第60話:そうしてダンジョン攻略へ
「ふむ。こっちだな」
「あのー。アニキ……」
「どうした?」
「アニキってマッピングのスキルでも持ってるんすか?」
エイテル庭国の冒険者ギルド。そこから転移した異界……ダークブルク夜城ダンジョン。今日も今日とて百階層を目指して進軍している俺たちだが、ほぼ全て順調だった。先頭を務めるのはジュリアンで、罠を踏み抜いても後出しジャンケン……後始末で、あっさりと現実修正。現れたモンスターはジュリエットが黄金や白金に変えてアイテムボックスに収納。もはやこの最強コンビを止められる罠もモンスターも存在せず。俺たちの懐は潤うばかり。俺もバリアフリーでどうにか出来ないわけじゃないが、モンスターを消し飛ばしたりブラックホールにしたりするよりジュリエットの侵食触診で黄金に変えた方が経済的に有利となれば、出る幕も無いわけで。俺は基本的にコンキスタドームで階層をマッピングし、宝箱を回収しつつ最短ルートでフロアを走破するように指示するだけだ。スレイブは全く役に立っていない。だがハミルトニアンはスレイブに何かを感じているらしく。面白そうに俺を煽っている。多分だがスレイブがダークブルク夜城ダンジョンの百階層攻略に必死なのにも何か理由があるのだろう。で、もちろん百階層攻略をするには現実問題Sランク冒険者……最低でも深層を突破できるAランク冒険者が必要で。寄生虫だと分かっても自分の目的のためには低ランク冒険者にお願いするわけにもいかなかったわけだ。俺たちがちょうどよりかかったからいいモノの、そうじゃなければSランク冒険者のウォール氏に肘鉄される毎日だったんじゃないか?
「で、次が三十階層か」
フロアボスが待ち受ける階層。まぁダークブルク夜城ダンジョンは城をモチーフにしているので、フロアボスじゃなくてもポータル前には他のモンスターより強いモンスターが配置されているわけだが。それも黄金に変えられてアイテムボックスに収納されてるんってんだから涙がちょちょぎれる。
「いくか?」
「たしかダストリウムゴーレムでしたよね?」
ジュリエットが聞く。
「ギルドの受付嬢が言うにはそうだったな」
さすがに一日で十フロア攻略はそもそもの人間の限界として無理なので、ちょくちょくギルドに転移して、そのたびにボスフロアが近づくとボスモンスターの情報をくれる。ちなみに無料。代わりにボスモンスターを倒したドロップアイテムをギルドに適正価格で売るように要求されているわけだ。
「ボロイ獲物ですね!」
ジュリエットの目が輝いていた。ダストリウムは原子的に重い金属。そこから原子番号の低い白金に侵食触診で変換すると大量の白金がとれるわけで。本来ならセルフミラージュで透明化したダストリウムゴーレムの運用をしているゴブリンウィザードを見つけて討伐し、ゴーレムの機能を停止させるのが勝利条件なのだが……。
「じゃあアイテムボックスに収納しましょうね♪」
一撃でダストリウムを大量の白金に変えて、ホクホク顔でアイテムボックスに収納するジュリエット。重さ的にトン単位だが、アイテムボックスに収納すると重さを感じないので問題なし。で、俺がコンキスタドームであっさりとゴブリンウィザードを見つけて、そのまま討伐。ハミルトニアンの推理大説によって完全開放したバリアフリーで縮退圧フリーを実験。パウリの排他原理が無効化されて圧縮されたゴブリンウィザードはマイクロブラックホールになり、即蒸発。そのまま虚空に消えてしまった。
「何したっすか? アニキ……」
「パウリの排他原理を無視してフェルミ粒子を重ね合わせて圧縮。重力崩壊させて消滅させたのよ」
「???」
うん。知ってるよ。こっちの世界で宇宙科学を説く愚かさは。
「とにかく小さく潰して無かったことにした……って思ってくれ」
「魔術っすか?」
「いんや。スキル」
バリアフリーの細かいことまでは言うつもりはないし、ハミルトニアンなんてもってのほか。大日如来が俺をお兄ちゃん呼びとかどういう冗談だ。ゴブリンウィザードが落としたのはそこそこ高レベルの魔術師用の杖で、希少かと言えば希少なモノ。基本的に魔術は魔力と詠唱のトレードオフ。杖はそれ自体が魔力を持っており、低ランク魔力の人間でも詠唱を短縮できるようになる代物。冒険者なら誰でも欲しがる一品だ。多分白金貨で二枚程度は稼げるだろう。十階層のフロアボスと一緒の価格だって? あっちはボスモンスターを素材そのまま提供して白金貨二枚だ。こっちはドロップアイテムだけで白金貨二枚。ついでにダストリウムゴーレムを変換したプラチナを換金すればさらに儲かること請け合い。もちろんそれに食いつかない冒険者ではなく。
「レイトのアニキ~。三十階層を踏破したって?」
ニヤニヤの笑みで下級冒険者がすり寄ってくる。
「好きなだけ飲め」
ギルド備え付けのバーのマスターに白金貨を一枚支払って、酒代を出す。大喜びした冒険者どもが飲めや騒げやの宴会騒ぎで夜が更けていく。俺はミルクを飲んで、そんな大騒ぎを眺めていた。
「わしも馳走になっていいかね?」
エイテル庭国の冒険者ギルドのギルドマスターが俺に聞く。
「お好きにどうぞ」
白金貨一枚分の範囲でなら好きに飲んでくれ。
「レイト殿。あの大量の白金や黄金はどうやって?」
麦酒を飲みつつマスターが問うてくるが。
「黙秘です」
ジュリエットの侵食触診がバレると大陸中の人間が彼女を欲しがる。俺と奴隷契約をしているし、ジュリエットの危機にバリアフリーを惜しむつもりも無いので最悪の事態にはならないが、余計な面倒は避けたいのが本音。ちなみに今回はドロップアイテムの他に宝箱の宝物とモンスターを白金や黄金に変えた素材も売ったので、ウハウハの状態だ。
「このままウチに居着くのかね?」
「いえ、ダークブルク夜城ダンジョンを攻略したら移動するつもりです」
スレイブの用事が終われば、という前提条件はあるが。
「そうか。是非とも居残って欲しかったが」
「見たい景色があるんですよ」
俺はミルクを飲みながらそう言った。
「ほ。何かね?」
「まぁくだらない事なので黙秘で」
エルフやドラゴンを見てみたい。異世界に来たのならば、それは俺の最大の欲求だ。にしてもダンジョン以外では見ないんだよなー。セイントブルク神殿ダンジョンではアークドラゴンがフロアボスをしていたが。
もしかして秘境に引きこもっているとかそんな感じか? ドラゴンズピークとかあればそれはそれで面白そうだが。
「是非とも百階層をクリアしてくれ。結構期待しているぞい」
麦酒を飲んで、そう応援してくれるギルドマスター。
「まぁ微力を尽くしますよ」
それ以上は言えねえ。
「ちなみに四十階層のボスモンスターですけど……」
「ああ。アレは――」
そうして酒とミルクを飲み交わして、俺たちは話が弾んだ。ジュリアンとジュリエットもそこに加わり、話題は尽きない。俺的にはダンジョンの攻略情報が聞けるだけでもありがたいし、ギルドにとってもダンジョン攻略で素材をドロップさせると助かるしで、互いに補完し合う関係だ。
「では上層攻略も頼むぞい」
二十階層から四十階層は上層に分類される。Dランク冒険者の活動フロアなので、まぁな。




