第7話:レイト、男の娘を拾う
『結構色々あったねー。お兄ちゃん』
城の中をコンキスタドームで把握して、色々とチョッパった。窃盗罪に該当するのだが、まぁ相手も俺を公開処刑しようとしていた奴らだから気を利かせる必要も無いとは言える。で、アイテムボックスという名のクリスタルで出来た物品を収容できるマジックアイテムを手に入れて、そのまま今度は財宝の蔵に侵入して白金貨やら金貨やらポーションやら何やらを徴収した。いやー。バリアフリー最高だわ。あらゆる防御結界をすり抜けて、壁もすり抜けて、いろんなところに入れる。後はコートと仮面を手に入れて、俺がレイト・ペネトだとバレないように細心の注意を払わなければならない。既に賞金首になっているのだ。姿を隠すくらいでちょうどいい。とは言っても体形がデブだからそこは魔術で隠しているのだが。
D級魔術。セルフミラージュ。
それによって幻で体形を視覚的に改竄して他人を装っている。
「これからどうしよう?」
まぁ王都を出るのは間違いないのだが。それにしたって色々と準備はいるし。どうしたものかねぇ。
『お兄ちゃん。お兄ちゃん。じゃあ冒険者ギルドに行こう』
冒険者ギルド? 一応ハミルトニアンと会話するのもスキルマスタリーを拡張するのに一役買っているらしい。天啓検閲規律を無効化してハミルトニアンとの接続を維持するだけでもスキルのリソースを増やすことになる……とのこと。
「まぁそれもいいか」
そうして王都の街を歩いていると、ドンと誰かにぶつかった。
「ごめんよ」
ぶつかった街の人はあっさり謝って去ろうとする。
『お兄ちゃん。アイテムボックスすられたよ』
ん? スリ?
『ですです』
言われてコンキスタドームを広げる。たしかにさっきぶつかった少年の懐に俺のアイテムボックスが。
「エレクトキシン」
そうして俺は少年に神経毒をかける。足を痙攣させる程度だ。
「???」
で、いきなり足が麻痺した少年の困惑はとりあえず無視して。その懐に入れているアイテムボックスを回収する。ここには結構な大金が入っているので、できれば失いたくない。
「さて、どうしたものか」
俺の財産……ではないな。俺も王城から盗んできたんだから。だが俺の生活費を盗もうとするのはふてぇ野郎だ。ますます人のこと言えないけど。
「ん?」
で、足を痺れさせて動けない少年からアイテムボックスを取り返して、後は放置しようとしたのだが。彼の頭についている猫耳にちょっとだけ興味が惹かれた。
「本物か?」
「ヒャウンッ!」
俺が猫耳を触ると、ピクピクと動く。同時に少年に怖気のようなものが走った。
なぁ。ハミルトニアン?
『え、エッチなことですか?』
いや、なんかこの少年、猫耳が生えているんですけど?
『ライカンスロープ……獣人と呼ばれる種族だよ。獣の特性を持つ亜霊種だね』
亜霊種?
『純粋な人間を純霊種って呼んで、それ以外の特徴を持つ霊長を亜霊種と呼ぶんだよ。お兄ちゃんは純霊種だけど、世の中にはいろんな亜霊種が存在するんだよー』
敵ではないのか?
『人種差別問題を意識しなければ誰が敵とかそういうことはないかもね』
なるほどね。
「大丈夫か?」
俺はエレクトキシンをかけた猫耳の少年に声をかける。相手は倒れ伏したままこっちを睨んでいた。何か敵視されるようなことをしただろうか。獣人を相手にするのはちょっと初めての経験だが。
「どうせ純霊種は美味しい思いをしてるんだろ! スリくらい見逃せよ!」
何を言われているのか。それが俺にはよくわからない。だが少年が俺を……というか純霊種を憎んでいるのは悟れた。
「殺すなら殺せ!」
そんなくっころ宣言をしても、俺がお前を殺す理由が無いのだが。
「さて、どうしたものか」
悩んでいると、グルル、と猫耳の少年が牙を鋭くして威嚇する。まるで暴力の化身のような感じだが俺から言えることはそんなになく。だが次に、グギュルルゥと腹の虫が鳴ったのは聞き逃せなかった。
「腹減ってるのか?」
「お前ら純霊種のせいだろ!」
それがどういう意味を持つのか俺にはわからんのだが。
「じゃあ飯にするか」
そんなわけで俺は飯にすることにした。歩けない猫耳少年を担いで。さすがにここで治すと厄介なことになりそうなので、それは後刻ということで。適当に食事処に入って、異世界文字なのに意味が分かって、そのまま注文。俺もデブだし腹が減るのは早い方だ。城にいた頃は食糧庫の飯を漁っていたが、それだって料理というか原材料を食っていただけで、中々人権的な食事からは程遠かった。というわけで適当に食事メニューを頼んで、そのまま猫耳少年と会話する。
「名前は?」
「…………ジュリアン」
やはり少年か。ジュリアンは男の名前だしな。足がマヒしているから逃げ出すこともできないだろうし。とりあえずはここで飯を食うより他にない。唐揚げやらベーコンサンドやらコンソメスープやらサラダやらグラタンやら。異世界でも食事の傾向は同じらしい。それらをテーブルに並べてもらって。
「じゃあいただきます」
俺は食事を開始した。こんなに太っているというのに、俺の胃袋は食事を求めている。それらの大量の食事を前にして、ゴクリと猫耳少年ジュリアンは唾を呑む。
「食って……いいのか?」
「どうぞ」
特に拒む理由はない。足は動かないだろうが飯を食うのには支障ないだろう。
「お前、本当にヘルメス聖国の人間か?」
「いや? 単なるストレンジャー」
こんなデブがストレンジャーと言うのもおかしな話だが。
「で、お前は?」
「単なる獣人だ。明日生きていくのも困っているような……な」
なるほどね。そうして俺はジュリアンから話を聞いた。ここはヘルメス聖国。大陸の端にある大国だった……らしいが、今は色んな所からヘイトを買っているらしい。ガツガツモグモグと食事処のメニューを食い散らかして、その後で俺が会計を済ませる。金貨を取り出すと驚かれた。だがおつりは貰って、銀貨十八枚と銅貨三枚。なんか思ったよりこの国では金貨はあまり見ない貨幣らしい。とすると白金貨はどうなってしまうのだろう?
「腹いっぱいになったな」
「ああ、レイトのおかげだ」
そりゃよかった。
「ところでお前の家は何処だ?」
ジュリアンを背負って、住処を聞くが相手は俺を信用していないらしい。
「とりあえず吐け。お前を送ってから足の麻痺を解いてやる」
「それで殺したりしないのか?」
「なんで飯奢っておいて殺す必要があるんだよ」
「…………」
言われて納得したのか。ジュリアンは自分の家の場所を吐いた。




