第74話:斬鉄剣より斬れるモノ
出来レース?
『簡潔に結論を語るとそういうことになるのかなー』
ジュリアンとジュリエット。それからグラディオを連れて元世界へ。今日はハミルトニアンが味噌ラーメンを食いたいというので東京にも進出している高名な味噌ラーメン屋に来ていた。もちろんジュリアンとジュリエットは猫耳で。グラディオは銀髪。目立たないわけがなかったが、ナンパすることはされなかった。俺が抑止力になっているらしい。ブリリアントカッターでイケメンに改造された俺はジュリエットやグラディオと一緒にいても十分につり合いが取れるイケメンらしく、アイツの女ならしょうがねえ。そんな視線を感じる。ともあれ、だ。
闇武闘に出来レースがあるのか?
『無いわけじゃ無い。特に支配人のジャイルはお兄ちゃんに恨みを持ってるっぽいし。あとこの味噌ラーメン美味しいね』
俺の味覚を共有しているので、俺が美味しいと思えばハミルトニアンも美味しいと感じてしまうのだ。ズビビーと味噌ラーメンをすする。
じゃあどうすればいい?
『――を――して――すればいいんじゃない?』
たしかに。それなら負けはないか。しかし支配人にとっては俺に負けてほしいんだろ?
『それはお兄ちゃんには関係ないでしょ。あと高菜を追加して』
はいはい。無料で配布されているラーメン屋特有の高菜を味噌ラーメンに追加して、モグモグと食べる。
『はー。幸せ。ところでカレンやクレナイとはいいの?』
今日はそういう気分じゃない。さっきからスマホにメッセージは送られてきているが、あえて俺は知らないフリ。両親にだけ顔を出して、無事息災を確認させ。両親も結構笑顔が輝かしい。百八財閥に買収されて、そのまま大金を手に入れて。ついでにその財閥の会社から社員を派遣されて仕事はそっち任せ。両親が会社を運営しなくても派遣社員が会社を回して、何もしなくても給料が出るらしい。ここまで天国みたいな待遇だと、働くのがバカらしくなるらしい。しかも家の地下に隠されている脱税用の倉庫には、俺が異世界から持ち込んだ価値のある財産が山のように押し込められている。白金も黄金も思いのままだ。
「じゃ、異世界に帰るんで」
どっちかってーと元世界より異世界の方が俺のホームの認識。
「危ないことはするなよ」
言えねぇ。今夜は闇賭博の殺し合いをするなんて。そうして次元壁フリーで異世界へ。ヘルメス聖国でグラディオと別れ、距離フリーでエイテル庭国の王都へワープ。最高級ホテルまで跳んで、それからジャイルの迎えを待つ。
「レイト様。お迎えに参りました」
闇武闘。国営カジノの地下で行われている非合法の闇賭博。そこに出場しろとジャイルから言われている。カジノに足を踏み込んで。そこから人の目を盗んで地下の階段へ。そうして俺はジュリアンとジュリエットとともに選手の控室へ。他にも選手はいたが、そのどれもが張り詰めている。まぁ殺人アリの闇賭博だ。自分が殺される覚悟も必要なのだろう。
「大変ですね」
ジュリエット(ただしセルフミラージュでおっさんの姿)の感想がそれだ。選手控室にはいなくてもいいのだがハミルトニアンのオススメでジュリエットも選手控室にいてもらっていた。そうして俺の試合がオオトリだと教えられ、最後の出番が来るまでお気楽に待つ。ジュリエットと会話をしながら待っていると、俺以外の選手は全員消えた。試合が終わったので、勝って帰ったのか……あるいは負けて死んだのか。もちろん俺は殺すつもりはないが。殺人アリと言われてもな。そうして最後の出番。
「レイト様。剣はお持ちですか?」
「持ってない」
「ソレはいけませんな。闘技場に武具の持ち込みは礼儀ですぞ。不肖、私が剣を用意させていただきました」
と言ってジャイルが部下を呼んで剣を持って来させる。俺を殺すための出来レースであることはハミルトニアンから聞いているので、そのことをジュリアンとジュリエット、それからグラディオにも伝えてはいるのだ。
「どうぞこちらをお納めください。私がオススメする名剣ですぞ」
と、言っているが、どうなんだ?
