第77話:見えざる暴力
「お、よう。帰って来たか。待ってたぜ?」
何を、と俺は困惑していた。エイテル庭国の冒険者ギルド。そこにいる冒険者が全員叩きのめされていた。死んだ人間は一人もいないが、全員がボコられている。そこにはSランク冒険者のウォール氏も存在する。
「しっかし……最近の冒険者ってのは弱えな。まぁ俺らがそうするように仕込んだんだが」
倒れているウォール氏の顎を蹴って嘲笑ったのは一人の男。鮮やかな金髪をライオンのたてがみのように逆立てている。初見の印象はチンピラだが、おそらくそんな雰囲気にすら収まらない。俺たちはギルドに戻って、報告をするつもりだったのだが、完全に当てが外れたというか何というか。目の前のライオンの様な男が、全て持っていった。いきなりギルドに帰ったら、冒険者全員フルボッコだ。何を言えと?
「よう。魔王タイインスレイブ。久しぶりのシャバはどうだ?」
「空気が澄んで美味しかったが……貴様のせいで最悪っす」
スレイブの声の質が違っていた。まるで怨敵に向けるような。そのまま腕を差し出してたてがみ男をポイントする。
「落ち着けよ」
そのまま何を撃とうとしているのかはわかるが、そんなことをすれば直線状の全てが灰燼に帰す。
「しかしアニキ! アイツは!」
「察するに、お前をダンジョンに封印した奴……か」
「そうっす。アイツのせいで……魔族はッッ!」
そっちの方はよくわからんが。
「で、お前は何しに来たわけ?」
「もちろんお前を殺しにだよ。レイト・ペネト」
ますます意味わからん。
「で、それだけのためにギルドの連中をボコったのか?」
「正当防衛さ。なんでもお前がボコられるのが気にくわないらしくてな」
「俺を殺して何がしたいんだ?」
「この世界を浄化する。とても素敵だろう?」
そこに俺の殺害が入っていなければな。
「レイト様……下がってくれ」
「レイト様……お下がりを」
修羅疾患を展開したジュリアンとジュリエットが最大級の警戒でもってたてがみ男を睨みつける。
「ライカンスロープ風情が……俺と戦う気か?」
「レイト様を殺すと言うのなら」
ギシャアッと呼吸して、最速でたてがみ男を殺すために集中する。
「ところでお前……名前は?」
「そうだな……戦闘卿……とでも名乗っておこうか」
言った瞬間、たてがみ男……戦闘卿は裏拳を放った。それも誰もいないところに。それに何の意味があるのか。それを確認するより早く。
『お兄ちゃん!』
推理大説でバリアリブルを展開したハミルトニアンが俺を守ってくれた。放たれた裏拳は空を切ったが、まるでその距離を無視するかのように俺の側面に裏拳の威力がそのまま具現していた。
「離れた場所にいる相手を殴るスキルか?」
「ま、言ってしまえばそんなところだな」
ニヤリと笑って戦闘卿はそう嘯く。
「射ァッ!」
その戦闘卿に向かって、ジュリアンが襲い掛かった。真っ直ぐ。直線に。それに対して見えざる離れた位置に殴るスキルを持つ戦闘卿が迎撃する。ソレは確かにジュリアンを捉え、だが次の瞬間にはジュリアンは戦闘卿の側面にいた。後出しジャンケン……後始末の効果だ。真っ直ぐ向かっていった事実を、別の事象に適応させる。
「なんっ!?」
瞬間、修羅疾患で、強化された拳が戦闘卿を捉える。そのまま吹っ飛ばされて、ギルドの外に。
「殺したのか?」
「殺す気でやりましたけど……あの手ごたえは……」
瞬間、ハミルトニアンが悲鳴を上げる。
『お兄ちゃん! コンキスタドームを!』
お、おう。言われるがままにコンキスタドームを展開する。で、何がしたいんだ?
『これから一切コンキスタドームを維持したままでいてね。だいたい相手の手の内が読めたから』
それとコンキスタドームの展開に何の意味が?
『アイツのスキルはスタークオーバーブロー。素手の暴力を強化するスキルだよ』
スタックオーバーフロー?
『スタークオーバーブロー! 要するに殴ったり蹴ったりを強化するスキル!』
だったらなんで離れた相手を殴れるんだよ?
『お兄ちゃんがエレクトキシンを離れた相手に作用させるときはどうしてる?』
そりゃコンキスタドームを使って…………なるほど。つまり……。
『殴る蹴るを強化するスキル。それをコンキスタドームの展開をして距離の問題を解決しているわけ』
厄介な状況だな。つまりアイツのコンキスタドームの中であれば、殴り放題に蹴り放題なわけだ。
「こっちの梵我反転が範囲内に収まっていないな。お前も使えるのか。梵我反転を」
ぼんがはんてん? 何だそれ?
「クオリアを外部に展開することで伝死レンジを胎蔵領域に変換する技術だ。使っているってことは知ってるんだろ?」
「生憎と何言ってるか分かんねーよ」
「天性のセンスだけで理解しているクチか。それはそれで疎ましいな」
苦笑する戦闘卿。だが、たしかにそこには憧憬があった。
「で、どうするんだ? このまま続けるのか?」
別に続けても俺はいいのだが、そうじゃない連中もいたりして。
「貴様ぁ! ここで不法行為は――ッッ!」
「邪魔だ」
エイテル庭国の王都軍警察が現場に入って、だが戦闘卿のスタークオーバーブローによって撲殺された。奴のコンキスタドームの中では、スタークオーバーブローの接触範囲に含まれ、結果圧倒的な暴力で全て蹴散らされてしまう。
「俺も大概だが、お前も大概だな」
別にそれをどうこう言うつもりもないのだが。
「で、どうするんだ?」
俺が聞く。
「お前を殺して、また魔王タイインスレイブにはダンジョンに封印させてもらう」
「やる気か?」
「ソレはお前にこそ聞くべきだな」
互いに意思は平行線。であればつける決着は戦闘行為でしかなく。
「射ぁ!」
そうして今度は修羅疾患を起動させたジュリエットが飛び出した。待て……という言葉も遠い。だが確実にジュリエットは戦闘卿に襲い掛かった。
「バカが!」
こっちのコンキスタドーム内から外れ、相手のコンキスタドームに侵入する。戦闘卿が容赦をするような性格じゃないのは既に十分熟知している。その上でジュリエットは飛び出したのだ。その意図を俺ははき違えない。勝算ありき。少なくとも戦闘卿のスキルがスタークオーバーブローで、殴る蹴るをコンキスタドームによって接触効果に昇華しているならつまり触れた瞬間、スタークオーバーブローの衝撃がジュリエットを襲うはずなのだが。ソレは叶わぬ願いだった。
「御免!」
真っ直ぐ突っ込んだジュリエットは、そのまま侵食触診を相手に適応させる。




