第69話:勇者ユウシの自由【矢佐間ユウシ視点】
ひは。ひははは! 自由に成れたぜ! 俺様……矢佐間ユウシは改めて手に入れた自由を謳歌していた。これが笑わずにいられるか。これで奴隷刑ともおさらば。後は穏便に別の国に行けばいい。大丈夫だ。アイアンカッターの二号を貰っているし、俺様に敵はない。ヒーロースキル千剣適合を持つ俺様は剣を持つ限り最強だ。ちょっと前にレイトに遅れを取ったのは単なる偶然。真正面から戦えば俺の方が強い。
「じゃあ行くか」
仮面ローブの男が、そのように言う。俺としては最後にアリフレム王国にざまぁをしたいのだが。まぁ俺に鞭を打って無理矢理働かせたドワーフたちは切り殺したのでざまぁは少しだけしたのだが。後はそうだな。レイトの奴を切り殺さないと俺の中のは腹の虫が収まらねえ。
「どこに行くんだ?」
「エイテル庭国。レイト・ペネトに復讐したいんだろ?」
「当たり前だ。俺様をあんな目に遭わせやがって。一生後悔させてやる」
「その意気だ」
で、エイテル庭国とやらに行くのはいいんだが。
「そこにデブリアンがいるのか?」
「デブリアン?」
「レイトのことだ」
「ああ、いるぞ。なんでもダンジョンを攻略しているらしい」
アイツがダンジョン攻略? 出来るわけないだろ。ちょっと痩せてイケメンになった程度でクリアできるほどダンジョンは甘くない。俺様としても、あんな奴にダンジョンがクリアできるなんて思ってもいない。まだしも俺様の方がワンチャンある。
「じゃあ馬車でも借りるか。セルフミラージュは使えるか?」
「当たり前だ。魔力Aランクだぜ?」
D級魔術など詠唱破棄で使える。そうしてセルフミラージュで姿かたちを変えてアリフレム王国の検問を通り過ぎる。それからヘルメス聖国を通り過ぎ、エイテル庭国へ。勇者である俺様が姿を隠して隠密行動というのは気にくわないが、そこは呑もう。そうじゃなくても借金がどうのとうるさい輩が多い。魔王討伐税を徴収したくらいでギャーギャー騒ぐ国民が信じられない。俺様に金を貢ぐのは人間として当然の義務だろ? それを一々不当だなんだと。そう言う空気読めない奴がいるから世界ってのは生きにくい。
「レイトを殺したいんだろう?」
「だから当たり前だ。遺体をサルベージしてブタのエサにしてやるッッ」
「その通りだ。ユウシ。お前は選ばれし者だ。お前に悪い事なんて一つもない。悪いのは全部お前を理解しないクズどもだ」
「そうだ。俺様は悪くねえ。俺様を蔑んだクズどもに、俺様は復讐する権利がある。だろ?」
俺様が聞くと、仮面ローブの男がコックリ頷いた。その通りだと仮面ローブの男がいう。
「だから最高の舞台を用意してやる。一方的にレイトを殺せる舞台をな」
「なんでお前はそこまでしてくれるんだ?」
「単に勇者には真っ当な評価をされてほしいだけだ」
「そうだよな。俺様は勇者だ。選ばれし存在なんだ」
ソレを横からギャーギャーいう奴の気が知れない。もしかして俺様に嫉妬してるのか?