『え、エッチなことですか?』
ここでそんな話題出すわけないだろ。ジャイルが用意した剣だよ。
『まぁなまくらだね』
「ジュリ。お前が俺に手渡せ」
「仰せのままに。レイト様」
そうしてジャイルの部下からなまくらの剣を受け取って、俺に差し出すジュリエット。ただしおっさんの姿。うーん。爆乳美少女のジュリエットを見たい気分ではあるが、ソレは試合の後で存分に楽しもう。
「じゃ、行くか」
そうして闘技場に出向くと。
「よう。デブリアン」
待っていた対戦相手は誰あろう。矢佐間ユウシだった。
「お前。奴隷刑は?」
「そもそも悪い事をしていないのに奴隷刑も何もないだろ」
いや、税務署が放っておかないのでは違法税を徴収したんだから。そうして司会進行が試合のルールを説明する。お互いに手に持っている剣。それ以外での攻撃も防御もルール違反。どちらかが死ぬか降参するまで試合は終わらない。スキルの仕様はありだが、スキルによる直接的な攻撃や防御は禁止とする。つまり総合すると、俺はなまくらの剣で斬鉄剣アイアンカッターを持っている矢佐間と戦え、と言われているようなものだ。俺がSランク冒険者という情報は駄々洩れで、オッズは俺の方が不利。だがSランク冒険者が負けるわけがないと高をくくって闇賭博の観戦者のほとんどは俺に賭けている。その俺がなまくらの剣を持って斬鉄剣を持っている千剣適合のスキルホルダー矢佐間と戦うのだ。当然ながら出来レースで、大勢の客から金を搾り取ろうとするジャイルの意図が透けて見える。
「じゃ、やるか」
そうして視界がトークで盛り上げて試合開始の合図をした。
「一秒で死ね! デブリアン!」
ご自慢のアイアンカッターを振るう矢佐間。その剣を、俺は自分の剣で受け止める。スパッと剣そのものが切り裂かれた。ただし矢佐間の斬鉄剣が、ではあるが。「は?」 半分の長さになった斬鉄剣を見て、ポカンとする矢佐間。その鳩が豆鉄砲を食ったよう……という表現が似合う彼に俺はニヤリと笑う。
「まだやるか?」
「不正だ! コイツはスキルを防御に使った!」
「使ってないぞ。全部剣の性能だ」
「ふざけるな!」
半分になった斬鉄剣を振るった矢佐間の剣が根元から切り落とされる。もう残っているのは柄と鍔のみ。剣とは到底言えない。
「降参しないか。あんまり殺したくはないのだが……」
「ふざ……ふざけるな! こんなことがあってたまるか! 不正だ! 審判! コイツを失格にしろ!」
というわけで、俺の剣を検証することになったのだが。一人のカジノ業務員が俺の剣を握って地面に落ちている斬鉄剣の残骸を切ってしまい。つまり俺のスキルではなく、あくまで剣の性能だと検証が終了した。そうして試合再開。別に難しいことはしていない。ジャイルから剣を受け取ったとき、俺はジュリエットを仲介していた。つまりこの剣はジュリエットの侵食触診で斬鉄剣以上の切れ味を付与されているのだ。言ってしまえば簡単なロジック。
「じゃあ心臓を刺すか。どうせ死なないんだろ?」
聖女の呪いで借金を返済するまで死ねないことになっている。その矢佐間にニッコリ笑う。青ざめる矢佐間は、今度はポケットからマジックアイテムを取り出してキーワードを唱えた。こうなることを想定していたのか。ワープなのだろう。矢佐間は一瞬で消えてしまった。こうなると試合放棄だよな。闇賭博の結果は? と思っていると矢佐間の敵前逃亡で俺が勝者になったらしい。賞金で白金貨十枚を貰って、そのままイベントは終わった。ジャイルが呆然とし、俺は金を稼いで、今日はよく眠れそうだ。




