第79話:決着のための下ごしらえ【タイインスレイブ視点】
「大丈夫かな? レイト様」
ジュリアンがアニキを心配している。気持ちはわかるっす。拙もアニキが心配っすから。でも戦闘卿のスキルであるスタークオーバーブローは威力数値こそ高いけど、アニキのバリアリブルを貫くほどの数値はない。そう言う意味での心配はしていないけど、戦闘卿の得体の知れなさは拙が一番よく分かってる。なにせSランク魔術エクスカリバーで光に還元しても生き返ってきた存在っすから。その不意を突かれて技術構築されたマテリアルアブソーバーに封印され、異界に放逐。結果ダークブルク夜城ダンジョンのダンジョンマスターになって長い時をダンジョン運営に費やす羽目になったっすから。今回も拙を封印するためにマテリアルアブソーバーを持ってきているだろう。アニキに使う可能性もあるけど、その場合はむしろ安心。アニキはタイインスレイブに復活した拙をダンジョンから連れ出してくれた。つまり封印刑を解除する方法を持っており、アニキがダンジョンに閉じ込められることはない。そっちについては戦闘卿もわかっているだろうし、あくまでアニキを排除して拙を封印することを旨としていると思うっす。問題なのは、数百年前の浄化戦争。それによる純霊種と亜霊種の戦い。そこにおいて唯王四公が全員なすすべなく封印されたこと。魔王である拙がエクスカリバーでフォトンに変換した戦闘卿はケロッとした顔で復活し、拙をダンジョンに封じ込めたっす。相手は死んでも死んでも生き返る存在。であればどうするのが正しいのか。結論としては出ているんすけどね。
「ジュリアン。ジュリエット」
ジュリアンの後始末で、戦闘卿のコンキスタドーム外に避難している拙たち。その拙たちに許されたのは、この安全な場所で戦闘卿をどう無力化するか。ソレを考えることっす。
「あらあら」
ジュリエットがそう頬に手を添えて、拙を見る。
「その表情からして、何かしらの策があるように見えるのだけど……」
「あるっす。ただこれにはジュリエットとジュリアンの助けが必要っす」
閃光が奔った。おそらくアニキがなにか超絶的な攻撃をしたのだろう。それがまさかこの星を貫通して銀河系を貫く閃光などとはさすがに想像の埒外だったっすけど。
「理屈は簡単っす。拙をダンジョンに封じ込めた様に、戦闘卿も同じ手法でダンジョンに封じ込めれば、とりあえずの脅威は取り除かれるっす」
「でも異界に繋がるマテリアルアブソーバーなんてここには」
一応大陸のどこでも採れるけど、やはり最も採掘できるのは大陸最西端の半島国家アリフレム王国っすからね。
「そこは大丈夫っす。異界は拙が作るんで。ジュリエットはその異界に繋がるゲートをマテリアルアブソーバーという形で錬成してもらえればいいっす。それからダンジョン核としての機能を搭載。拙が構築した異界に戦闘卿を放逐する…………どうっすか?」
「あらあら。流石は魔王様ね。でもそんなことができるの?」
「SSランク魔術を使うっす」
覚悟を決めて、拙はそう言ったっす。
「魔術にSSランクがあるのか?」
Aランク魔術でも伝説の威力。一軍を殲滅する戦略レベルだ。Sランク魔術ともなれば、もはやその手段を持っているだけで政治に口を出せる立場。亡国の破壊魔術。政略級の威力を有する。このSランク魔術が禁忌級と言われるが所以っす。だがそれよりさらに上があるのだ。
「SSランク魔術。禁忌級のさらに上。神域級と呼ばれる御伽噺にも出てこない。あらゆる全てから忘れ去られた神代の魔術っす。生憎と拙の魔力はSSランク。スペル無しのコールだけでSSランク魔術を使えるっす」
「それで異界を作るの?」
「そう言うことになるっすね。で、その異界に繋がるマテリアルアブソーバーをジュリエットの侵食触診で精製してほしいっす」
