第70話:八十階層レベルと石焼ビビンバ
八十階層から下は深層と呼ばれていて、別に誰でも入れはするが、一応Aランク冒険者でもなければ生き残れない激しい階層とは言われている。
「ダークストーカーね」
影というか黒い靄がはみ出ている自立する人型鎧。いわゆる生きている鎧なのだが、まぁあんまり意味はなく。
「弑ッ!」
「封ッ!」
修羅疾患を適応させたジュリアンとジュリエットの敵ではなく。ジュリアンはあまりの暴力でダークストーカーを燃やしていた。別に炎の異能を持っているわけじゃない。ジュリアンが殴ったダークストーカーが超音速で空気の壁にぶつかり燃焼して消えるのだ。残ったのはドロップアイテム。ダークストーカーの装備がちょこちょこ落ちていく。ソレを拾って自前のアイテムボックスに入れるジュリアン。ジュリエットの方はもっと身も蓋もない。鎧に触れて白金に変えると、その白金とドロップアイテムをアイテムボックスに収納していた。彼女(一応セルフミラージュでおっさんの姿ではあるのだが)の前ではあらゆるものは貴金属かニュートリノに変換されるのだ。南無三とはまさにこのことだろう。
「まぁこれ以上金はいらんのだが」
それもしっかりと俺の本音だった。だって……ねぇ? 既に白金貨で一万枚を超えている。カジノの支配人ジャイルの溜め込んでいた脱税財産は相当なもので、有り余る財産を手に入れていた。そのまま持っていてアイテムボックスを無くしてもつまらないし、次元壁フリーによって元の世界と空間を繋げて、我が家……つまり辺根斗の家が代々国に秘匿している脱税倉庫に収納していた。今の俺のアイテムボックスには金貨千枚程度しか収納されていない。他は全て元の世界の辺根斗家脱税倉庫に収めている。もちろん税務署の査察が入れば脱税容疑で捕まるだろうが、そこは百八財閥の威光を借り受けよう。ジュリアンとジュリエットが稼いだ金については知ったこっちゃないが、奴隷というには裕福な金を持っている。ジュリアンに至っては後始末で白金貨三千枚を稼いだのだ。カジノの怨敵と言っても過言ではない。
「さーて、そうすっと」
どうしたものかね。俺はコンキスタドームを広げて、襲い来るダークストーカーを圧縮していた。正確にはブラックホールにしていた。縮退圧フリー。パウリの排他原理を障害と見なして無効化。ボーシック・エフェクトというフェルミ粒子をボソン同然の属性を与え、自重で潰す。そうしてできたマイクロブラックホールが蒸発して消える。ソレを繰り返すだけ。
「スレイブ。拾っていいぞ」
「え? でもこれアニキの戦利品っすよね?」
「金には困ってないから心配するな。お前にプレゼント」
「アニキ太っ腹すぎるっすよ」
「そう言う俺も好きだろ?」
「大好きっす」
そうしてダークストーカーのドロップアイテムを拾い出すスレイブ。時折ギルドに戻ってホテルで休憩。後にギルドからセーブポイントの場所に転移してダンジョンの深層をクリアしていく。そんな折だった。
『お兄ちゃん』
頭に響く自称妹……ハミルトニアンの声。何か?
『石焼ビビンバが食べたい!』
…………。
『石焼ビビンバが食べたい! 食べさせて!』
それはつまり元の世界に戻れと?
『そう!』
別に構いはしないが。自撮りエロ画像を送ってくる百八クレナイに聞く。
「東京で美味しい石焼ビビンバの店ってあるか?」
「ご案内します! ですから一緒にデートしましょう!」
さっきまでエロ自撮りを送っていた乙女とは思えないテンションでクレナイはそう言った。たまにコイツもようわからんのだよな。というわけで。
「よ。グラディオ」
「レイト様。如何様な用で?」
「俺の世界に行くんだが。お前も来るか?」
ジュリアンとジュリエットには聞くまでもない。
「行きます」
じゃ、そんなわけで行きますか。次元壁フリー。そうして何時もの通り庵宿区の駅に現れたのだが。
「あれって庵宿駅の都市伝説の……」
「絶対そうだよ。尊い!」
「銀髪巨乳とかどんな御褒美」
「猫耳爆乳乙女もあり得ないだろ!」
「っていうか男の人イケメンだよね。やっぱり全員あの人のハーレムなのかな?」
不本意なことを言われている気もしないでもない。
「レイト様。お久しぶりです」
「お兄さん。おひさー」
百八クレナイと一理カレンも集まってくる。異世界でも次元壁フリーでスマホが通じると分かった瞬間、ダンジョン攻略をしていてもくだらないコメントは送られてきていた。迷惑とまでは言わないが、なんとなく自重してほしい今日この頃。
「じゃあ石焼ビビンバを食べに行きましょう」
そうして庵宿駅の前にワゴンが止まっていて。俺。ジュリアン。ジュリエット。グラディオ。クレナイ。カレン。全員が乗る。そのまま東京でオススメの石焼ビビンバの店まで直行。
「石焼ビビンバって何ですか?」
とは異世界ヒロインの言葉だったが、まぁ案ずるより産むが易し。
「美味しい料理だ」
とだけ伝えた。ちなみに石焼ビビンバにはロイヤリティの議論について面白い話があるのだが、ソレは言わなくていいだろう。
「うーん。美味い」
ジュージューと焼けた石の器物に焦げた米とキムチとナムル……あと牛肉。
「美味しいぞ」
「あらあら」
「美味しいですね」
異世界ヒロインにも好評らしい。
「はー。幸せ」
で、もちろん俺も楽しんでいたが。
『お兄ちゃん! お兄ちゃん! ハミルちゃんは幸せだよー!』
一番テンションが高いのはハミルトニアンだった。一応大日如来の化身なので、宇宙そのものではある。だが索引が無いので興味のないことは検索することのできない悲しい存在でもある。
『うーん。お兄ちゃんの舌を通じて味わう石焼ビビンバはとても美味しいね』
そうだったらよかったよ。
『この後は八十階層レベルのダンジョン攻略?』
そのつもりだが。
「お兄さん。今日の夜のお供を♡」
「レイト様。わたくしといいことをしましょう♡」
「どう思う? ジュリエット。グラディオ」
「レイト様の魅力を考えれば当然かと」
「そうだね。レイト様はとっても素敵だしな」
そう言う問題だろうか?
「ねえお兄さん。私とさ♡」
「レイト様。お慈悲をくださいませ♡」
「? カレンとクレナイは何を言っているんだ?」
ジュリアン。お前はその生のままでいてくれ。
「とりあえずやるのはいいんだが。マジで責任取れんぞ」
「大丈夫ですわ。ちゃんと対処はしますから」
「幸せ家族計画は万全だよー」
そもそも異世界冒険のはずが何で俺は石焼ビビンバを食べに元の世界に来ているんだ?




