患は使っていないが。というか使っていたら空気の壁にぶつかって燃焼して骨になっている。
「あらあら。レディに気安く触れるものではありませんわよ?」
穏やかな表情でチャラ男ども牽制するジュリエットだったが、その目には嫌悪が映っていた。
「てめ! 舐めてんのか!」
三人のチャラ男は俺たちを見て睨みやり、それから脅すように拳を握る。
「レイト様……」
好きにしてくれ。そうしてジュリエットとグラディオでボッコボコにして、そのまま警察案件。だが俺は四人を巻き込んで距離フリーを決行。警察が到着したころにはタコ殴りにされたチンピラどもしか存在しないという不思議。
「塩ラーメン美味かったぜ」
「あらあら。でも私も同意見です」
「異世界でも食えるようにならないかな」
「アニキの世界って賑やかっすね」
しょうがない。グラディオのためにカップラーメンを異世界に持ち込むか。あれであればお湯を注ぐだけでラーメンの完成だ。
「かっぷらーめん?」
「まぁソレは後でのこととして」
今日はちょっと今まで忙しかったので顔を見せなかった辺根斗の家に顔を出すことを優先する。親父とお袋も心配している……はずかもしれない。まぁさすがに心配はしている……よな? ちょっと疑問形にはなるけど。
「じゃあ辺根斗家に行くのかい?」
「顔見せ程度だよ。息子が息災じゃないとオヤジも仕事に手がつかないだろうし」
異世界で色々ありすぎて、ちょっとだけ元世界のことが疎かになったのも事実。相変わらずクレナイとカレンからエロ自撮り画像は送られてきていたが。




