第76話:魔王タイインスレイブ
矢佐間がワープして何処かに逃げたことは一応グラディオに報告して。見つけ次第ヘルメス聖国の送還することを約束し。「今はあんな雑魚のことはいいじゃないですか♡ レイト様……ヘルメス聖国のトップの身体を蹂躙する気はありませんか?♡」というグラディオの誘いに乗ってレディとレディファイト。グラディオって聖女だけあって、抱くと幸せな気分になれるんだよな。順転エネルギーが豊富なので全ラに触れるだけで俺の若さが保たれる。ジュリエットも混ぜてやると、ジュリエットが一児の母とは思えないほど美少女化して、もはやジュリアンの双子の姉だろレベルになっていた。いや、おっぱいは大きいんですけどね?
そうしてダークブルク夜城ダンジョン。その九十九階層。百階層に続く玉座の間。そこで俺はバリアリブルを張って、暴れる火炎から身を守っていた。魔王の住まう百階層までは炎の精霊が守っていて、彼らは術式を用いずに魔術っぽい現象を行使する。炎の精霊なら炎を自在に操るのだが。問題はそれによる酸素濃度の低下と一酸化炭素の増加。俺のミラークールエフェクトによるバリアの内部には炎は届いていないが、既に玉座の間には酸素が全部一酸化炭素と二酸化炭素に振り分けられていた。
「どうすんの?」
俺が聞くと。
「私が行きますよ」
ニコッとジュリエットが微笑んだ。あ、そっか。ジュリエットの侵食触診なら二酸化炭素も酸素に変換できる。荒れ狂う炎の温度も変えられる。なら任せるか。バリアリブルの領域を広げてフロアの半分以上を支配する。それから俺を中心としたバリアリブルの外延にジュリエットを置いて、一瞬だけバリアリブルを解除。それからジュリエットを巻き込まない形でバリアリブルを展開。そうしてジュリエットがバリアリブルの外に出ると。一瞬で炎が消え去り、大気が正常に戻った。触れたモノの性質を変えると言っても大気や炎は一部に触れれば全体に影響を及ぼせるらしい。
『まぁ伝死レンジの問題だからねー』
ハミルトニアンはそう言う。電子レンジ? で、あっさりと炎の精霊をニュートリノに還元して、無害化すると。問題はその先にある。
「じゃあ行くっすよ」
ここまで俺たちがダークブルク夜城ダンジョンを攻略したのはスレイブのお願いを聞いたためだ。つまりスレイブはダークブルク夜城ダンジョンの百階層……つまりダンジョンマスターに用があるはずで。
結局何なんだよ?
『ひ・み・つ♪』
ハミルトニアンは全てを知っていながら教えてくれなかった。
「スレイブは百階層のフロアボスを知っているのか?」
「知ってるっすよ」
「教えてもらっても?」
「魔王の力があるっす」
「魔王?」
「魔族の王。この世で最も長く生きた魔族。大量の衰転エネルギーを手に入れて最強と目された魔族の王。その力が荒れ狂っているっす」
「俺たちで勝てるか?」
「ジュリエットさんがいれば……まぁ大丈夫っすけど。拙にはちょっと事情がありまして」
まぁそりゃあるだろう。Sランク冒険者パーティーに頼み込んでここまで来たのだから。
「というわけで手を出さないでほしいっす。特にジュリエットさん。荒れ狂う魔王のエネルギーをニュートリノに変換してないでほしいっす」
「あらあら。それはいいけど……大丈夫なの?」
「うっす。大丈夫っす」
ニコッと微笑んで、そうして俺たちは百階層へ。百階層に入った瞬間、ハミルトニアンが一瞬でバリアリブルを展開して俺たちを守った。俺とジュリアンとジュリエット。三人を防御障壁に囲んで、無事息災を保障する。
「ああ、懐かしいっすね」
一人、防御障壁の外にいるスレイブは平然としていた。荒れ狂う力。確かに言ってみればその通りだろう。だがそれは暴風とか嵐のレベルではない。もっと言うならホワイトホール。あらゆる何物も近づけない、外にエネルギーを放射するだけの拒絶の意思。俺のバリアフリーなら何とか核を破壊することもできるだろうが、そうするとジュリエットはともあれジュリアンが圧力で死ぬだろう。後始末のスキルでも百パーセントの結果は変えられない。というか、それがあるのでジュリアンの後始末の範囲内にいる俺がどうしてもバリアリブルの展開を止められないのだが。っていうかこの荒れ狂う力の中で、なんでスレイブは無事なんだ?
