第66話:リッチ
「八十階層……」
正確には今は七十九階層。そこで八十階層のポータル前に来ていた。さて、どうしたものか。たしか八十階層のボスモンスターは……。
「リッチ……でしたよね?」
「うっす。いきなりエクスカリバーを撃ってくると受付嬢が言ってたっす」
ハミルトニアン?
『え、エッチなことですか?』
だから違うっつの。エクスカリバーって何だ?
『禁忌級魔術。Sランク魔術と言ってもいいねー』
どういう魔術だ?
『触れたモノをフォトンに変換する力場を前方に押し出す魔術。結果として撃ちだした射線上の大気中の空気分子もフォトンに変えちゃうから全てを飲み込む光のビームに見えるけど』
それでエクスカリバー……か。防ぐ方法は?
『次元壁フリーをミラークールエフェクトで反転させて異界障壁を作ればとりあえずは大丈夫なはずだけどー』
じゃあそれでいくか。
「ジュリアン。ジュリエット。スレイブ。八十階層に行ったら俺から離れるなよ?」
「エクスカリバーを防ぐ方法があると?」
「もち」
まるで説得力のない俺のサムズアップに、三人は思案していた。まぁたしかにこれで信じろと言われても俺に何を期待しているんだって話ではあって。
「じゃあ俺はレイト様を信じるぜ」
「あらあら、先に言われちゃったわね」
「拙も信じるっす」
全員エクスカリバーの威力を知っていながら。俺を信じてくれるらしい。
「じゃ、生半なことはできないな」
するつもりも毛頭ないが。
「じゃあやるか」
四人でポータルを通過する。そうして入った八十階層。
『次元壁リブルを展開。対象のエクスカリバーを防ぎます』
透明な壁が出来て、それは押し出された光子変換力場を遮断する。
「ここまでは想定通り。じゃ、やるか」
俺は八十階層のフロア全体にコンキスタドームを展開。そのままエレクトキシンを適応できればいいのだが、リッチはアンデッドなので神経毒は効かない。残念無念。だがまぁやり様は色々ある。
「「修羅疾患」」
ジュリアンとジュリエットが血在魔法を展開してリッチに肉薄する。リッチ。アンデッド系のモンスターで、その中でも高位のソレだ。魔法使いが死んだら変じると信じられている存在で、つまり魔術を使う。はたしてアンデッドを純霊種に数えていいのかは議論の余地があるが。だがそれでも魔術を使えるということは何かと繋がっているのだろう。あるいは魔術に見えるだけで魔術ではないのかもしれないが。骨が豪奢な服を着た遺跡で見つかった王様の遺体みたいな姿だが、まぁそれはいいとして。
「コキュートス」
今度もSランク魔術。それによる凍結の攻撃。と思った瞬間には冷凍空間にはジュリエットだけがいて、侵食触診で、極寒の領域を中和。ジュリアンがどこにいるかというと、リッチの背後。
「弑ッ!」
暴力の化身。修羅疾患による一撃はリッチの骨で出来ている身体をバラバラにしたが、それで終わるはずもなく。あくまで散った骨がまた集まってリッチに戻る。俺としても中々頭が痛い。で、どうしろと?
「さてさて、アイツを消滅させるには……」
一番簡単なのはジュリエットのタッチタイピング。これでリッチをすべてニュートリノ変換。
「エクスカリバー」
さらに撃たれる禁忌級魔術。
「ふぅっ!」
ソレをあっさりと避けて、ジュリエットの侵食触診が作用しようとするが。
「インフィニティウォール」
さらなるSランク魔術。リッチに触れる直前、リッチとジュリエットの間に無限の障壁が出来ていた。ハミルトニアン。あれは?
『インフィニティウォール。名前の通り無限の壁を具現するの。一枚一枚はもろいけど大量にあれば無敵の壁になるだろっていう理屈』
なるほど、接触した一枚を侵食触診でニュートリノに還元しても、次なる一枚が出てくるわけか。そう思った瞬間。
「弑ッ!」
さっきまでジュリエットがいた位置にジュリアンがいて、インフィニティウォールに対応している。おい。何故お前がそこにいる?
「おおおおぉぉぉぉぉッッッ!」
ズカン! バキン! と無限の障壁を破っているところに。
「――――ッ!」
背後から忍び寄ったジュリエットが侵食触診を当てようとしてくる。だがそれを。
「インフィニティウォール」
さらなるSランク魔術で防御するリッチ。だがそう言えば、と気づいた俺に。
『お兄ちゃん遅すぎ』
責めるように、ハミルトニアンがそう言った。そもそも俺のスキルの本質はバリアフリー。バリアを解放するなんて基礎の基礎。たとえそれが無限のバリアであってもだ。ついでにボスフロアは全て俺のコンキスタドームの領域内だ。
「移動障害フリー」
それであっさりと障壁を通過したジュリエットはリッチに触れる。後は一瞬だった。一気にリッチが消え失せて、ニュートリノに変換され。チリンチリンと指輪が落ちた。
「指輪?」
ドロップアイテムだろうか?
『賢者の指輪だね。指にはめると特定の魔術の詠唱破棄を手伝ってくれる代物。リッチが持ってるってことはSランク魔術のそれじゃないかな?』
「それって貴重じゃないか?」
『超貴重だね。売り払うのももったいないかなー』
じゃあとっておくか。そうして八十一階層まで潜った後、俺たちはギルドに戻った。別に俺たちだけがダークブルク夜城ダンジョンに挑んでいるわけではないのだが、浅層に比べるとやはり下層や深層には誰もいない。浅層程度なら勇ましい冒険者の姿も見られたのだが。
「八十階層クリアですね。承知しました」
そんなわけであっさりと報告も受理され、そのまま宿へ。すり寄ってきた冒険者たちだが、「今日は稼いでいない」の一言で解散。実際に稼いでいないしな。リッチのドロップアイテムは俺のアイテムボックスに収納している。売れば白金貨で云百枚になるらしいが、一応のことを考えて売り払わなかった。
「ふい」
そんなわけで最高級ホテルでバラの香りのする風呂に入り、一人汗を流していた。そういえばジュリアンと入ったことが無いな。今度誘ってみるか。しかしご主人様が奴隷に一緒に風呂に入れはハラスメントでは? どうしたものか?
「まぁ、いいか」
ホテルマンに頼んで入浴後の牛乳を用意してもらい、それを魔術でキンキンに冷やして飲む。
「くぁーっ! この一杯のために生きている!」
あとはドラゴンとエルフを見ることだけど。