「あんたは……名前を何と言うんだ?」
「自称としては戦闘卿と名乗っている」
「戦闘卿……」
「ま、単なるニックネームだとでも思ってくれ」
「それはいいが。本当にレイトを殺せるんだろうな」
「間違いない。一方的に殺せる」
「くくく、はははは! あのバカでブタ野郎! 俺様が引導を渡してやるよ!」
「まぁ頑張ってくれ」
「いっそヘルメス聖国の聖女も殺すか?」
「アレは無理だイモータルの中でも不死に位置する存在だからな」
「不死って……死なないって事か?」
「まぁ厳密には議論するとややこしいが、その理解で問題ない」
「俺様だったら殺せるんじゃないか?」
「余計なリスクを背負い込むな。ユウシにはレイト抹殺を基準にしてほしい」
「わかったよ。そこはちゃんとやるって。しかしそれにしても……俺様たちがなんでこんなセコセコと」
「検問の兵士全員を切り殺すか?」
「面倒ではあるが。英雄が顔を隠す理由もなくね?」
「お前がそうしたいなら止めはしないが」
「ジョークだ。ちゃんと戦闘卿の言うことを聞くって」
「そうしてくれるとありがたい」
仮面ローブの男はそう言った。俺様としては俺様に邪魔な奴は全員片っ端から切り殺したいんだが。
「エイテル庭国ってどういう国だ?」
「賭け事が盛んだな」
カジノとかか。ちょっと惹かれるが。そうしてヘルメス聖国の国境を越えて、エイテル庭国の領地に入る。
「うーん。自由って素晴らしい。本当にそう思うぜ」
「ヒーロースキル千剣適合だったか?」
「ああ、剣さえ持てば俺様に敵う相手は居ねえ」
「頼もしいな」
戦闘卿はそう苦笑した。
「嘘だと思っているなら試してやろうか?」
アイアンカッター二号を抜いて戦闘卿に突きつける。
「勘弁してくれ。勇者に喧嘩を売るほど勇者じゃない」
下手に出る戦闘卿にプライドが刺激されて、そうして俺様は矛を収める。
「まぁ自由にしてくれたのは感謝している。あのままあそこにいたら気が狂っていた」
「そう言ってくれて一安心だよ」
「じゃあレイトを殺しに行くか。あのデブリアン。ちょっと調子に乗ってるから俺様がブタとして調教しないとな」
「ユウシ。まずはこっちだ」
そうして戦闘卿はエイテル庭国の王都につくと豪奢な造りの建築物に入っていく。聞くにここがカジノらしい。俺様としては驚くより他に無いのだが。それからやつれた感情のカジノ支配人ジャイルに戦闘卿が話を通して、そのまま今後の説明に入る。聞けば聞くだけ、俺様にとっては都合のいい展開だった。
「戦闘卿。あのクソ虫のアイテムボックスは私がもらい受ける……ということでよろしいですな?」
「ああ、レイトのアイテムボックスか。まぁそうだな。お前に渡そう」
「それさえ保証してくれるのなら幾らでもやっちゃってください。私は何も知りません」
「大丈夫か? コイツ?」
「世の中にはこういう人間もいるんだよ」
含蓄のある言葉だった。
「よし。じゃあレイトを殺すためのシミュレーションに入るか」
そうしなければ俺様の気が晴れない。
「待ってろよデブリアン。最高の舞台でお前をチャーシューにしてやるからな」
細く薄く切って、生まれたことを後悔させてやる。ここから始まるのだ。俺様の勇者伝説が。そうじゃなきゃおかしい。レイトが救国の英雄? バカも休み休みに言え。俺様こそが勇者だ。全ての人間は俺様を肯定する義務がある。ソレを怠っている奴が不敬罪で死ぬのだ。
「じゃあやるか」
「そうだな。じゃあジャイル。うまい事レイトをおびき寄せられるか?」
「任せてください。そういうことは得意ですぞ」
いやらしく笑ってカジノの支配人ジャイルは請け負った。レイトを殺す。そのためだけに俺様はアリフレム王国を脱出したのだ。ぶっちゃけ、アイツへの復讐以外に俺様の目的はない。観客の前でレイトをむごたらしく殺す。ただ殺すだけじゃ飽き足らない。ジワジワと身を削って殺すのだ。ブタのようにロースとヒレに分けてやる。覚悟しろよ、レイト。