「あらあら。まぁやれと仰るならやりますけど」
じゃあ、と適当に石ころを見繕って、それをジュリエットに渡す。それをマテリアルアブソーバーに錬成してほしいと懇願して。
「意識を重ねるっすよ」
マテリアルアブソーバーに錬成する石ころを握っているジュリエットの手に拙は自分の手を重ねる。アニキの言っているコンキスタドームの理屈を拙は知らない。でも今だけは、触れている間だけでもいい。拙とジュリエットの意識が重なってくれれば。そうして、特に意識はしていないのに拙とジュリエットの意識はその時確かに重なった。
「コール……アヴァロケーション……」
そうしてSSランクの魔力を持つ拙が、神域級魔術……アヴァロケーションを展開する。それは禁忌級さえ越える、新たな世界を作る魔術。まさに伝説にさえ語られないロストテクノロジー。拙だけが使える魔術の極みだった。
「あ、何か感じるわ……」
そうして握った手を伝って、ジュリエットに拙のアヴァロケーションが認識される。
「ジュリエット。感じた異界に通じるマテリアルアブソーバーを……っす」
「ええ、今ならできる。侵食触診」
そうして石ころがマテリアルアブソーバーに錬成される。ソレを見て、拙は「ふう……」と吐息をつく。とりあえずは成功だ。後はこれを戦闘卿にぶつける方法っすけど。
「俺の出番だな」
ジュリアンがそう言う。納得だった。ジュリアンであれば、可能だろう。後始末はあらゆる全てに適応する。後出しジャンケンがこんなに便利だと思ったことはそんなにない。
「じゃあ合言葉を決めましょうか」
ジュリエットがそう言う。合言葉?
「マテリアルアブソーバーを戦闘卿にぶつけて、起動させるための合言葉よ」
たしかに。ただ自動的に起動するだけならそもそも今マテリアルアブソーバーを握っているジュリアンがダンジョン封印刑に処されている。
「じゃあ合言葉はこうしましょう」
ニコッと微笑んで、ジュリエットは信じがたい合言葉を提案した。
「っていうか、こうなるとレイト様が心配だな」
「相手のスキルは離れた相手を殴ることでしょう? レイト様のバリアリブルを突破できるとも思えませんけど」
っていうか、さっきの閃光が地面と水平に撃たれたら都市部に甚大な被害が出るような。
「アニキが最強なのはわかっているっすけど、心配は心配っす」
「そうね。勝てる相手にも容赦はしないだろうけど、戦闘卿の不気味さもそれはそれで」
やるなら早い方がいい。その意見は拙たちで一致した。
「でも戦闘卿のコンキスタドームはどうするっすか?」
「拙にいい考えがあるっす」
まさに失敗フラグを立てたような気もするっすけど、拙はいたって真剣っす。
「ゴニョゴニョ。で、ゴニョゴニョ」
「なるほど。木を燃やすなら森の中か」
いや、そこは隠しましょうっす……。
「あとはジュリアンの後始末でどうにかこうにか」
「任せろ。そこまでお膳立てされれば、俺としても応えないわけにはいかないぜ」
よろしく頼むっす。
「じゃ後は、アニキのフォローをどうするかっすけど」
「タイインスレイブの魔術でどうにかならないのかしら?」
ジュリエットがそう聞くと、拙はニヤリと笑うっす。
「何でもできるっすよ?」
その言葉は嘘じゃないっす。なので、あとは拙とジュリアンの連携でどうにかするだけっす。
「ジュリアンもそれでいいっすよね?」
「もちろんだぜ。腕が鳴る」
ジュリアンの後始末があれば成功は確約されたようなもの。あとはアニキの奮闘をフォローするだけ。これで勝ったも同然っす。見てろよ八卿至帝。拙と敵対したことを後悔させてやるっす。
「じゃ、行くっすか」
「応ともよ!」
そうして地獄絵図を描いているアニキたちの戦場に、拙たちは向かったっす。