『同一存在だからね』
同一存在?
『魔王タイインスレイブ。それがスレイブの正式な名前なのだよー。流石に魔王は肩書だけどねー』
スレイブが魔王?
『セイントブルク神殿ダンジョンでも聖女グラディオがダンジョンマスターとしてダンジョンに封印されていたでしょー? 同じようなモノ。何者かによって純霊主義が流布され、亜霊種は全員迫害された。もちろん魔族もその一種。その中でもとびきり危ない最強の魔王……タイインスレイブはダンジョンへの封印刑を受けたのだよー』
じゃあなんでスレイブは外に出ているんだ?
『魔王の力と理性を二分して、前者を封印させることで、肉体の主導を封印刑から免れたんだろうね。おかげで最弱の魔族になって生き延びたってわけ』
で、今スレイブはタイインと一つになって……。
『魔王タイインスレイブの復活……というわけだねー』
そうハミルトニアンと会話している間にも、圧倒的圧力で全てを拒絶しているホワイトホールにスレイブは軽やかな足取りで近づいていた。そうしてホワイトホールの中心まで歩いて。
「うし」
次の瞬間には圧力が消え去った。プレッシャーが消えたことでハミルトニアンはバリアリブルを解除。茫然とする俺たちの視線の先で、紫の髪に羊の角をはやした魔族……魔王タイインスレイブは力と理性と肉体が三位一体で融合し、そうして純霊である人間以外で例外的に魔術を使える亜霊種……魔族の王として返り咲いた。
「もしかして俺たちはこれからお前と戦わないといけないのか?」
人間による魔族の迫害。その恨み辛みを魔王タイインスレイブは誰より見てきただろう。つまり復讐するは我にあり。人間を根絶やしにする可能性もワンチャン……と思ったのだが。魔王タイインスレイブは俺へと歩み寄って、それから俺に傅く。
「ありがとうございますレイト様。魔王タイインスレイブは魔族の王として復活し、その力の全てをレイト様に捧げる所存であります」
いや、ええぇ?
「ダンジョンを出たら奴隷契約をしましょう。拙をアニキの奴隷にしてほしいっす」
「いや、王様なんだろ? 奴隷ってのはちょっと……」
「でもグラディオも結構アニキに尽くしているっすよね?」
否定も難しい事実。
「っていうか力を取り戻したらダンジョンの封印刑を受けるんじゃないか?」
「そこは大丈夫っす。拙はもう自由の身っすから」
どういう理屈なのかはあえて聞くまい。
「じゃあタイインスレイブは俺に付き従うと」
「スレイブでいいっすよ。タイインを付けると長いっしょ?」
ソレは確かに。
「じゃ、そういうわけで。これからもよろしくっす。アニキ」
「ちなみに魔王ってことは魔術も使えるんだよな? ランクは?」
Aランクか?
「この世界で唯一のSSランクっす」
Sランクの魔力さえ超えるSSランクだとスレイブは言う。コール一つで禁忌魔術を起動させ、しかもそれを連発できる。それこそ大国の軍勢を相手にしても物量だけで競り勝てる圧倒的な戦力。戦術級どころではない。戦略級ですらないだろう。あえて言うなら政略級。一撃で国の運営を変えてしまう威力の……まさに最強の魔王と言える。マジかよ。




